昆虫採集と黒い鳥
小学2年生のころ、近所の林へ昆虫採集に行ったことがある。
バッタやセミを追いかけまわしていると、突然後ろから声をかけられた。
「兄ちゃん、この後ひどい目に合うぜ」
振り向くと、黒とオレンジの鳥が一羽いた。難しい顔をしてこちらを見ている。
ひどい目って、どんなことだろう。
「転んでけがをしたり、お母さんに怒られたり、宿題を忘れたり、色々だな」
どうしてそんなことが分かるのだろう。
「俺は全てを見通す目を持っているからな。ほらお前、さっき先生に怒られてたろ」
僕はびっくりした。今日のお昼休みに、廊下を走って先生に怒られたからだ。
「よかったら、ひどい目に合わないようにする方法を教えてやってもいいぜ。だが、タダとは言わん」
困った。財布の中には100円くらいしか入ってない。
「なに、金はいらない。そのうまそうなバッタを俺によこしてくれればいい」
僕の持っていた虫かごには、さっきまでに捕まえたバッタが数匹いる。
戦利品を手放すのは嫌だが、お母さんに怒られるのはもっと嫌だ。
一匹ずつくちばしに渡してやると、その鳥はバッタをうまそうに食べた。
気分が落ち着いてきたので、先ほどから気になってたことを聞いてみた。
「ねえ、そういえば君の名前はなんていうの?」
くちばしを掃除していたつまようじを止めて、その鳥はこちらを見た。
途端に口元をにやりと歪めて、
「俺は“ウソ”っていうんだ。バッタ、ごちそうさま」
ばたばたと翼をはためかせ、あっという間に飛び上がった。
後に残ったのは、空っぽの虫かごだけ。
誰にも信じてもらえない、夏休みのお話。
ウソとは涼しい地方の林に暮らす鳥です。
灰色の羽毛に頬の赤い模様が映え、こじゃれた色合いとなっております。