案内人とクソガキ
ギラギラと光輝く太陽の下、汗を拭いながら歩く男が居た。そう、俺だ。地球温暖化だが何だが知らねぇが、この暑さは異常だな。こりゃ国も騒ぐ。
「なぁそれ、涼しいのか」
隣で優雅に歩く ❰クソガキ❱ に聞いてみる。
「日傘のこと。まぁマシにはなるけど」
今は大人としてのプライドもブランドも捨てっちまおう。
「おおそうか、なら俺も入れてくれよ」
「暑苦しいからヤダ」
このクソガキ。ただでさえ暑さで腹が立ってる、つうのによ。暑苦しいからヤダってのはねぇだろ。
「ここまでの恩を忘れたのかぁ」
「 分かった。水ならあげる。飲みかけだけど」
差し出されたペットボトルを強く取り、がぶ飲みする。
「ぷは~生き返った。ん、返す」
これで今日一日は耐えれるな。
「 全部飲んだの」
喉が乾いてたもんだから・・・
「グアッ」
背中に痛みが。
「何しやがる、クソガキ」
「水を全部飲んだ、ツミ」
だからって日傘で殴ることねぇだろ。
「ツミが重いだろ」
「私のお金で、私が買った水を、全部飲んだツミ」
「 チッ」
何も言い返せねぇ。それに、勝ち誇った顔しやがって。こんなことになんなら、請けるんじゃなかった。こんな仕事。
【数ヶ月前】
「あなたが ❰案内人❱ 」
「じゃあお前が依頼人か 何だガキじゃねぇか」
報酬は十三億ってもんだから、経験からの勘で、どっかの王女さんかと予想してたんだが。的外れだな。やっぱ俺の勘は当たりにくいのか。
「何ジロジロ見てるの、キモい」
前言訂正。クソガキだな。
「んじゃ出発するか」
「行く場所言ってないけど」
あ~そういやそうだったな。まだ聞いてなかった。
「さっさと言えクソガキ」
「 日本のある場所」
その、ある場所を言えよ。空港からさっさと出てぇんだから、仕事柄。
「ある場所ってのは東京にあるのか」
「東京には無いね」
「 大阪」
「違う」
「北海道」
「全然」
「沖縄」
「全く」
他に何処かあるか。日本は詳しく知らねぇんだよな~つかさっさと教えろよ。
「じゃあ何処だよ」
声を荒げて聞いてみる。
「黙って付いてくれば良い」
「 それ、俺の必要があるか」
「何が」
「俺は案内人だぞ。そう言うのは別の、つまり、案内人である俺の必要はあるのか」
静寂の空気。俺はこう言う空気は嫌いなんだよ。気まずいから。
「 もういい。さっさと出ようぜ、こっから」
逃げた訳じゃねぇぞ。さっきも言ったが、仕事柄、さっさと出ておきたい・・・
「あッ」
腹に来る強烈な痛み。刺されたな。だから、出たかったんだ。
「これで邪魔は居ない」
十三億の報酬だぞ。その分危険性は在るってことだ。追っ手の一人や二人くらいは、居ると思ってたんだ。
「死ぬのは怖いか」
「 怖い」
なぁんだちゃんとガキじゃねぇか。
「なぁ兄ちゃん。コレ、分かるか」
左腕を首の前に、右手に持ったピストルを頭に突き付け、聞いてみる。
「何故生きている」
「防刃コートを着てまして」
血はだらだら出てるが死にはしない。
「準備万端と言う訳か。それで、何の用だ」
「 お前は ❰殺し屋❱ か」
トントンとピストルを頭に当てながら聞いてみる。
「正解だ」
当たって欲しくなかったな。
「取り敢えずこのまま、出ようぜ。殺し屋」
お互い仕事柄目立ちたくねぇからな。
「 仕事は失敗した」
「あぁ・・・」
鳴り響く銃声。自分から引きやがった。失敗したから死ぬなんて、命が軽いもんだな。それに、失敗すれば死ぬ程の依頼ってわけか。
「 あ~その、何だ。逃げるぞ、クソガキ」
【現在】
で、空港から逃げたあの日から、ずぅと歩いて今は、どっかの山道に居る訳だが。
「 なぁ何処に向かってんだよ」
「秘密」
何時まで経っても言わねぇんだよなぁ。ゴールが見えねぇと、頑張れるモンも頑張れねぇ。
「せめて距離だけでも教えろよ」
「 もうすぐ、着くよ」
・・・は。いきなり言うなよ。どうせはぐらかされると思ってたのに、なに考えてんのか分かんねぇ。
「ねぇ、今までどんな人を案内したの」
「んで俺が、教えなきゃいねぇんだよ」
「水のツミ、後、私も教えた」
このクソガキ。
「 分かったよ。あ~そうだな、❰大犯罪者❱に❰裏社会のボス❱、❰どっかの王女さん❱や、❰金持ちのとこの令嬢❱、❰政治家❱に、❰死に場所を探してるヤツ❱。ざっとこんなもんだな」
他にも居るが、言ったら俺が殺されるからな。
「 仕事で失敗した事は」
「 成功は失敗に付いてくるモンだぜ」
暑さで訳の分からん事を言っちまったが、まぁ良いか。
「カッコつけてるの」
「るっせぇ。暑くて頭が回んねぇんだよ」
「じゃあそれ脱いだら」
脱ぐって、コートのことか。
「 お前は俺に死んで欲しいのか」
静寂の空気。何か言えよ。
「 たくっ何で黙んだよ」
「 事実だから」
あ、コイツなんつった。
「事実ってのは、俺に死んで欲しいってヤツか」
「そうだけど」
認めやがった。いや、何時もの冗談か。それにしては、目がマジだしなぁ・・・兎に角この静寂の空気をどうにかしてぇ。
「あ~そのなんだ。疲れてんのか」
「多少は」
ほう、そうか。疲れてるから変なこと言っちまったんだな。そうに違いねぇ。
「そうか、んじゃどっかで休むか。それとも・・・」
来た道からエンジン音と共に車が走ってくる。ちょうど良い。あの、車に乗せて貰うか。
「お~い。止まってくれ」
右手を掲げながら大声でアピールする。さっき水飲んでよかった。
「 止まるわけないじゃん。ほら、通り過ぎた」
嘘だろ。日本人は優しいって聞くぞ。それとも、俺のアピールが不味かったか。
「・・・あ、いや。止まってんぞ」
そうか、そうだよな。急ブレーキは危ねぇもんな。
「 おっしかも、バックで戻って来るし。やっぱ日本人は優しいんだな」
クソガキの方から冷たい視線を感じるが、気のせいにしておこう。つか、この視線で暑さが失くなっちまえば良いのにな。何て思ってたら、俺の直ぐ前にまで車が、来てくれた。
「いや~すいませんねぇ。ちょっとお願いしたいことが・・・」
おっ車から降りてきてくれたし。にしても、大男だな。二メートルはあるだろ。
「ちょっとそこまで、乗せてくれません」
「 残念だが、無理だ」
そう言い捨てた途端だ。体が後ろに吹っ飛んだ。いや、吹っ飛んだと言うよりは、殴り飛ばされた。勿論、顔面ストレートだ。
「え、何で」
クソガキが動揺してやがる。たくっ慣れろよ。いきなり一般人が殴ってくるか。
「あっ」
どうやら理解できたみてぇだな。
「クソ、油断した」
口から出ている血を拭いながら、立ち上がる。
「ほう、立つか。流石は、彼の有名な案内人だ」
どの有名かは知らねぇが、取り敢えず、メンドクセェな。
「やはり先に、殴っておいて正解だった。私の拳を耐えたのはあなたが初めてだ」
「 お前はゴリラか」
そう言いながら、ピストルを取り出す。
「悪いが俺は、現代兵器使わせて貰うぞ」
「構わんよ」
いや、引けよ。お前どうせ、拳で殺しに来るヤツだろ。
「おい、クソガキ~こっちこい。あと、ゴリラァ、動いたら撃つからな」
戸惑いつつもクソガキは俺の方に来る。ゴリラは動かねぇ。よっぽど自信があるんだな。
「クソガキ、何時もの事だから分かると思うが、一応言っとくぞ。俺が撃ったら離れろ。そんで・・・」
「守れる範囲内には居とく、でしょ」
分かってんじゃねぇか。なら撃つか。
「おら、走れ」
クソガキは走った、俺が撃った弾は当たった。んで死なねぇ。
「防弾チョッキを来てるんですよ。特殊な」
どいつもコイツも準備万端って訳か。
「と言っても、何発も撃たれれば効果は失くなりますがね」
「 へぇ~何でそんな事言うんだ」
取り敢えず今は押っ始める前に、クソガキとの距離を離してぇ。その為には、話しに乗ってやんなくちゃな。
「簡単な話ですよ。私は平等にしたい、それだけです」
「平等にしてぇ癖に、先に殴るんだな」
「あなたは対象を先に手にしている。ですので、先に殴らせて頂きました」
もう少し、もう少しだけ距離を離したい。何かあるか、コイツと話せるモン。
「 お前、拳だよな。俺はピストル使っちまってるが、良いのか。こっちの方が有利だぞ」
「確かにそうですが、私はここ数ヶ月間あなたを見てきました。あなたは様々な人間と戦ってきた、しかし、あなたが使うのはピストルだけ。そこで私は、こう考えました。あなたは近接の戦闘が苦手ではないかと。どうでしょう。合っていますか」
「 合ってるよ」
「さらに、あなたはこの数ヶ月間で一度も残弾の補充をしていない。なので、あなたがピストルを撃てる回数は残り、五回程度ですよね」
そこまで見てんのか。
「そうだよ、あと五回しか撃てねぇんだよ」
あ~こんなことになるなら、もっと持ってくりゃ良かった。
「で、平等だと」
コイツ、マジでなにモンだよ。只の殺し屋って訳じゃねぇよな。どっかの特殊な機関の人間か・・・聞いてみるか。
「お前、なにモンだよ」
「 そうですね。強いて言うなら、❰バランサー❱ ですね。全世界を平等にし、平和にする夢を見る、バランサー」
「 そんな夢を持ってんのに、人を殺すんだな」
「私の夢に近づくと言うのなら、仕方のない犠牲です」
このゴリラ、イカれてやがるな。
「もう良いですか、十分に離れたと思いますが」
俺の考えは分かってた上で話してたのか。
「待ってくれてありがとな」
そう言って問答無用で、引き金を引き、ブッ放す。が、まるで吸収されたかの様に、ヤツには効いていない。
「では、私も行きましょう」
そう言って走ってくる。だが所詮は拳。こっちは距離さえ取りゃ・・・
「マジか」
十メートル位はあったはずなんだが、一秒もせずに俺の足元まで来やがった。しかも、ちゃんと拳を握ってやがる。そして、刹那。
「ぶへぇ」
あ~吹っ飛ばされた。しかも、アゴが殴られた。クソイテぇが、気を失わなかっただけマシか。
「あっ言い忘れてました。私、中学生の頃まで、五十メートル走では、毎回一位でした」
「 高校からはどうしたんだよ」
そう言いながらアゴを抑えつつ、立ち上がる。
「残念ながら、高校には事情がありいけませんでした」
ん。こりゃアレか、聞いちゃいけないヤツだったか。
「悪りぃな。聞いちまって」
「 ああ、そこまで深いものではありませんよ。試験当日に仕事が入っただけですから」
中坊の時には、こっちの世界に居たのかよ。んじゃ・・・
「死ねェ」
目を凝らしながら撃つ。どこに行っても反応できるように。
「ぐえぇ」
服の襟を持たれる。クソ苦しい。つか、何で後ろに居るんだよ。見えなかったぞ。
「あっ」
宙に投げ飛ばされる。おいおい、ここは山頂付近の山道だぞ。落ちたら・・・
「失礼」
ゴリラが俺の腕を掴む。って待て待て、何でお前も来てんだよ。
「うおっ」
さらに、勢いを増し落下する。追い討ちをかける為だけに、自分も来るか。ってツッコんでる場合じゃねぇ。落下地点は・・・湖か。大きく息を吸い込み、歯を食い縛る。衝撃に備えろ。
「ウグッ」
背中に大きな衝撃。どうやら、底は浅かったらしいな。まぁ良い、さっさと起きねぇと。
「水深は、足首までか。浅せぇな。ピストルは、どっか行ったか。で、ゴリラは」
目の前で直立してやがる。どうなってんだよ、その体。
「どうやら、ピストルを失くしたみたいですね。では、平等にしましょうか」
そう言うと、上の服を脱ぎ始める。いや、何でだよ。
「先程言った通り、私は特殊な防弾チョッキを着ていますので、大抵の攻撃は通りません。なので、通すために脱いだ訳です」
「 大変だな、お前」
もう呆れを通り越して、尊敬するよ。その徹底ぶり。そんでもって、ここからは。
「 ハハッ、殴り合いって訳か、ゴリラ」
「ゴリラと言うのは、少し失礼だと感じます」
「 感性が有ったことに驚きだな」
静寂の空気。寒いことでも言ったか。
「 有りますよ多少は、ね」
ゴリラがそう言うと、突如目の前が見えなくなる。水しぶきだ。俺の足元に、右ストレートを放ってやがる。俺はその場から離れようと、後ずさろうとするが、刹那。左足による蹴りを繰り出される。
「ゴアッ」
俺は軽く吹っ飛ばされ、意識が朦朧とする。どうやら、頭から突っ込んだらしい。
「 なぁ、不平等じゃねぇか」
そう言いながら、立ち上がる。
「何がです」
「 お前とのフィジカル差だよ」
「 身体能力のことですか」
そうさ、俺とゴリラには身体能力差がある。平等、平等つうなら、この差も埋めなきゃなぁ。
「では、どうしたら良いのですか」
「 そうだな、真っ正面に突っ込んでこい。下手な事せずにな」
さぁどうする。イカれた平等主義者。
「良いでしょう。それで、平等になるなら」
やっぱイカてんな。んな、ことを思ってると、ゴリラは真っ直ぐに突っ込んでくる。それに伴い、俺も走って行く。そして・・・
「悪りぃな、俺は平等何てモンに興味ねぇんだ」
ゴリラ頭にはナイフが刺さっている。
「持っていたのですか」
おいおい、頭にナイフ刺さってんのに、喋れんのか。ゴリラとかのレベルじゃねぇな、コイツ。
「隠してたんだよ」
答える義理はねぇが、何だ、頑張り賞的なヤツだ。
「空港で刺されてな、足が付かねぇから、盗んでたんだ」
俺はそう言いながら、近づく。
「 なぁ、俺も聞いて言いか」
「 何をです」
ずっと気になっていた事がある。
「 あの、クソガキは、何なんだ」
「 知らないんですか」
「知らねぇから聞いてんだろ」
そう言って頭に刺さっている、ナイフを引き抜く。
「そうですね、簡単に言えば、アレは世界を滅ぼしますよ」
「 オカルト、それともファンタジーの話か」
ナイフに付いている血を、湖の水で洗い流す。
「アレは、とある国の今は亡き王女の、娘です」
今は亡きねぇ。一人思い浮かんだが、まさかな。
「それが、どう世界を滅ぼすんだ」
気のせいにしつつ、話を進める。
「莫大な金と、世界中のデータを、生前の彼女は持っていました。それを、遺産として、アレに渡した」
「 金に関してはよくある話だが、データってのは何だ」
「国家機密。つまり、世界を引っくり返すような馬鹿げた、データです」
オカルトじゃねぇが、ファンタジーではあるのか。
「勿論、あなたのデータだってあるはずですよ」
「へぇそりゃ何でだ」
「 お忘れですか。あなたは過去に、この国の案内を任されたはずですよ、王女に」
そこまで調べてんのか、コイツ。
「 そして、仕事に失敗し、王女は銃殺された」
あ~それで、あのクソガキ、俺に死んでほしかったのか。
「全て、理解できましたか」
「おお、ありがとよ。んじゃ死ね」
そう言って、首を掻っ斬る。
「 流石に首斬りゃ死ぬだろ」
ぶっ倒れたゴリラを確認してから、後ろを振り向く。
「よぉクソガキ、終わったぞ」
立ち止まるクソガキの肩を、軽く叩き前に進む。
「 ねぇ聞かされたでしょ」
「 おう、まぁな」
「 手を引いた方が良いんじゃない」
・・・やっぱり、コイツはクソガキだな。
「俺は案内人。最後まで案内するのが、俺の仕事だ。例え誰が相手であろうとな」
例え気まずい、クソガキ相手でもな。
「ほら、行くぞ」
「 うん」
それから、二日が経ち、目的地に着いた。勿論と言うべきか、その間は静寂の空気だった。
「 ここが、目的地」
正直驚いた。まさか・・・
「墓とは思わなかったでしょ」
あ~つまり、アレだな。墓参りって訳か。
「 ここだよ」
入って五分程度の場所に、クソガキの母親の墓はあった。
「 線香とか持ってんのか」
「線香はあるけど、花が無い」
花は日が持たねぇしな。
「その辺のヤツ、盗るか」
「それは駄目だよ」
まっそりゃそうか。
「ねぇ、私作法とか知らないんだけど」
「 あ~俺も詳しくは知らねぇが、手を合わせて拝めば良いんじゃないか」
「 分かった」
そう言って線香に火を灯し、線香を置く。
「 暑いから、木陰に居るぞ」
一人にさせた方が良いだろ。
「 」
俺の勘は当たってたみたいだが、こうなるとはな。長年やって来たが、こんなことは初めてだな。
「終わったよ」
憑いてたモンが落ちた顔になってやがる。
「 」
「 」
何か言えよ。あ~しゃねぇ。俺から言うか。
「なぁ、これからどうするんだ、クソガキ」
「帰るよ、家に」
「そうか」
まぁ当たり前だよな。墓参りは終わったんだから。
「 」
「 」
「 俺の事は殺さなくて良いのか」
前に死んでほしいって言ってたしな。
「 お母さんは、それを望んでるとは思えないから」
「クソガキとしてはだよ」
「 殺したいけど、仕事とは言え、恩はあるし」
恩なんて忘れりゃ良いのに。
「そうか、じゃさよならだな。金は入金しとけよ」
「 口座聞いてないけど」
「 俺のデータもあるんだろ」
「あるけど」
「けどって何だよ」
まだ、何かあるのかよ。
「 追加で依頼って駄目かな」
はぁ。なに言ってんだ。
「ほら、帰りだって狙われてるし」
「 金はあんのかよ」
「追加で五億」
「乗った」
・・・あ。
「 チッ」
クソ、金に目が眩んだ。
「じゃ頼むよ、案内人」
勝ち誇った顔しやがって。
「 家ってどこだよ」
「世界のどこか」
・・・この、クソガキ。