時雨誠 レインと名乗る
『暗黒騎士』
なんだこの厨二心をくすぐる名前は……。
めっちゃカッコイイじゃないか。
よし決めた。これにしよう。
暗黒騎士になってやるぞ!そう心に決めて、早速ダウンロードした俺は、そのまま眠りについてしまった。
〜〜〜
「……あれ?」
目が覚めると見覚えのない天井があった。
ここはどこだろうか? 確か昨日は、新しいゲームを買ってそのまま寝てしまったはずなのだけど……。
「お目覚めですか」
突然声をかけられたのでそちらの方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
年齢は20代前半くらいに見える。
綺麗な女性だと思った。
「あの……どちら様でしょうか?」
「申し遅れました。私は女神フローラです」
はい? 何を言っているのだろうこの人は。
きっと頭が悪いに違いない。
「すみません。用事があるんで失礼します」
関わり合いにならない方がいいと判断し、立ち去ろうとすると、彼女は慌てて引き止めてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!本当なんですってば!」
「じゃあ証拠を見せてください」
「しょ、しょうこ……ですか」
急に彼女が黙ってしまった。
一体どうしたというのだろう。
まさか、本当に女神だとでもいうのか? そんな事を考えながら彼女の返答を待つこと数秒。
「わかりました。見せましょう!」
えっ!? 見せるってどうやって……
「えい!」
瞬間、俺の周りに光のようなものが集まってきて眩しい。
俺は目を瞑った。
そして、光が収まった頃、恐る恐る目を開けると先ほどまでいた場所とは違う場所に居た。
「うわぁ……」
目の前に広がる光景を見て思わず声が出てしまう。
なぜなら、そこはまるでファンタジー世界のような景色が広がっていたからだ。
周りを見渡すと、街と思われるような建物や人がたくさんいる。
「すげぇ……」
「ふふん。驚きましたか?」
いつの間にか隣にいた彼女が自慢気に言ってくる。ったか。
これは関わらない方が良さそうだ。
そう判断して帰ろうとしたのだが、彼女に腕を掴まれ止められてしまった。
「待ってくださいよ!まだ話は終わっていないんですよ!」
「もういいじゃないですか……。それよりも早く家に帰してくださいよ……」
「それができないから困っているんじゃないですか!!」
どういう事だよ。
意味わかんねぇよ……。
もしかして、これは夢なのかなぁ。
試しに頬っぺたを引っ張ってみた。……痛いな。
ということは、これは夢ではないということなのだろうか。
「あなたには今からこの世界で暮らしてもらいます。異論は認めません!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!」
こうして、俺の生活が大きく変わっていくことになった。
これからどうなるんだろう……。
不安しかない……。
「それで、これから俺はどうすれば良いんですか?」
「まずはステータスの確認をしましょうか」
「ステータスって、ゲームでよく見るアレのことですか?」
「そうです。その認識で合っています」
それなら簡単だ。
だって、いつもゲームする時に見たりするからね。
慣れていると言っても過言じゃない。
早速やってみよう。
「ステータスオープン」
そう言うと、目の前に半透明の板が現れた。
そこにはこう書いてある。
時雨誠
Lv.1 職業:暗黒騎士
HP:50/50
MP:15/15
攻撃力:25
守備力:18
魔力 :12 素早さ:10 スキル
・闇属性魔法Lv.MAX・影魔法Lv.3
・気配察知Lv.2・剣術Lv.4・短剣術Lv.3 称号 全能の神の加護
これが今の自分のようだ。
レベル1で職業が暗黒騎士だから、結構強い方だと思う。
それにしても、このステータスを見る限りだと自分は魔法特化型なのだろうか。
「どうやら自分のステータスは確認できたみたいですね。ちなみに、その画面は他人からは見えませんので安心してください」
「そうなんですか。それは良かったです」
「では次に、職業について説明させていただきます」
「お願いします」
「職業というのは、それぞれの職業によってできることが違うのです。例えば剣聖なら剣を使った攻撃に特化しています。賢者なら回復が得意だったり、暗黒騎士なら魔法を使うことに長けていたりと、様々な特徴を持っているわけです」
「へー、そうなんですね」
「はい。そして、あなたの場合なのですが……。あなたの場合は特殊というか……まぁ、とりあえず凄いんですよ」
「なんか適当になってません?」
「気のせいです」
気のせいらしい。
別にどうでもいっか。
「とりあえず、あなたの場合ですけど、全ての能力値が高いです。普通はバランス良く上がるはずなんですけどね……。それと、一番気になるのが固有スキルです」
「ユニークスキル?なんですかそれ」
「固有スキルとは、他の人とは違う特殊なものになります。例えば私で言うと、【全能の女神】というものがあります」
「おぉ!めっちゃカッコイイですね」
「そ、そうですか?ありがとうございます」
褒められるのに弱いタイプなのだろうか。
なんだか可愛いところがあるな。
「話を戻しましょう。あなたの固有スキルなのですが、これまた変なものばかりでして……」
「どんなものがあるのですか?」
「まず、この世界には存在しないはずの魔法である闇属性魔法や、影魔法といったものが使えたりします。そして、極めつけはこの称号ですね」
「称号?」
「はい。この称号というのが曲者でして……」
「そんなにヤバイ感じの称号なんですか?」
「いえ、そこまで危険なものではないのです。ただ、効果が強すぎるだけなんです……」
「効果が強い……?」
「はい。まず、【全能の神の加護】。これは、神と同等の存在になれるというもので、その効果は絶大です。あなたは今、女神と同等の存在になっているのです」
「えっ!?」
どういうことだよ……。
俺が女神と同じ存在……?
「そして、次ですね。あなたのステータスを見てもらえればわかると思いますが、あなたの能力は異常です。普通の人間であれば、ここまでの数値は出ないでしょう。そこで、私はあなたのことを『転生者』ではないかと考えてみました」
「転生者……ですか」
「はい。この世界とは別の世界からきた人の事を言います。あなたのステータスを見ていると、確かにこの世界の住人ではありません。おそらく、別の世界からやってきたと思われます。この世界には、そういった異世界からの訪問者のことを、異世界転移者や異世界召喚者と呼ぼうと考えました」
「なるほど。つまり、俺はこの世界の住民ではないということですね。だから、この世界の常識を知らなかったりするのでしょうか……」
「そういうことでしょう。この世界には異世界から来る人はたくさんいますので、気にしない方が良いですよ」
「わかりました。気にしないようにします」
「では最後に、あなたの名前を教えて下さい」
名前……か。
この世界で生きていくなら、新しい名前を自分で考えないといけないのか……。
うーん……。どうしようかなぁ……。
よし、決めた。
「俺の名前はレイン。今日から俺は、レインと名乗ることにします」
「そうですか。いい名前だと思いますよ。これからよろしくお願いいたしますね、レインさん」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうやって俺の新しい生活が始まった。
これから先、一体何が起こるんだろう……。
とても楽しみだ。