プロローグ
──薄れゆく意識の中、何者かが自分の体を包囲しているのが分かった。
自分に這いつくばり、意識がなくなっていく理由を知りたくて、
顔を上げようと試みるが、それは叶わなかった。
無力な自分を見せつけまいとして目の前に手を伸ばした。
…それも叶わなかった。
ここまで抵抗しても、結局辿る人生は同じなんだと悟った。
──俺、死ぬんだな。
助けを呼びたくて、大声を出そうとしても、
喉の奥からの痛みがそうはさせない。
今まで経験したことのない痛み。徐々に体は謎の力によって衰弱していく。
ついには、前も見えなくなった。
しかし、自らが目をつぶったわけではなかった。
恐らく、白目を剝いたのだろう。
あまりの苦しさに。あまりの辛さに。
…いや、現実から目を背いたという意味からしたら"目をつぶった"のかもしれない。
死ぬ前に、やり残したことを思い返す。
…やり残したことは多すぎた。死を受け入れたくなかった。
──死に、たくない…
──誰…か…
声にならない叫びという物を痛感した。
どうしても声が出なかった。
それでも、全身全霊を振り絞った。
「─俺には…やりたいことが…あるんだ…」
「─ゴフッ!?」
無理をしたせいか、声と同時に口から出たのは血だった。
もう、いつ死んでもおかしくなかった。
──こうなるんだったら…あんな事なんて…
「──しょうがない人ですね」
透き通った声。その声を
俺…倉吉潤也は知っていた。
その刹那、その声を最後に──
俺の意識は完全に途絶えた─