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37.つくりましょー、つくりましょー

【丸薬】作りの達人は、港町ラフテリアからポータルで東へ飛んだ先に住んでいるとのこと。

 青年の情報をもとにたどり着いた『ヤマト』の外観は、とにかく和風の一言。

 聞けば、忍者へのクラスチェンジもこの辺りで行われるらしい。


「丸薬は元々、忍者の携帯食っていう色合いが強いんだよ。張り込みの最中に食べたりしてたんだって」

「なるほどなぁ。ていうか雪村って、普段どんなもの食べてんだ?」


 聞いた瞬間、雪村の表情が曇り出す。


「昨日の夕食はひじきと、お豆腐と、漬物と……」

「確かにテンション上がんねえものばっかだな……スピカはどうなんだ?」

「ハンバーガー、ピザ、フライドチキンのローテーション。それ以外はコーラ片手にハムをかじってる」

「それはそれで不健康極まりねえなぁ……」


 質素な雪村家と堕落のスピカ。どっちが酷いんだろう。

 いや、どっちもか。


「ヌーバーに頼んで、住んでるマンションに持って来てもらってる」

「それ、大凧で窓から届けに来たら雪村の父親だぞ」

「まだやってないよ! ……たぶん」

「断言はできないんだな」

「……その時はよろしくね、スピカちゃん」

「分かった。雪村あてに私の好きなお菓子を持って帰るよう渡しておく」

「うん……ありがとう」

「今ならフルーツタルトがある」

「わあ!」

「喜んでる場合か」


 すぐさま満面の笑みを浮かべる雪村に、ツッコミを入れる。


「ちなみに翔太郎」

「なんだルリエッタ」

「わたしは最近、唐揚げにタルタルソースを乗せて食べるのにハマっているぞ」

「お前はお前で成長早すぎだろ……」


 得意げなルリエッタ。

 先日唐揚げを紹介したばっかなのに、早くも禁断の領域にたどり着いてるとか。学習能力ヤバいな。


「おや、あなたたちは?」


 たどり着いたのは、京都の町屋のような一軒家。

 町外れに位置したその家は、なかなか大きなたたずまいをしてる。

 声をかけて来たのは、長めの黒髪を結んだ着流しの青年だ。


「解毒の丸薬の作り方を学びに来ました!」

「なるほど。父はとにかく新作の実験台……試食者を欲している。まずは丸薬を食し、必要な効果のものを見つけ次第その製法を聞くといい」


 ……今なんか、不穏な言葉が出てきたような。


「ただ父はとても気難しく、一度製造を始めたら熱くなってしまう人間だ。機嫌を損ねたらそれまでということだけは覚えておいてくれ。特に、勢いだけは止めてしまわないように。嘘でも『おいしそうに』食べるんだ」

「分かりました!」


 気合十分。

 雪村は格子戸を開け、室内へと踏み込んでいく。


「ねえ翔太郎くん。ぽむぽむ印のスイーツ丸薬ってどうかな」

「スイーツ丸薬? さすがにそんな味は出てこないんじゃねえか?」

「あるぞ! フローズンベリー味とか、キャラメルマキアート味なんかも用意されている。ただ、効果と味の両方がそろったものが出るかどうかが問題だな」

「なるほど、味と効果に関してはガチャみたいな感じなんだな」


 味は良くても求めてない効果だったり、効果はいいけど味が嫌いなんて形もあるわけか。

 同じ効果でも味が変わるって状況で、どこまで『やり込む』か。

 そこに味覚がからんでくるあたり、なんともこの世界らしいシステムだ。


「それなら出るまで食べ続けるよ! そしてなんとしても……美味しい丸薬を作ってみせる!」

「毒に効くやつを作れって」


 意気込む雪村と楽しそうなルリエッタの後に続く。

 大きなつづらとスリ鉢の置かれた板の間には、長い白髪の爺さんが一人。


「新たな被験……試食者か。ちょうど新作案が溜まっていたところだ。すぐに始めるぞ。ワシは次々に新たな味を作っていく。お前たちはそれを食して効果を確認、必要なものがあれば製法を記した巻物を与えよう」

「分かりました!」


 さっきからちょいちょい聞こえて来る、不穏な単語はなんなんだ……。

 材料の入ったつづらを取り出した爺さんは、水の入った湯呑を配ると、並んで座る俺たちに背を向ける形で丸薬作りを始めた。


「試食は順番でいくか。狙いはあくまで【解毒】。それ以外にも良いものがあったら持って行くって形で」

「それでいい」


 同意するスピカに、雪村とルリエッタも続く。


「……ふむ、これは一時的なHPアップに効きそうだ」

「お、いきなり良いのが来たな」


 大きさは団子一粒より一回り大きいくらいか。

 出された丸薬を、まずは雪村が口にした。

 その表情に変化なし。それを確認して爺さんは丸薬作りを再開する。


「雪村、どうだった?」

「黒アメの味だった」

「ダメなのか?」

「黒アメを好きな人なんて、世界に一人もいないからね」

「そこまで言わんでも……」


 確かに黒アメが好きなヤツとか、見たことないけど。


「お、これは耐熱効果があるぞ!」


 新たな丸薬を口に含み、今度はルリエッタがそう言った。


「ルリちゃん味は!?」

「ナスの漬も――」

「次いこう!」


 判断早えな!

 雪村のヤツ、本気で厳選していくつもりじゃねえか。


「次は魚のアラを使った丸薬だ。これには腕力向上の効果がある」


 お、これも効果が良い感じだぞ。

 爺さんが作り出した新たな丸薬を、受け取るスピカ。

 その手が、ピタリと止まる。


「どうしたスピカ?」

「……すごく、魚臭い」


 うげ、マジかよ。生臭いってのは結構キツイぞ。

 しかも魚介系の生臭さは、後に引くからなぁ。

 硬直したままのスピカに、振り返った爺さんの目が鋭く光る。


「どうした? よもや、食べられぬと申すのではあるまいな」


 ……なるほど。

 このクエストの要点は、こういう当たり外れの駆け引きか。

 マズいぞ。このままじゃ爺さんの機嫌を損ねちまう。

 とはいえジャンクフード生活のスピカに、これはキツいだろうし……。


「……翔太郎」


 思案してると、不意にスピカが顔を上げた。


「どうした?」

「私、皆とクランを作りたい。だから……がんばる」


 そう言って、手にした丸薬を口に押し込んだ。


「ッ……!?」


 すぐさまその目に、涙が溜まっていく。

 スピカは手をバタバタさせながら小さな嗚咽をもらし、やがて肩をグッとすくめる。

 それでもどうにか三度ほど咀嚼して、水で一気に流し込むと――。


「……っ、問題……ないっ」


 真っすぐ前を見て、そう言った。

 それを確認して、爺さんは丸薬作りに戻る。


「スピカ、お前……っ」


 こんなの見せられちまったら、負けてらんねえじゃねえか……。


「次は俺だな。爺さん、早く新しいのをくれ! どんなにマズかろうが、必ず食べ尽くしてみせる!」

「ふむ。活きがいいな。ならばお前にはこの、鬼殺唐辛子を使った丸薬だ」

「……えっ」


 ちょっと待て、激辛とかも出してくんの?


「効果は耐寒。鬼ですらその辛さで死ぬという特別な唐辛子だ。さあ、食すがいい」


 そのバカみたいな赤色に、思わず手が止まる。

 ていうか、持ってるだけで目に染みてくるんだけど!


「さっきまでの勢いはどうした?」


 煽って来るジジイ。

 見ればスピカはまだ、小さくせき込んでいる。

 生臭さがなかなか消えないんだろう。


「……じょ、上等だよ! 辛さくらいで俺の勢いは止まらねえ! こんなの一発で食い尽くしてやらぁ!!」


 俺は鬼殺唐辛子の丸薬を口に放り込むと、噛んで、噛んで、一切の躊躇もなく嚥下するゥ!


「翔太郎、大丈夫?」

「……あれ? なんだよ、別に辛くないじゃねえか」


 なるほど、要するにこれは『覚悟』を試す形だったんだな。

 わざわざ先にその赤さを見せつけたり、鬼殺の説明をしたのはそういうことだったんだ。


「ま、そりゃそうだよな。そんな地獄みたいに辛い丸薬を食べさせるゲームなんて聞いたことないねえし、覚悟を試すくらいが精々でああああーッ!! あああああああーッ!!」


 ななななんだこれ、ノドが腹が、食道が、全てが焼けるぅぅぅぅ――――!!


「ああああああああーっ! うはあああああああああっー! ちゃんと辛い! ちゃんとめちゃくちゃ辛いィィィィィィィィ――――ッ!! あひっひっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 熱ィ!! 全身が焼けるように熱ィィィィ!!


「どうした? そんなに床を転げ回って?」

「あ、い……いえ、その……とっても刺激的ですぅぅぅぅ!!」


 口に水を流し込みながら叫ぶ。


「……そうか」


 そう言ってボケジジイは、再び丸薬作りに戻った。

 こ、この勝負、思ったよりヤバい!

 早く『解毒』の丸薬を引かないと身体が……いや、精神がもたねえぞ!!

お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。


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