21.女騎士とオーク
「思っていたのとは、まるで違う感じになったな……」
壁一面を丸々使ったモニターを見ながら、長瀬流一郎は口元を引きつらせた。
「負けるはずのボスには勝つし、あの子は三人の仲間になるし……ていうか、どうして君は半泣きなんだ?」
「いえ、彼女はずっとつまらなそうに個人行動していたので。楽しそうでよかったなと」
「……そう」
開発部の男が涙目になっているのを見て、流一郎は軽く引く。
「ま、まあ、他にいくらでもやりようはある。ここは少し様子見と行こうか」
そしてまた、モニターに視線を戻した。
◆
【名前】:スピカ
【クラス】:賢者
レベル:32
HP:318/318
MP:398/398
腕力:1(+8)
耐久:1(+28)
敏捷:1
技量:1
知力:94(+31)
幸運:1
武器:【杖・メリクリウス】攻撃8 知力23
防具:【星天の頭飾り】防御4 知力8
:【賢者のローブ】防御24
スキル:【蒼炎墜下】【氷天嵐舞】【水星逆行】
【知星・フォーマルハウト】【幸星・レグルス】
遺跡を後にした俺たちは、あらためてスピカのステータスを教えてもらっていた。
「またずいぶん極端に知性を特化させてんなぁ」
「魔法の威力は、おおよそ知性の数値に依存する」
「なるほど。高い知性値をさらに占星術で上げることで、一撃必殺の魔法が撃てるってわけか」
その分、レベルの割にHPが低いって感じだな。
それでも俺の十倍くらいあるけど。
「さて、次はどこに行こうか」
「雪山はどうだ? 今が頃合いだぞ!」
「頃合いってなんだよ」
「ちょうど吹雪が発生するタイミングだし、雪男も暴れ回ってるから面白くなること請け合いだ!」
「惨劇になる予感しかしねえ……」
雪男から逃げ切ったと思いきや、雪崩が来るパターンだろそれ。
ルリエッタの言う面白いは、どうも『事件』に寄ってる気がするんだよなぁ。
まあ、正直俺もそういうの「面白そう」と思っちゃうけど。
「た、助けてください!」
そんなことを話しながら歩いていると、突然小奇麗な格好をした壮年の男が駆けつけて来た。
男は俺たちの目前にヒザを突き、頭を下げる。
「お願いします! お力を貸してください!」
「もしかしてクエストか?」
「そのようだな!」
「オークの軍団に襲われて、女王様が一人で戦っているのです!」
「よし、行ってみようぜ!」
「おー!」
走り出す壮年の男。
その後を追うと、草原から林へとつながる道の途中に騎士の姿が見えた。
襲い来るオークを斬り伏せる、凛々しい目をした女騎士。
しかし、その隙を狙って飛び掛かって来たオークへの反応がわずかに遅れる。
「やっ!」
そこへ雪村が、忍刀による連撃を叩き込む。
間髪置かずに炸裂するスピカの魔法に、倒れるオーク。
「いいコンビネーションだな。よし、負けずに俺たちも――――おえええ」
さっそく粘液を吐き出していく。
スピカが「え、なにそれ?」みたいな顔したけど、気にしたら負けだ。
そしてここから――。
「かかってこい! この豚野郎!」
「かかってこーい!」
ルリエッタと二人、オークを挑発する。
「グオオオオ――――ッ!!」
ブチ切れたオークは、斧を手に襲い掛かって来た。
あとは粘液に足を取られたところで……はいチャンス!
粘液オークを二人がかりで斬る! 斬る! 斬る!
俺たちだけ戦い方が『狩猟』になってるけど、そこは考えてもしょうがない。
今はとにかく叩くに限る。
「よし、あと一匹だ!」
豪快に両手剣を振るう女騎士の活躍もあって。オーク軍団はあっという間に壊滅寸前。
「これで終わりだ!」
最後の一匹にトドメを刺そうと、女騎士が走り出し――。
「待て! ハーレイン!」
制止の声に、足が止まる。
現れたのは、武装したオークの軍団だった。
その真ん中に立っているのは、リーダーらしきマント姿のオーク。
「ハーレインよ、そろそろこの戦いにも終止符を打たないか?」
オークがしゃべった……。
「終止符だと……?」
「我々は長きに渡って戦を繰り返してきたが、このままでは互いに死者を増やすばかりだ」
「確かにな。だが、どうやって戦いを終わらせるというのだ」
「我が王城にて、『接待』による正式な勝負を申し込む」
「接待だと……?」
「我らは戦技だけでなく、文化においても修練を続けてきた。その妙技に動じなければお前たちの勝ちだ。我々は大人しくこの地を去ろう。だが」
「こちらが負けたら、土地を差し出せというわけだな?」
「その通りだ」
「……いいだろう、その勝負受けて立つ! 我らがユグバリアは小さくとも誇り高き騎士の国! そして私は代々続く王家の末裔だ。愛する民のためにも、貴様らになど負けはせん!」
「決まりだな。勝負は今夜、我が城にて待っているぞ」
オークのリーダーは、軍団を引きつれこの場をあとにする。
「これ……結構大きなシナリオだよな」
「負けるとこの一帯のオーク占有率が上がるぞ」
なるほど、結果次第でマップや今後の展開に影響してくるのか。
「旅の者たちよ、加勢に感謝する」
凛々しく、そしてクールに告げる女騎士。
「我が名はハーレイン。ユグバリアの女王だ」
年齢は二十代中盤くらいか。
高い背に引き締まった身体。大きな胸。
白銀の鎧に映える、結んだ淡い金髪。
うーん、カッコいい。
「大変なことに……なってしまった」
一方、男の方は沈痛な面持ちをしていた。
おそらくこの人は、執事かなんかだろう。
「そうか? 我慢するだけの勝負なんて余裕だろ」
オークの大群相手に戦えって方が、断然厳しいはずだ。
何をそんなに落ち込む必要があるんだ?
「それがですね――」
執事が話し出そうとすると、ハーレインが「はっ!」とその視線を明後日の方に向けた。
「肉が、落ちている」
「……本当だ。インベントリがいっぱいになったプレーヤーが捨てていったのか?」
誰がいつ落としたのかは分からないけど、焼いたマンガ肉みたいなものが道端に落ちてる。
「…………おいしそう」
「はい?」
女王ハーレインは、落ちてるマンガ肉に目が釘付けになってる。
「ごくり……」
ノドを鳴らし、口元を拭う。
「おい、まさかと思うけどひろって食ったりしないよな?」
「…………」
「え、ウソだろ?」
ハーレインの意識はもう、完全にマンガ肉に奪い取られてる。
「さすがにひろい食いはバカが過ぎるぞ。なあ、我慢できるよな? できるんだよな? 誇り高き騎士の国の女王なんだろ? マンガ肉なんて原始的なものに貪りついたりしないよな?」
「…………」
「がんばれハーレイン! がんばれっ!」
「…………ぱくっ!」
「がんばれよ!」
ひろい食い女王の頭を、思わずひっぱたく。
すぐさまがっつき出すハーレインを前に、執事が深くため息を吐いた。
「国を守るため、騎士として厳しく育てられてきたハーレイン様は、戦の気配を感じればその圧倒的な集中力をもって最強の戦姫となります。しかし」
「しかし?」
「その分、戦のない状況では『自堕落クソ女王』になってしまうんです」
自堕落クソ女王……。
「ハグッ! ハムハム! モグッ!」
美しさと凛々しさを兼ね備えた女王様は、口元をベッタベタにしながらマンガ肉を貪り食う。
「これは、思ったより大変かもしれないぞ……」
小ネタ【高性能AI】
チャンスだ!
俺は粘液にかかったオークを叩きに行く!
「おりゃああああ!」
ショートソードを手にしたルリエッタも続く!
「ガオオオオオン!」
「……なんだよその叫び声は」
「ん?」
「いや、ガオオオンはおかしいだろ」
「そうか? わたしが機械獣やメカザウルスを動かしていた頃は――」
「あれお前だったんかい。ちなみに……お気に入りとかあんの?」
「やはりメカギルギルガンだな!」
「今すぐそのやっかいな機体から降りるんだ」
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