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1-8 フィオナ騎士団

緒戦の戦いをして、ロンバルト帝国軍が30万の大軍を投入した。


おそらくこの数は、この暗黒地帯側からセルヌン湖湖畔に至るまでのブルーダム丘陵で、機動的に人員を動かせる最大限の数である。

騎馬、歩兵、弓隊、戦車、長槍隊ーそしてリトー兵、黒翼狼など魔獣大隊がその内訳である。


魔獣大隊のリトー兵を前衛にして、帝国軍30万が進軍した。


リトー兵とは、暗黒地帯に住む巨人の一族のことで特殊に訓練されたロンバルト兵のことである。

身体の平均身長は1アルパン(約35メートル)ほどもある。ロンバルト帝国が、魔導士たちに集めさせた巨人30体が、大きな歩幅で地響きを立て、横一列となって行軍している。


さながら動く城壁のようである。

赤い髪、赤い瞳、体躯は筋骨隆々としていて肌は鋼鉄のような質感がある。

知能はさほど高くなく、だがある程度の人の言葉は理解できる人間の幼児程度の知能を有している。

手には竜の骨を棍棒のようにもっており胸、腕、すね、腰のそれぞれにあてた重く堅い防具をその身体に直接埋め込まれて身にまとっていた。


巨人たちの頭上を、黒い翼のある狼が旋回している。魔獣の黒翼狼である。


黒翼狼は、リトー兵が進む方向を誤ったり戦う意思がないときに、リトー兵に対して素早く攻撃して修正する。

つまりはリトー兵の強力な制御機能の役割を与えられていた。

牧羊犬の役割といえばわかりやすいか。

黒翼狼は、ペガサスのような超音波は発しないものの、その集団的な統率力は非常に高い性質がある。

約100頭の黒翼狼が、一体につき3頭ほどでリトー兵を監督下に置いていた。


「あれはなんだ?」

兜のひさしを上げて、ディアミッドが傍らの三人に聞いた。


彼らのいる位置は、湖の東側のそそり立つ山の中腹、戦局全体を唯一見渡せる物見台の上である。

ブリンガーとブリドリッド国軍が先発している時間差で、現在の戦況と帝国軍の戦術戦略を看過しようとする算段だった。

それは、わずか500程度の騎馬隊で快進撃を続けるペガサスブリンガー隊が、一万ものロンバルト軍を蹴散らしているちょうどその時である。


女騎士ロナンが、ディアミッドへとすぐに答えた。

「オディナ様、あれは巨人兵ですわ。」

「ディアミッド・オディナは右側の眉を少しあげて、

「フーンそれには間違いないが・・・」

と短かくいった。


そこにオスカーが割って入った。

「昔から言葉が少ないんだよオディナは。ロナン、オディナはね、あの巨人兵たちはどんな戦略的な目的で

でてきたのかな?って聴いているんだよ。」

「そ、そんなこと、オスカーに言われなくてもわかっていますわ。オディナ様にきかれたことに素直に答えただけです。」

ロナンは怒った顔を、さらに赤らめた。


「じゃあどう思ってるの?」

オスカーが真摯に聞いた。

すると勝ちほこったような顔で言った。

「私はオディナ様の忠実な剣です。剣が何かを考えることなどないわ。つまりね、それは私の役割ではないってこと。考えるのは、主としてギリアンの役割ですわ。ね、ギリアン。」


オスカーは大きく両手を広げて天を見上げた。

ディアミッドをみてから小声で、

「話はわかったんだけど…ロナンも普通の女性で天下の美男子オディナにぞっこんかー、ふぅー…」

とため息をついた。


「えっ何?何と言ったの?オスカー!」


オスカーは慌てるロナンを無視して

「軍師殿はどうお思いか?」

今度は軍師ギリアン・マクドに対して丁寧に聞いた。


ギリアンは戦場に不向きなほど小柄で、白い髪の女性の軍師だった。

彼女には生来の特殊な技能が備わっている。

それが故にサード国軍第三軍師の職責にあった。


はい、と答えてからギリアンは静かに目を閉じた。すると全身がうっすらと光の粒子に包まれた。

しばらくして再びギリアンは目を開き、よく通る澄んだ声で言った。

「巨人の兵たちは、帝国兵士があのセルヌン湖を渡河するための戦術だと思われます。」


ロナンが、いぶかしんだ。

「渡河?どのように渡河するというの、不可能もたいがいよ。もしそれができるとして、あいつらが何か魔術でも使って巨大な橋をかけたり、船を新たに運んでくる方法があったとしても、連合の投石機がそれを木っ端微塵に阻むわ!」

と激しく言った。


「落ち着いて、ロナン。軍師の判断をちゃんと最後まで聞かないと。オディナもそれでは困るよ。」


ロナンはハッとしてディアミッドの方を向いた。ディアミッドは特に何も反応していない。ロナンはほっとして胸に手をあてた。


「ギリアン、どんな戦術なんだい?詳しくわかるかな?」

オスカーは優しく尋ねた。


「いいえ、そこまでは…ビジョンはいつもぼんやりとしていますので。いくつもの巨大な影が湖の中に入っていく光景と、それを機にロンバルト兵が大挙して湖に殺到しているのが見えるだけです。渡河することは、わたしの想像で判断にすぎません。解釈には誤りもあります。ただ、この大きな戦の、ターニングポイントになることは間違いないと思います。」


「ありがとうギリアン、すごいね。いつも明確だよ、君の予知は。サード第三軍師の呼称は決して伊達じゃないよ。」

オスカーがいうと、ギリアンは恥じらった。

その表情はきらめく少女の顔であった。


「さてオディナ。我らが天才軍師様がああいっておられるけど、どうするんだい?」

ディアミッドは今度は左の眉をあげた。

それは何かを決めた時、確信を得たときの表情だった。莫逆の友オスカーには瞬時に彼の考えが理解できた。


「早い話、我が軍は、とにかく巨人の兵士たちを倒すか、足止めするのが第一作戦ということ。それでいて巨人兵を打ち取れれば、帝国軍の思惑の出鼻をたたくには十分て、ことだね?これでいいかい、オディナ副団長?」

全員が注視する中、ディアミッド・オディナは、右側の眉を上げた。


えーーーーとその場の全員が驚いた。


話の流れは、オスカーの言う通りだったからだ。

しかし一人オスカーが、しまった、なるほど、と自分の手を叩き、

「ごめんよオディナ、オディナ第二国軍軍団長。これでいいかい?」

と再度呼称を訂正して聞き返した。


すると左側の眉が上がった。


ロナンがオスカーに小声で言った。

「どういうことなのよ?」

「え?見たままだよ。」

「見たままって何よ?意味がわからないわ。」

「ロナンが気にすることはないんだけど・・・気になるんだね、やっぱり。」

他から見えないような角度から、ロナンは恐ろしい形相で睨んでいてオスカーは鼻じろんだ。


オスカーは、やれやれ、と一息ついて言った。

「オディナは、フィオナ騎士団最強の戦士で…というより、サード国軍一の自他共に国内外で認めらているナイトオブナイトだ。でも、あのフィン団長が、オディナのその上に団長の地位に君臨していることが、オディナが唯一昔から気にしていることなんだ。」

「何故?わたしは全然気にならないんだけど…」


「僕も気にならない。けどオディナは気になるみたい。団長の下というのが嫌なんだよ。なにせ団長は、山の天気のように移ろいやすく、それでいて雲みたいに自由自在というか…団長自身は、まったくと言っていいほど武芸には優れていないのに、こと戦略家として底がみえないほど果てしない天才だよ。集団戦闘となったら常勝無敗。だからホスロウ陛下には、サード国軍第一軍師として、そして第一レギトニス(軍団長)として絶対の信頼をおかれている。付け加えるなら性格が全然よくないのに、何故か不思議と人望がある。だから、何かにつけて比較されるのがオディナの立場で、副団長っていう言い回しがそれを思い出させるから、

そう呼ばれるとどうも嫌みたいなんだよ。」


「そんなこと気にする必要なんかないと思うけど、全然、二人とも違う印象だし、というか真逆だから。

でも、なるほどそうかー団長はすぐ根に持つし、いい加減だから…」


はーーーーー


二人は同時に言って深いため息をついた。



「フィン様!」

フィンが駆る騎馬へと2つの騎馬が追従し並走してきた。


声をかけられ、少し時間をあけてから、ああ、お二人さんかーと、フィンは面倒そうに笑って答えた。

サード国軍第二軍師のゴウナ・ゴルと、ミリトゥム(師団長)のマックモーナである。


「斥候の一人から、帝国軍30万の大軍が先ほど進発したとの報告が入りました!」

ゴウナが息を切らし言った。


「フーン。それはそれはご苦労さん。」

まったく興味なさげに、さらに気だるそうにフィンが返した。


「おい、お前!」

隻眼のマックモーナが厳しい表情でいった。

まあまあ、とゴウナがマックモーナを諌めながら、己の豊かな腹を持ち上げて、ふん、と気合を入れ直して言った。

「団長…もう一度いいますぜ、30万の大軍が動きだしました。この対応どういたします?」


フィンは騎馬を急に止めた。

二人は勢い余って、フィンをおいて通り過ぎてしまった。


マックモーナが、やれやれ、お前よくあんなのに従えるなー、と言い、ゴウナが、まあ聞く気になったみたいだから、それでいいんでさあ、と言い合いながら戻ってきた。


「30万の軍に向かうのか?第二軍と合流するか、どうするんだ?」

とイライラしながら、マックモーナがフィンに聞いた。


フィンは涼しい顔をしながら答えた。

「え、今は何もしないよ。」


二人は動揺した。

「はあ?お前それで立ち止まったのか?」

モーナはますます苛立った。もともとフィンにはフィオナ騎士団団長の座を追われた過去があり、その遺恨は今なお、あり続けていたからだ。

ディアミッドとは種別の異なる敵意があるのだ。


「いや、止まったのは花を見つけたからだ。なんせ綺麗な花だと思ってさ。」

フィンは上を指差した。

切り立った斜面に、鈴なりに垂れ下がっている白い花々が咲き乱れていた。


それを聞いてモーナ自身の周りの空気が一瞬固まったかに思えた。モーナの手前、取り繕うように、そして自分もこれにはきっと意味があることなのだろう、と自分の心に言い聞かせつつもゴウナが呆れていった。


「団長が急に止まってしまったから、ほら全軍が停止しましたぜ 。見てください。」

行軍していた第一国軍の配置が乱れ、バラバラといくつも溜まりになっていた。


「全軍混乱してますよ実際、わかってますか?」

と追従してきた後軍を指していった。


フィンはそれを完全に無視してふたたび花を見だした。すると各隊の隊長や各隊隊長から指示された一般兵たちが次々と状況を確認するために騎馬で駆けつけてきた。


「誰が来たのか覚えておけよ、一番は多分ルカイヤだ、絶対だ。」

と小声で、フィンはゴウナに急に指示した。

ゴウナは意図しない指示で困惑したが、はい、と肯定した。


「どうかなされましたか?」

フィンの予想どおり、魔術戦士ルカイヤが一番手に駆けつけた。

竜騎士とは比べられないが、魔術剣を操ることのできる稀少な逸材が魔術戦士である。


「ほらみろ、あたったーーーールカイヤだ、やっぱりルカイヤが一番だよ!ハハハハハ 」

フィンは一人笑い続けた。


フィンのそれにルカイヤが驚き、しばらく混乱していた。

ゴウナはすぐにルカイヤへと今までの経緯を説明した。

なるほど団長らしいですね、、、と

彼は何かをすぐに理解したようだった。


「おい!もう辛抱堪らん!こいつを一回絞めんことには俺は気がおさまらん!今はあのディアなんとかがおらんから、こいつは丸裸も同然。なんでこんな奴に俺は負けたのだ?俺の騎士団を乗っ取られた?ついでに汚名を晴らしてやる!」

隻眼のマックモーナが剣に手をかけた。


その瞬間、ルカイヤが燃え盛る魔術剣を繰り出そうとしていたり、ゴウナがすでに短剣をマックモーナの背中に突きつけていたり、他の騎士たちが、フィンとマックモーナの間に割って入り、フィンを完全に守護していた。


「マックモーナ様、いけません、そりゃいけませんぜ。団長に手を出すのは、ドラゴンに手を出すのと同じ。フィオナ騎士団だけでなく、サード国軍全体と事を構えることになるって意味です。それでも良ければ遠慮なくどうぞ。今ここで動いたらいい。でも動いたら、いかに武芸百般のあなたでも…わかっていますね?」

ゴウナは低く重い声で剣を突きつけながら、マックモーナに言った。

嘘ではない、この緊迫した状況、すべての者の発する敵意がマックモーナただ1人に対して向けられており、それがヒシヒシと彼の肌に感じられた。

敵愾心は完全に消失した。


「ゴウナ、もうそのへんにしておけ。これ以上は皆が疲れる。マックモーナも、もういいだろ?フィオナ騎士団は、すでに俺のものだが、ゴウナよ、お前の所属もフィオナだからな。仲間だろ?俺たち。」


ゴウナは不承不承に短剣をおさめ、他の騎士たちもこれに習った。

ルカイヤが剣を下に振ると、剣を覆っていた炎が消えた。


「ルカイヤ…」

「団長、これに!」

ルカイヤが膝まづいた。


「お前を、これからサード第一国軍の大将にしてやる。」

「え?わたしがですか?お待ちください団長、国軍は、団長がレギトニスです。お言葉ではありますが、例え私がレギトニスになったとて、あの誇り高いラクティナウィウスやカストロムなど、元老や、貴族のご子息たちなどのお歴々が、一将兵の、よもや、わたしの命令などには従いますまい。フィン様の人望と実績あればこそのサード第一国軍です。」

とルカイヤが丁寧に説明した。


「なーに大丈夫だ、国だけでなく、サートリオン半島の民全員の命がかかってるんだ、少々の荒事は問題ないさ。お前にレギトニスの委嘱することだけでなく、あんな足手まといたちに、気分次第でチャチャを入れられては、第一国軍はすぐに敗戦の憂き目にあうだろう。これを見ろ。」


ルカイヤ、ゴウナ、遠巻きながらマックモーナがフィンの持っている紙を見た。書簡のようだった。

フィンは、ゴウナへと投げ渡し、ゴウナはそれをすぐに開いた。

そして、最初の一文を読んで固まった。


「何が書いてあるのですか?」

ルカイヤが、ゴウナへと尋ねた。


「おい、何が書いてあるのだ?勿体ぶらずに教えろ。」

マックモーナが苛立ちながら聞いた。


ゴウナが、小声で、最初の一文を読み上げた。

「偉大なる・・・偉大なる北の大帝国ロンバルト帝王シャープール四世陛下には遠路遥々の御親征、恐悦至極の限りでございます・・・」

「な?何の話だ?誰が誰に宛てたものだ?」

マックモーナの隻眼が動揺していた。


「つ、続きを読みます…」

ゴウナが言いかけて、フィンが手を挙げて制止した。

「それは、うちのお荷物ども、元老や貴族の馬鹿息子どもの一部があのシャープールにあてたものだ。」

「何だって?何故だ?」


「落ち着けモーナ。内容はこうだ。仮に我がサード王城に帝国軍が近づいたら、城内で時を計って呼応し手勢で蜂起して、陛下とレイモンド王子を捕らえ、帝国軍をいつでも迎え入れる、というのがこの書簡の要約だ。それに極め付けは、金色のフィンが一番厄介だが、奴の愛妻家ぶりは異常で妻を人質にすれば、あの生意気な金髪でも簡単に降伏します、と御丁寧にも解説つきだ。稚拙だが、奴らにしては真っ当な戦術を立てたものだ、ハハハハ。」

「団長、笑い事ではありますまい!」

「いや、すまない、怒るなルカイヤ。イムル教国の連中なら俺も驚きはしないのだが、うちのお荷物どもが、ここまで考えるとは!と思ってな。その大胆さに思わず、笑ってしまったのだ。いや、お荷物ならまだしも…もう呼び名は馬鹿ども、で充分だがな。」


「どう致しますか?」

「そうだな。主謀者は、元老のダラスミディと貴族のラトゥーユだ。」


ゴウナが、まさか!?と驚き、書簡を最後まで速読した。


確かに大元老ダラスミディの名と印が記され、その脇にラトゥーユの名が連名されていた。


「ま、まさか!貴族の馬鹿息子たちの筆頭のようなラトゥーユはともかくとして、由緒ある名家、大元老のダラスミディ様が…何故こんなことを?帝国の陰謀なのでは?」

「残念だが、帝国ではないし、内部の企てでもない。密かに昨晩、ブルーダムを離れた怪しい動きの者を捕らえた。そうしたら、この書簡を持っていたのだ。拷問して口を割らせたら、ダラスミディの配下の者だと認めたよ。それに、ダラスミディの印は本物だ。俺は見たことがある、間違いない。仮に帝国が仕掛けた陰謀ならば、大元老のダラスミディはともかくラトゥーユのような小物など帝国の者がその名など知るよしもあるまい。逆も然りで、我らの中でラトゥーユなど持ち上げるものなどいまい。」


一同は唸った。


大元老ダラスミディだけの企みなのか、それ以外の元老11名の一部か全部かが策謀しているのはわからないが、少なくとも危険であることは間違いなかった。


「いつでも後ろから矢が飛んでくる、そういうことですかい?つまり、味方であるはずのものと帝国が手を携えて、すでに包囲されていると。」


「少し違うな、ゴウナよ。まだ書簡はここにある。ならば、帝国はこのことを知らん。それに、密使が俺に捕まったことを、ダラスミディたちもまだ知るまい。決めるのは今だ。何故このようなことを策謀したのかはわからないが、この状況を逆手にとるしかないと考えたのだ。」


それでもルカイヤはまだ拒んでいる様子にみえた。


「納得できないか?じゃあルカイヤはなんでここに来たのさ。自分の隊もほっておいて、これは戦後の軍事裁判ものだろ?」

「はい、それは覚悟の上です。ただ、全軍が進軍を開始する前に、全将兵にむかって団長が宣言したことに基づいた行動を優先したからです。」

「ほう?俺はなんと言ったかな?」


マックモーナとゴルナは顔を見合わせた。

「あいつ、なんか言っていたのか?まあ言っていてもあいつの話なんか誰も聞いてないと思うがな。」

「さあ、自分にも団長の真意はさっぱりです。それらしきことは何もなかったですぜ。」


ルカイヤは輝く笑顔でいった。

「何かあれば、何をおいてもまず俺を守れ!それがサードを唯一勝利足らしめる唯一の方法だと。団長はそのようにおっしゃってました!」


その場の全員が、ああ、とため息をついた。


「その通り、それが答えだ。いま参集したもので同じ回答をしたやつは、国軍の士官、一般兵の別なく全員

すぐに階級を昇格させ各部隊の指揮官としてふりわけよ!そいつらは信頼できる奴らだ。ゴウナできるな?」


「あーなるほど!敵と味方をはっきりさせる…そういう意味でしたか!はっ、ただちに!」

「団長…」

「なんだルカイヤ、まだ不服なのか?」

「いえ、1つお忘れかと思いまして…」

「なんだ?」

「我が守りを怠った将兵は身分に限らず一兵卒にしてやる、です。」

ルカイヤはふたたび輝く笑顔で言った。


「ふーん、お前わかってるな、随分な策士ぶりだ。分かっているよ、その通りだ。おーい、マックモーナの旦那!」

「なんだ?俺は一兵卒か?」

「いや違う。お前はギリギリ合格だ。ちゃんと戻ってきたからな。」


あ!


マックモーナは驚いた、確かに立ち戻っていたからだ。


「マックモーナの旦那、お前はルカイヤと一緒に行って元老からきた権力を気分でおもちゃにする馬鹿どもと貴族の馬鹿息子たちを一喝して、前線へと配置してくれ。逆らう奴は拘禁するなり、好きにしろ。ただ、他の一般の将兵には絶対に手出しをしてはならん。もし、俺の将兵に手出しをしたならすぐに俺の手であの世に送ってやる。」

フィンは凄まじい眼光でマックモーナを見た。


「分かった、分かった、もう協力するぞ。だが、言っておくが俺は部下を大事にするぞ。」


フィンは、

「そうだったな、それは俺も認めているよ。」

と笑顔で返した。


「団長はどうされるのですか?」

「俺か?前線はお前たちとディアミッド・オディナに任せる。国の奴らに制裁を与えてやらなければならないからな。」

その場にいる者たちが全員、フィンの影の表情に最初はたじろいだが、

身を引き締めた。

ゴウナ、ルカイヤ、マックモーナと、その後に出された具体的なフィンの指示に従って行動を開始した。


一部のフィオナ騎士団を集めて、フィンがあらためて宣言した。


「そうだ、お前たちのような顔が出来る奴が一番いい。すぐに自らこなかった、どろ亀の将軍や士官たちに言ってやれ!指示されたにしろ、どちらにしろ、すぐに行動できる者が良く、迷いが敵だとな。先んずれば人を制す、という言葉通りだ。文句がある奴は誰でも俺の前にいつでもこい、金色のフィンが直々に相手してやるといえ!」


はっ!


騎馬の踵を返しかけたルカイヤを、ふたたびフィンが呼び止めた。


「ルカイヤ。ゴウナとマックモーナとともに再編はすぐに行えよ。反論したら軍規違反として即刻処断しろ、俺の指示だと言え。そうだな、俺の指示とわかるように、これを持っていけ。」


そういうと、フィンは腰の短剣を抜き、自身の髪を切った。


「団長、何を?」

ゴウナが言った。


金色のフィンの金色の象徴は、闇夜にも輝くその金色の髪に由来していた。

彼の兄も金髪で、名はライオネル・イレーザーという。ペガサスライダーのライオネルその人である。

フィンの髪は、1本1本が透き通っており宝石のような輝きがあった。


「何を驚くゴウナ、俺とわかりやすい代物だ。また元どおりにもなる、かまやしないさ。」


お預かりします、とルカイヤが髪を手に取り持っていた紐で束ね、そして大事に首からかけた。

それは不思議と、かすかに光を帯びている。


「ディアミッドの第二軍が、もうすぐ帝国軍の30万軍へと戦いを挑むだろう。それをして、第一国軍は、その戦いには参戦せず、あえて側面へと 別動して回り込み、一気加勢に帝国軍を殲滅する。相手の全滅を目的にせず、一撃を加えて退却する。これを二度繰り返すこと。それによって、帝国軍は瓦解して、退却するだろう、分かったかルカイヤ。」


はい!


「そう心配するな。軍師のギリアン姫も俺の意図はわかってくれるから、うまくいくさ。」

ルカイヤは一礼して、金色の髪を大事そうに手に持っていった。


「おい、何故二度なんだ。何故、敵が崩壊するとわかる?」

ルカイヤを追いかけようとして、フィンとすれ違い様に聞いた。


マックモーナが、最後の機会だと思い、しかし懐疑の目のままで彼に聞いた。


「なーに簡単なことさ。俺はしつこい、だから二度。そして、何回してもいいからな。勝利という奴はさ。」

フィンは最初は薄く笑って、最後は大笑いしていた。







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