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1-3 ドラゴンとペガサス

レグルスは動かなかった。

まるで時が止まって、この世界から一人切り離されてしまったようである。

レグルスは突然笑いだした。

「ハハハハ、確かにな。さすがの我もこの世に聖母竜がいたなど単なるお伽話、絵空事だと思うていた。この世はまだまだ広いということだな。」

竜騎士は天を見上げ、力強く拳を空に突き上げた。


「だが我はドラゴンの使い手、地上最強の戦士よ!我が証を打ち立てるため他の竜騎士やドラゴンとも闘い、足下にして踏みしだき、この世の理のすべてを壊すが我が明日の理想!我は天の神々に挑むため立ち上がったのだ。何のための己が力なのか?強い者がこの世を支配するは至極当然!それのみをこの世の真の理とするのだ!こいリンドブルムよ!」

レグルスが叫ぶと空の隙間から巨大なドラゴン・リンドブルムが飛来した。

すさまじい勢いで、がらがらと城壁を壊しながらレグルスのすぐ後ろ背中のあたりで止まった。


クレイトンも、ベルラインも一瞬で背すじが凍りついた。

ドラゴンを直視した者は死…ドラゴンと出会ったら最期…竜の結界には決して近づいてはならない…それらの言葉が先祖の代から脈々と受け継がれている。それが人が決して侵してはならないセインデリア世界の絶対の法則だった。


いかに気丈のベルラインでも、絶対的な恐怖を目の当たりにしてヘタヘタと腰が抜けてしまった。

ドラゴン・リンドブルムは、2人を睨めつけ獰猛なまでに咆哮した。いかに健全な魂を持つ者であっても、瞬時に死の世界へと送られてしまう、そんな感覚を覚えた。


リンドブルムは大木のような尾をベルラインらの後方に激しく打ち下ろし、完全に退路を断った。

その速度は、到底肉眼で追えるものではなく、ドラゴンの尾の凄まじい攻撃力の一部をも物語っていた。


1アルパンはあろうかという巨大な身体、レグルスの鎧と同じ緑の色、正確にはうっすらと緑の光を帯びた鱗にびっしりと全身が覆われていた。眼光は鋭く青色で、口を開くと鋭く尖った剣のような牙が幾重にも整然と並んでいるのが見えた。翼を開くと空を覆うようなまるで大きな傘のようで、しかしながら、それは大いなる尊厳を際立たせるマントようにもみえた。


フラフラとしながらも、ベルラインがそのように見やると恐怖はしつつも、いつの間にか不思議な別の感覚にもとらわれた。


ーなんて、なんて偉大で、そして美しいのー

死を確実に感じながらもベルラインは素直にそう思った。

リンドブルムの方でも何かを察しでもしたのか、先ほどの猛々しさと打って変わり荘厳さを醸し出しながら静かにベルラインとクレイトンを見ているようだった。


レグルスはいった。

「どうやらリンドは、貴様に関心ができたようだな。人に興味を持つなど珍しいこともあるものだ。」

竜騎士は少し戦意を落とし、浅い息で静かに話し出した。

「貴様らも少しは知っていよう。ドラゴンには種別があることを。知恵のあるものか、どうかだ。竜騎士の竜、ドラゴンとは知恵のあるもののことだ。リンドブルムを我が腹心とできたのは、遥かな月日を費やした凄絶な魔力と魔力との闘い…竜の試練を受けたことから始まる。己が魔力を使い果たせば死、上回れば晴れて竜騎士となれるのだ。死線は何度も訪れた。だが今考えればリンドに助けられていたようにも思う。真実はわからぬがな。それがドラゴンの神秘だ。女よ、あるいは貴様には竜騎士の素質のほんの爪ほどのものがあるやもしれぬ…」

「私には、そのような力はありません。」


竜騎士レグルスは、今度は片膝をついた。

「無論そんなことなどわかっている。我は、地上の覇者たる偉大な力を持っているということだ。女よ、今思った通りのことを、その老ぼれ神官に言ってやるのだ。いかに弱ろうと我が力はこの世に君臨するもの。人間に計りようもない存在よ。もはや逃げ場などない 。それを悟るがいい。偉大な竜騎士が力、元に戻せと言うがいい。さすれば、貴様らの命まではとらぬ。」


ベルラインは、はっとして、クレイトンの目を見た。

しかしクレイトンは、ベルラインの身体を押しのけて首を左右に振りながら強気に言い放った。


「レグルス卿よ、そうではない。力の有無、大小など関係ない。それが天の理に適っているかどうか、それが私にはわかり、あなたはわかっていない、ということです!我らの王子をまずはお返し頂きたい!我らの身柄もそのドラゴンから解放していただきたい。そして、御身がこの国より出て母国へと帰られると制約するならば、その上で解呪しましょうぞ !」


レグルスは怒りを露わに、今度は威圧し出した。

「無駄話しをした!ならば貴様らに選択の余地などない。服従か死だ!」

「いいえ、卿よ!これは我が命に代えてもこれを譲ることなどできませぬ。なぜなら、わたしの一存ではないからです。わが王国の英霊たちの魂とこの世を統べるドラゴンの王たちの古の掟にかけて断じて譲ることなどできませぬ!」

「グッ…ウウ…」

ベルラインは、レグルスの力がさらに弱まった気がした。その証拠にレグルスは両膝をつき、頭を両手でおさえ、「やめろ!頭が割れる!」と叫び出した。


単純に竜やレグルスの魔力が減少した、というだけではなく、レグルスの内なる何らかの葛藤により永続的な苦しみを繰り返し受けているようだった。竜騎士の掟とは、彼自身の無意識下で骨肉の内に眠っていた強い遺伝子を呼び醒まし、苦痛を与えるものと言わざるを得なかった。

ティアマトの呪言とは、それ自体に力がある訳ではなく、竜騎士の一族の封印を解き、自ら自己崩壊を行うよう仕組まれた本能に働きかけるもの、と言い換えられた。まさに呪いと言わざるを得ない。


ーもしかしたら、今ならレグルスを倒せるのかもしれないー

ベルラインが、そう思った時、レグルスが苦しんでいるその背後から傷ついた衛士長が突然迫り、その背に剣を突き立てた。


「や、やった!」

衛士長が歓呼に叫んだときだった。レグルスがその大剣で衛士長を貫いた。同時に突風が巻き起こり森と城の炎が交わってさらなる巨大な炎の火柱が上がった。それに応じるようにリンドブルムが、レグルスを守るため急激に威圧的に変化した。巨大な竜の体から緑色の光が水蒸気のように立ち登り、その光の粒子は竜騎士とドラゴンの身を包んだ。



城の下、壁面に添って1ー2ステップ(7~14メートル)ほど確かめるように、男は蔦の這う城の壁を手でなぞっていた。

「このあたりだろうな…」

しばらくすると、この辺りも炎に包まれるはずで逃げ場もなくなってしまうだろう。だが男はあくまで冷静で、そのことにはほとんど関心がなく、王城の壁の高さと向かうべき場所を見定めていた。


男は、全身白銀の鎧をまとっている。

レグルスの鎧を重装備とすれば、必要最低限の軽装備と言えなくはなかった。長身で、腰までの長さをもつ輝くような金色の髪、精悍な顔立ちで一見して美丈夫であった。そして彼の傍らには一頭の白銀のペガサスが傍にいる。

「国の禁忌、城壁登りをやってみようか。なあサイレンスよ!成功してもきっと処罰ものだな。

ペガサス・サイレンスは、ヒヒーーーーーンと主に応えるようにいなないた。


男は、鎧を二度横に引いた。すると鎧がストンと下がった。

男が足をかけると自然に上がり男はペガサスに軽々と騎乗した。ペガサスの体高は一般の馬とは異なり、5キュビット(2.2メートル)以上の巨大馬である。


鎧はタルタリ・バロメッツの茎を特殊な技で精製し作られており、600タラント(2t)ほどの重さでも切れることはなく丈夫だ。

一定の情報を与えると、自由自在に伸縮する素材にできあがっている。このブリドリッド王国の特産で様々な用途、道具に用いられていた。


男は、手綱を握るとサイレンスを操り、ゆっくりと城壁を背にして30ステップ(210メートル)ほど離れた。

城壁とある程度距離をとった後、くるりと踵を返した。


「ウォーーーーーーーーいくぞ、サイレンス!!」

白銀のペガサスは、ペガサスライダーの合図で駆け出し光の粒子を放ちながら、一気に加速した。

光の粒子は、一直線に左右に放たれ、まるで翼のようにみえた。


城壁の手前、約1ステップ手前で、光の翼をはためかせペガサスは飛ぶように浮き上がった。

ほぼ直角の城の壁の断面を、軽々と登り始めたのだ。まるで地面の上をかけているかのように重量の法則など無きがごとく、白銀の一本の矢のように、ぐんぐんと速度を上げて空を見上げて登っていった。


城壁の登頂まで一気に駆け上がると最後は強力なバネのように、一瞬ペガサスの身体が小さくまとまると、しなやかな動きで、両の前脚で城壁の頂上を蹴り上げた。


その勢いは素晴らしく、ペガサスの身体をさらに押し上げ、一気に遥かな高みの天空へと輝く馬体を舞い上がらせた。

空中に躍り出たペガサスは、光を帯びた銀の翼を広げた姿はまさに天馬であった。




































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