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第1章 1

「城が燃えているぞ!すぐに城内全ての者を叩き起こせ!全員だ!直ちに火を消すのだ!」

「はっ! 」

指示された衛兵は、すぐさま必死の形相をして城壁の通路を走り去っていった。

時は未明。このブリドリッド城の一角から突然火の手が上がったのだ。


「クレイトン様! 」

「おう、ベルライン侍女長か ?」

「遅れて申し訳ございません!火事でございますか?」

そう言いながらベルラインは、寝所から飛び起きすぐに着替えたばかりの衣服と息を整えていた。

深夜の暗闇の中、ブリドリッド城の北塔から、轟々と炎の柱が立ち上がっていた。

燃えるもののない場所であるが故に、不審火であることをクレイトンも、ベルラインも想像に難くなかったが、正確な情報を得ていないため、あえて2人とも口にはしなかった。


クレイトンが現在の状況を説明した。

「按ずるな、北の塔からじゃ。ここに至ることはまずあるまい。まだ発見が早く、大火とならずに消すことはできるだろう 。いま、足の速い者を行かせた。火消しの隊を組むよう指示した。ただ心配は、よりにもよってこの大風じゃ。火を勢いづかせるだけでなく、火消しのそれ自体や避難の行動にも支障が出るだろう。」

ベルラインは、それを聴きながら、火の手と城下の森を洞察した。


「クレイトン様、あれを!」

ベルラインたちのいる城の城壁の眼下の先、そこには広大な庭園や森があるが、徐々に別の火柱が上がった。それは時をおかずして、1本の導火線が燃えていくように瞬く間に、城を囲む森中へと広がりはじめた。


「なんと!最初の火の手と異なる場所から広がるなどありえぬ。」

二人は、このときやはり不審火なのだと確信した。そしてさらに、火事は意図的な何らかの策謀の前哨戦であると肌に感じて、次なる危機が迫っていることも十分に意識せずにはいられない状況だと理解した。


「ベルライン!」

「はい!」

「すぐにエレーナ王妃とハウト殿下のもとに!万一を考え近衛の精鋭を何人か連れて行くのだ!衛士隊長のカルデインが良いだろう。あやつは機転が利く。一刻の猶予もならぬ。王妃、殿下お二人を保護した後は、

出来る限り火元から離れた安全な場所にお導きして待機せよ。場合によっては、秘密の地下道から逃げてもかまわん。お二人のお命が最優先じゃ。」


「ですが・・・」

「何もそこまではと思うのか?我がブリドリッド王城に不審火など、この城が創建して以来一度たりともない。それを考えるなら、全く信じられぬことだがこの城に賊が入り込んだのやもしれぬ。いや進入したと見て誤りはないじゃろう。マークスの堅固さを考えるなら只者ではない。」


ブリドリッド王城マークス城は、初代セイレス・ブリンガーによって今から約800年前に建設された。

マークスの丘とよばれる丘の頂上に築城され、 周囲四方約2リーグ(4.5kmほど)、高さ約1スタディオン(190メートル)ほどの城壁に囲まれた巨大な城である。

上空からみると、ほぼ星型の形状でそれぞれの頂点にあたる場所には塔が設けられていた。

クレイトンとベルラインは、現在出火している北塔ではなく、西塔のある主城の入り口側に今は立っていた。


「この城が焼け落ちることはまずもってないだろうが先祖伝来の王家の森を焼くまで気付かぬとは…陛下のおわさぬときにこの失態、城を預かる総責任者として恥じいるばかりじゃ。」

「クレイトン様、そんなにご自分を責められては。わたしや他の部下たちも立つ瀬がなくなります、どうか…」

「いや、すまない侍女長…気を遣わせたな。ただ、この大風のせいなのかどうもはっきり人の気配、動きがわからぬ。」

「わたしも同じでございます。それではこれからクレイトン様はいかがされますか?」

「うむ、わしは現場の陣頭指揮を執る。ベルラインよ、王妃と殿下のことくれぐれも頼んだぞ。」

そういうと、クレイトンは高齢とは思えない足の速さで衛兵や侍従たちを集めながら、火のもとへと向っていった。


ベルラインも、カルデインを見つけ精鋭の衛兵と数名の侍女たちを集めながら、王妃と王子のいる寝所へと全員で駆け足で向かった。


ウォーーーーーーーーン


遠くの空で不気味な、そしてひとの心を恐怖に陥れるようなそんな気持ちにさせる、咆哮のようなものをベルラインは聴いた。


だが誰もそのことを気にしていないようだ。

気のせい?ただの風の音か、、、ベルラインは気を取り直した。


王妃、殿下、今行きます!どうかご無事でいてくださいまし、、、


寝所に向かうにつれ、どんどんときな臭くなった。少しづつだが煙で視界も悪くなってきた。


隊長のカルデインがいう。

「侍女長殿。城内のこの先で燃えているようです。やはりこれは、只事ではないぞ。我らは先に行かせていただくがよいか?」

察しの良さは、クレイトンの折り紙付きであるカルデインのこと、ベルラインは異論なくすぐにうなづいた。


言うが早いか、カルデインは10数名からの衛兵たちをそのまま引き連れ走り去っていった。

近衛の中でも、上位のものたちで皆知勇兼備の士であった。


「ベルライン様〜大事ないでしょうか?」

といいかけて、侍女イクルガはベルラインの厳しい表情が目に入りすぐに口をつぐんだ 。


何らかの賊の進入があったなら・・・このマークス城はこと防備においてはサートリオン四カ国のうち、随一の守備力を誇るという。過去に例外なく、敵を寄せつけることのなかったブリドリッドの王城。

それが今は、何者かが進入しており意図的に火事を起こしていたとしたなら、相当に用意周到な計画といえる。

企てた者は、ある程度の戦いを最初から心づもりしており、それが集団なのであれば、やはり相当の手練れのものたちが浸入していることは、もはや疑いようもなかった。

ベルラインは走りながらも、そう結論づけていた。


もし、衛士彼らに任せて、万が一にも賊の手で打ち破られたならば 、今の城下において、それ以上に対抗できるものは誰もいない 。


最悪の事態に、彼女は想像をめぐらしていた。


キャーーーー


寝所の間の廊下にようやくベルラインたちが駆け付けたとき、侍女の一人が、そのせい惨な光景に堪らず叫び声をあげたのだ。

何故なら、先行した衛兵たちの全員が朱に染まって冷たい床へと累々と横たわっていたからだ。

カルデインでさえも無惨な最期を遂げていた。


ベルラインは、目の前に佇む異質な姿に注視した

「何者…?」


急に一陣の風が吹き抜け、濃い煙が一瞬立ち消えて視界がもどった。しかし、そこに異形のものが佇んでいた。


身の丈5キュビットは超えるだろう、全身緑色で、両肩に大きな角がついた鎧に包まれている異形の騎士が、

そこに仁王立ちしていた。片手に大きな剣、もう一方の手には布で包まれた何か、を持っていた。

そして、鎧の賊の足下には王妃が横たわっていた。


ベルラインは、それを認識するやいなや、躊躇なく腰に帯びていたボウガンを構え、すぐさま片手で撃ち放った。

続けざまに、後の侍女たちもボウガンを構えた。

侍女たちは、全員特殊な戦闘訓練を受けている。


ベルラインの矢は、疾風のごとくの勢いで賊の兜の隙間へと寸分たがわずに貫いた。

この弓術は、並みの射手のそれではない。相当に訓練し洗練されたものであった。


「ほう、良い腕よ。だが相手が人ならばな。」

そうその男が言った後、矢は力なく地面へと落下した 。

実際には矢は何にも突き刺さることはなく驚くべきことに、男の眼前で止まっていたのだ。


「馬鹿な・・・いや、みな待て!まさか魔力?ウィザードなの?」

彼女はすぐに、自分の中で、そのことを打ち消した。


ウィザードの中でも、身体能力の高い者は確かにいる。

だが王城を守備する屈強な衛士で、さらに精鋭のものたちを全て剣で討ち果たすことなどできるウィザードがいるものだろうか?

そんな戦士がいることは聞いたことがない。

だが、男が行使した人ならざる力は、紛れもなく魔導の力。

それを何の素振りもなく、自然に使えるのは強大な魔術者でありまさにウィザード級であるといえた。

ウィザードであって騎士、その存在の結論はこのセインデリア世界では一つしかなかった。


「ま、まさか竜騎士だというの!? あれはおとぎ話ではないの?」

ベルラインは、侍女たちにボウガンの斉射を止めさせた。

抵抗は死、と直感的に感じたためだ。


「べ、ベルライン、殿下を…」

王妃エレーナが息も絶え絶えいい、最後に力尽きた。亡くなった訳ではなく意識を失っただけのようだ。


兜の向こう側で、騎士が笑った気がした。


「ほう、竜騎士の存在を知っておるとは、さすがは王家に組みするものよ。ならば先ほどの無謀なものたちとは違い、逆らえばこの場に存在する全てが消滅しうることをわかっているな。」

「まさか…あなたはウィザードなのですか?」

「ふん、我がそのような下等な存在なのかどうか、わからぬのか?」


「わからないから聞いてるのよ、この怪物め!」

イクルガの口を、ベルラインは慌てて両手で抑えた。

この場の制裁与奪は相手の気分ひとつだからだ。

とにかく、今は王妃と王子を助け、この場から全員脱出することが最優先のミッションだった。そのチャンスを待つしかない。


「動くな女よ。逆らわねば命までは取らぬ 。我は、我が契約を果たすことのみに興味があるのだ。それ以外の雑事には、毛ほども興味などない。これは貴様らが一生に一度あるかないかの幸運よ。先ほどの見事な弓術の褒美に免じ、命まではとるまい。」

竜騎士は悠然といった。


重く地の底から出ているような声だ。圧倒的な威圧感があり彼女が過去に出会ってきた騎士、剣士、ウィザードなどとは明らかに異質であった。竜騎士というお伽話の類の存在など自分でも信じがたく、そう思わず口にしてしまったことに彼女自身が一番驚いていた。

聡明で冷静な人物が彼女の本質であったが、どんなに考えても決して否定できなかった。


「いずこの国のものか、この狼藉者!」

イクルガが、ベルラインの手をほどいて叫んだ。

次の瞬間、ベルラインとイクルガの両頬を凄まじい何かが通り過ぎた。

と同時に、彼女たちの後ろにいた侍女たちが糸の切れた操り人形のように膝からドサリと崩れ落ちた 。

そしてさらに、侍女たちの後背の大理石で出来た彫像が時間差で崩れ去った。

イクルガの身体は、一瞬で凍りついたように恐怖に支配され動けなくなった。


「見ざる聞かざるが肝要 、よいな。次はないと思え。我が酔狂にもいい加減限度がある。」


アーーーーアーーーー 布で包まれた赤子が大きく泣いた。


巨躯の竜騎士は微塵の惑いもなく赤子の布を掴んだまま動けなくなったベルラインや侍女たちを、その存在が無きがごとくゆっくりと、その間を通り過ぎて暗闇へと消えていった。


動けないまったく。


動け!


動けわたしの身体!


殿下すみません!



あたりは朱に染まり、炎が近づく気配が強い、その地獄絵図の中で、ベルラインは今の景色ではないものの脅威にただ佇んでしまっていた。


炎はすぐそばに迫っていた。



















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