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アリュシアになったイシュリア  作者: アシストライフ
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きらびやかな装飾の施された椅子に、イシュリアは居心地悪そうに腰かけている。

イシュリアは王の葬儀が始まるまで、この部屋で待機するよう命じられていた。様々な美術品で飾られた広い部屋の中心に、円卓はある。大理石で作られた白い円卓は、キラキラと輝いていた。六人のロードが、その円卓を囲んでいる。ロードの背後には、それぞれの従士フォロワーが立っていた。いつもこうなのだろう。六卿ロード・シックスが集う形というのは、きっとこういうものなのだろうと、イシュリアは推察している。

(それにしても・・・)

重い空気が場を支配しており、イシュリアは胸が詰まる想いでいる。最初に声を発したのは、巨体な身体を持つ男性であった。金色の剣を腰に下げた男の名は、タルメソン=バハ。西の地を統治する、黄のバハだ。無精ひげを撫でると、鍛え抜かれた胸襟がピクピクと動く。

「なあ、どう見る?」

誰に問いかけるでもなく、タルメソンが静かに口を開いた。

「まさか、あの王が病に打ち勝てぬとは・・・残念でなりません」

わざとらしくそう嘆いて見せたのは、少し年増の女性であった。ハルル=バオ。長い指には怪しげな紫の宝石が光る。北南に領地を持つ、紫のバオだ。六卿ロード・シックスの中で、唯一従士フォロワーを持たないハルルが大袈裟に悲しんでいた。

「随分と白々しい物言いだな、ハルル」

蒼槍を従士に持たせた、短髪の若い女性がそう応じる。南を統治するサラ=トゥトゥ。青のトゥトゥは眉をしかめ、ハルルを睨みつけている。左目にかけられた眼帯からは、青白い光が覗いた。

「しかし、私も信じられません」

凛々しい顔立ちを曇らせ、青年はそう呟く。ナルシャク=オイットーは、東に領地を持つ長身の男性だ。緑のオイットーの、その背にある弓矢がカチャリと音を立てた。皆がそれぞれに言葉を発する中、一人の女性が怪訝そうにイシュリアを見つめている。女性の名はカシア=エレ。黒のエレは、マキャドゥル王国の北西に領地を持つ魔法師ウイザードだ。美しい顔立ちのカシアは、しかしさきほどから渋面のままイシュリアを眺めている。

(なんだろう?怖い)

イシュリアはその鋭い視線に気付いているが、なんとか目線を合わせないよう努力していた。ウィルも姉の洞察にびくびくしながら、イシュリアと同じようにカシアに視線を送らないようにしている。

「そういうことじゃ、ないのさ」

ゴリゴリと無精ひげを撫でながら、タルメソンは皆に問う。

「この後、どうなるかって話よ」

まるで悪巧みでも企てるような面持ちで、タルメソンは続ける。

「レイア様。レクイヤ様。レミハベル様。王女は三人いる」

タルメソンの発言は、円卓に緊張を与えた。後継者の話をしているのだ。イシュリアは考えを巡らせた後、そう理解した。

「不敬な!」

いきり立つナルシャクに、タルメソンが不敵に答える。

「王が死んだのだ。この国の、次の統治者を考える必要はあるだろ?」

「しかしそれを今、ここで問う者があるか!」

机を叩くナルシャクに頭を掻いたタルメソンは、しかし詫びる様子もなく話を続ける。

「まあ、そう怒りなさんな。ナルシャクの言い分もわかるが、皆の真意も気になるところではある。そうだろ?」

不思議そうにハルルが、タルメソンに問いかける。

「第一王女であるのは、レイア様だぞ」

「そりゃ、あくまで便宜上だ。王の娘は三つ子だろ?」

(え?そうなの?)

タルメソンの言葉に驚いたイシュリアが、ウィルへ確認の視線を送った。静かに小さくウィルが頷く。怪訝なハルルが、タルメソンを正す。

「しかし、第一王女であることには変わりはないだろ?一番は、一番じゃないか」

ハルルの言葉にタルメソンはニヤリと笑い、じっとサラを見る。

「そう思っていない奴もいるって話さ。なあ、サラ?」

腕を組んだままのサラが、タルメソンを見据えたまま口を開く。

「私に何を尋ねている?タルメソン」

「いや、まあ。そうさな、お前は違うのだろう?」

「そうだ」

腕を組んだままのサラが、毅然とそう言い放った。

「はあ?」

驚きの声を上げるハルルに、しかしサラは真っ直ぐタルメソンを見つめたまま答えた。

「お前が私の真意を知りたいのであれば教えてやろう。レイソン王亡き今、この国の中心にはレクイヤ様が必要だ。私はそう考えている」

「そうかね」

タルメソンはそう返答し、さらに嬉しそうにナルシャクへ尋ねる。

「ナルシャク、お前はどう思う?」

「私は・・・レミハベル様を置いて、他に適任な人物はいないと思う!」

真剣な眼差しで、はっきりとナルシャクはそう告げた。

「えぇ?」

ハルルがたまらすおかしな声を上げた。

「ま、そうだろうさ」

無精髭を撫で、タルメソンは納得した様子でハルルを見る。ハルルは驚いた様子で、タルメソンに問いかけた。

「どういうこと?」

「どうもこうもないさ。青のトゥトゥと緑オイットー。二人のロードの意見は真っ向からぶつかっている。それだけのことよ」

「ちょっと待ちなさい。それではレイア様はどうなるの?」

「心配なら、お前が推せばいいじゃないか?ハルル」

ハルルはタルメソンの言葉に黙り込み、顎に手を当てた。タルメソンは、自身の損得の思考に沈むハルルを鼻で笑う。彼はイシュリアに鋭い眼光を向けた。

「アリュシア。お前はどう見る?」

タルメソンの発した言葉で、円卓の緊張は一気に高まる。その張り詰めた空気感に、イシュリアは驚く。アリュシアは他のロード達にとって、それほどの影響力を持つ人のかと。しかしタルメソンの真剣な眼差しに、イシュリアは紡ぐ言葉を見つけられない。

「アリュシア、私につけ!」

サラが毅然とイシュリアに言い放った。

「アリュシアは、レミハベル様にこそお仕えすべきだ!」

ナルシャクは慌ててイシュリアにそう申し立てる。なにがなんだか判らないイシュリアは、無言を貫くしかない。五人のロードがイシュリアの言葉を待っているが、イシュリアは固まったまま動けないでいた。すぐに答えが返されるものだと思っていたタルメソンは、意外そうにイシュリアの顔を覗き込む。

「どうした?アリュシア」

血のネイサン(ブラット・ネイサン)なのだ。短気でせっかちな彼女が、答えを出せないままでいる。アリュシアをよく知るタルメソンには、沈黙する魔導卿が理解できない。しかしイシュリアには、その問いに対する答えを持つすべがない。言葉を発することができないのだ。

そんなイシュリアを見つめ、タルメソンは豪快に笑った。楽しそうに笑うタルメソンに、ロード達の緊張も弛緩する。

「沈黙もまた答えだ。まあよい。取り敢えずわかったことが一つある。二人の王女には強く推挙するものがおり、一人にはいない。けれどもその御方は、継承候補の第一だ」

タルメソンは誰に問うでもなく、自身が最初に発した言葉を繰り返す。

「さあこの状況、皆はどう見る?」

「そりゃ、そういう緊張感の中にいるってことだろ?」

ハルルは合点がいったように怪しく笑った。他のロード達は沈黙を守っている。三人の次期女王候補。姉さまならどう行動するのだろうか。イシュリアはアリュシアのことを想い、考えを巡らせていた。


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