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ドロドロとした白濁の中で、イシュリアの意識が戻る。
白濁のそれは、イシュリアの四肢をゆっくりと溶かしていた。熱い何かに飲み込まれていることに気が付いた、イシュリアが慌てふためく。彼は粘り気のある、白い海に漂っている。イシュリアはじたばたと身体を揺らすが、白濁のそれはネバネバと纏わりついて離れない。仰天したイシュリアが、叫び声を上げた。
「うわあっ!」
(大丈夫よ)
突如イシュリアの意識に、アリュシアの声が降り注ぐ。彼は驚き、辺りを見渡した。ポツンと一人、広がる白い海にいるイシュリアが尋ねた。
「姉さま?」
(そうよ、お姉ちゃんよ。イシュリア、ほら早く。全部、お姉ちゃんがやってあげるから。早く開きなさい)
聴覚に頼らないアリュシアの声を聴き、イシュリアは不思議なままに尋ねる。
「開く?何を?」
突如イシュリアの身に、白濁の高波が押し寄せてきた。波は彼をあっという間に飲み込んでしまう。イシュリアは、白濁した海に溺れた。
「なに?なんなのこれは!助けて!」
熱く白い海の中で、イシュリアはもがき苦しむ。身体を焼く白い世界は、彼の五感を奪う。息が出来ない。身体は灼熱に晒されている。イシュリアは、絶叫した。
「姉さま‼」
(イシュリア)
優しく艶やかな声が、イシュリアに響き渡る。大好きな姉の声を聴き、イシュリアは正気を取り戻した。そして、柔らかな肌の質感。華やかな木香茨の香りが、イシュリアの溶けていく肉体の中に現れる。
「姉さま?」
アリュシアの吐息が、イシュリアの意識に触れた。
(そう、いい子ね。イシュリア)
イシュリアはアリュシアに抱擁されているような感覚を得て、安堵する。彼の身体はドロドロと、白濁の海に溶けていく。
(ほら、おいで。イシュリア)
「え?」
(来なさい)
「姉さま?」
(ほら、ここよ)
「どこ?」
(ここだってば)
「ここ?」
(バカ。ちょっ、違う!)
「え?」
(痛っ!ちょっ、だからそこじゃないってば、もうっ)
「わからないよ、姉さま」
(ごめんね、イシュリア。お姉ちゃんも初めてだから。ふふっ。ちょっと緊張しているのかな?でも大丈夫、貴方なら出来るわ)
「出来るかな?」
(だけど、ねえイシュリア。もうそんな意地悪しちゃ、嫌よ?)
「ごめんね、姉さま」
(いい子ね、イシュリア。じゃあ、もう一度最初から。始めましょう)
「最初から?」
(そうよ、ほら。ここにね)
「こう?」
(そう、そこ。イシュリア、ああっ、いいわよ)
「開く?」
(そうね。ほら、ここに)
「え?」
(いくわよ!)
突如アリュシアの中に入っていく、ぬるりとした感覚がイシュリアを支配する。イシュリアは声にならない叫びを上げた。
(ああっ、イシュリア。愛しているわ)
アリュシアの声が遠くに聞こえる。
イシュリアの肉体は、白濁の海へと消えていった。