ノア
あの日、大好きだったおばあちゃんが亡くなってから私たちの生活は一変した。
と言うよりも、国そのものが変わったと言った方が正しいかもしれない。
国のお偉いさんたちは「聖魔の森」を越えて、大陸を侵略すると息巻いているそうだ。
私たち国民からしたら、何を馬鹿なことを、とそんな思いである。
どうして急にそんなことを言いだしたのかわからない。
しかし、そのせいで税の徴収が重くなった。
その影響か、困窮する人が増え、物価も上がったりと悪循環だ。
こんな話をママたちがしていた。
私には難しくてわからないことが多きけれど、悪い事なのは理解できた。
「ノア」
誰かに呼ばれた。
振り返るといとこのお兄ちゃんであるハヤト兄だった。
そうそう。自己紹介が遅れました。
私はノア。東洋国家に住む十歳の少女。
よくおばあちゃんに似て美人だと言われる。とても嬉しい。
ママは双子で、ハヤト兄はママの妹の子だ。
「どうしたの、ハヤト兄?」
「母さんにお使いを頼まれたんだ。一緒に行かないか? 最近あまり外に出れなくてつまらないんじゃないかと思って。どうかな?」
「いいの? 今ってお外危ないんじゃないの?」
「大丈夫だよ。兄ちゃん意外と強いんだからな。ノアのことくらい守れるさ」
「じゃあ、行く。準備してくるからちょっと待っててね」
そう言って私は部屋に向かう。
最近は治安が悪いってことであまりお外に遊びに行けない。
ママたちを心配させるわけにはいかないからね。
おばあちゃんが亡くなってからは特に。
おばあちゃんってすごい魔法使いさんだったみたいで、いつも私たちを守ってくれていたんだって。
外行きの服に着替えた私は玄関で待っていたハヤト兄の下へ。
「お待たせ」
「それじゃ行こうか。……そう言えば、今日か明日にカンナおばさんたちが来るって」
「そうなの?」
「うん。今の情勢だと何かと危ないから、できるだけ一緒にいようってことになって。うちに引っ越してくるみたいだよ」
「へぇ。そんなに部屋空いてたっけ?」
「まあ。うちって結構広いからね」
ハヤト兄の手を握って外に出る。
カンナおばさんはママのいとこだ。
おばあちゃんも双子だったみたいで、その妹のカナリアおばあちゃんの娘だ。
カナリアおばあちゃんは私が生まれる前に亡くなったから、会ったことがない。
おばあちゃんに似て美人だったのかな。双子だもんね。
ママたちもそっくりだし。
「お兄ちゃん、いつ帰ってくるかなぁ?」
「どうだろうね。ガッフっていう街で冒険者をやっているみたいだけど。この前の手紙には、『聖魔の森』近郊で魔物討伐ができるようになったって」
お兄ちゃんはパパたちと冒険者をやっている。
指導という名目で鍛えてもらっているそうだ。
お兄ちゃんはいつも「俺が家族を守るんだ」って言ってた。
そのために今、武者修行中なんだって。
帰ってくるときはいつもお土産を買ってきてくれる。それが一番の楽しみ。
「そういえば、何買いに行くの?」
「食材だよ。カンナおばさんたちが来るんなら、うちにあるのじゃ足りないからね」
「お金は? 最近また値段上がったってママが言ってたよ」
「そうだね。おじいちゃんが残してくれたお金があるし、父さんたちが稼いでいるお金もあるから、心配しなくても大丈夫だよ」
「そうなんだ。じゃあ、安心だね」
「――――よお、ノア。最近見かけないと思ったらこんなところで何してんだよ?」
突然、私に向かって誰かが声をかけてきた。
聞き覚えのある声。とても嫌な予感。
不快感を隠さず、私は前方に視線を向けた。
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