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シュウとミシェル *シュウ視点


 女神たちの協力を得られたところで一旦話を終わらせた。

 すると女神はもう一人の美女ティア――精霊王らしい。心臓が飛び出るかと思った――と二人で散歩に行った。

 この森に来てからの楽しみなんだとか。


 うちの巫女様はまだ寝ている騎士たちの様子を見に行った。

 俺が動き出した頃には何人か起きていたから、話しくらいはできるだろう。

 かなり気に病んでいたからな。少しは安心してほしい。


 ということでこの場に残ったのは俺と女神のメイド――ミシェルだけだ。

 いや、だけというのは語弊があるかもしれない。

 人間は、と言っておこう。

 何やら普通でない動物や魔物、それに精霊が集まってきていた。


 それらがミシェルを囲むようにして整列している。

 そこらの人間の軍隊より統制が取れているぞこいつら。


「は~い、おやつですよ~。仲良く分けてくださいね。精霊たちはこっちの飴です」


「今日は飴かー」

「おれ、ブドウいただきー」

「あー、ずるい。あたしもー」

「抹茶飴が至高……」


 なんだこいつら。ほんとに精霊か?

 完全に餌付けされて飼いならされているじゃないか。

 呆然としているとミシェルがこっちに来ていた。

 動物たちはもらったお菓子を持って家の外に走って行ったみたいだ。


「すみません。ほったらかしにしてしまって」


「いや、構わない。……あの動物たちは? もしかして全部テイムしているのか?」


「そんなわけありません。お嬢様のお力です。詳しいことはお嬢様にお聞きください。――ただし! お嬢様に手を出そうなどと考えないことです。もしそんなことをなさったら……」


「し、したら……?」


「残念ながら、切り落とすことになります。お子は諦めてください」


「ひぅっ!?」


 尋常じゃない殺気を感じ、目がマジだから本気なのだとわかった。

 思わず変な声を出してしまったじゃないか。


「まあ、そんな心配はしなくても良さそうですが。万が一のこともありますから、くれぐれもご注意を」


「あ、ああ」


 こえぇぇぇぇぇぇぇ。

 どうしたらこんな怖いメイドができ上がるんだよ。

 メイドさんに理想を持っていた俺、さよなら。


「それよりあんたに」


「――聞きたいことがあるのでしょう。もちろんお答えしますよ。あなたのことも教えていただきますが」


「ああ、問題ない。全部話すさ」


「ではお茶を入れましょう。先ほどと一緒でよろしいですか?」


「……いや、コーヒーにしてくれ。今はその気分だ」


「かしこまりました」


 ミシェルがキッチンに向かう。

 戻ってくるまでにある程度整理しておくか。

 普通の人間ならこんな突拍子もない話を信じるはずがない。

 おそらく彼女なら……。


「お待たせしました」


「お、おう。早いな」


「メイドですので。……どうぞ」


「ありがとう。――――単刀直入に聞くが、あんたはどっちだ?」


「どっちですか……。あなたの中ではほぼ確定しているのですね」


「ああ。だからあとは確証が欲しい。それで?」


「そうですね。なら私も素直に申しましょうか。私はあなたとは違い”転生者”です。ある別の世界で生きた記憶を持っています。とは言ってもおそらく同じ世界でしょうけど」


「やっぱりそうか。見た目が完全にこっちの世界の人間だからな。で、確かにあんたとは違う。俺は”転移者”だ。気が付いたらサンドリオンから少し離れた場所にある遺跡にいた。それが七年ほど前の話だ」


 これはまだアリアにも話していないことだ。

 この世界に来て初めて話した。

 そのせいか少し心臓がうるさい。


「あら、そんな前からいたのですか。それなら他の皆さんにも話してもいいのでは?」


「いきなりこんな話をされても信じられないだろう。今は記憶喪失ということにしている。……アリアにはいつか話すつもりだ」


「そうですか。それで、この話を私にしてどうしたかったのですか?」


 どうしたかった……?

 どうしたかったのだろうか、俺は。

 確かにこんな話をしてもなんの生産性もないな。

 俺は……?


「――……そうか、安心したかったのかもな。気づいた時には知らない場所にいて、そこは日本とは違う剣と魔法の世界。しかも平和とは言い難い。その上だれも知らない場所で一人。アリアに出会っていなかったらどうなっていたかもわからない。俺は……ずっと不安を抱えていたんだ。見ないふりをしていたけど、なんだかホッとした気分だ」


「……そうですね。心中お察しします。私もそんな経験がありますから」


「そうなのか?」


「ええ。私は孤児です。前世の記憶を取り戻してから数か月後には両親が亡くなりました。それから何年かはスラムで生きることに必死でしたから。私もお嬢様に出会っていなければどうなっていたか」


「……そうか。お互い運は良かったみたいだな」


「ええ」


 目を合わせて笑いあった。

 同郷の人間がいるというだけでこんなにも救われるのか。

 心が軽くなったような気がする。


 それから俺とミシェルはいろいろなことを話し合った。

 これまでの生活のことや日本での暮らしなど。

 お互い意外とオタク趣味で話が合ってしまった。

 その中でたまたま聞いてしまったことだが、ミシェルは女の子が好きらしい。

 親愛とかそう言うのではなく、ガチで。

 そう言う人に逢ったのは初めてだからびっくりした。

 ……一応、アリアにはあまり近づかないでくれと言っておいた。


「心配しなくても大丈夫です。私はお嬢様一筋ですからっ!!」


 それはそれでいいのだろうか。

 まあ、そのお嬢様本人が側に置いているのだからいいのか。

 俺はあまり深く考えないようにした。


 そして俺は気づかなかった。

 ミシェルと話していてかなり時間が経っていたことに。

 ……そして、家の外からアリアが俺たちを見て何とも言えない表情をしていたことに。


 ――お嬢様と精霊王が帰ってきたことにより、俺たちの話は一旦終了した。







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