カランの奔走
――あの日からまだ数ヶ月。
その短い時間しか経っていないが、私の日常は大きく変化した。
変化というよりは一新したと言った方がいいのだろうか。
まずクィンサス王国は帝国・共和国双方の属国となった。
一番の変化はこれだ。
帝国からは技術を、共和国からは人を提供され国の改革が行われた。
それに伴いクィンサス王国では王政が廃止となった。
クィンサス王国の王族、爵位を持つ貴族はその身分を剥奪され、上も下もない全ての民が同じとなった。
新しく実力主義の民主制となり、自薦他薦問わず優秀な者、国民に認められた者が上に立つようになった。
今は貴族平民それぞれから人気があった元侯爵家の嫡男が総統という立場を得た。
私はその補佐として日々奔走している。
もちろん元貴族たちの反乱は予想出来ている。
何度か義挙と言って攻め込んできたが、共和国側の尽力により早々に終結した。
何をしたかは知らない。
今の私たちが口を出せる立場ではないのだから。
王族の方たちは帝国・共和国双方の監視下に置かれ生活しているそうだ。
何かする気も起きないのか、話を聞く限り文句も言わず普通に暮らしていると聞いた。
かの王太子はあの一件以来精神的なダメージが大きく未だ立ち直っていないと。
何事もなく生きているのであればいいと思う。
いつかちゃんとお話しできることを祈っている。
そう言えば、彼女の生家であるアマリリス公爵家の人間は失踪したと情報を得た。
未だ消息をつかめていない。
何かを察して逃げ出していたのだろう。屋敷はすでにもぬけの殻だった。
それ以前に彼女を勘当してからというもの、公爵家に勤めていた人たちは皆やめていったそうだ。
残ったのは公爵家の人間だけ。貴族として悠々自適に生きていた彼らに生活力はなく、屋敷の維持もままならないほどに借金を抱えていたと噂されていた。
元々彼女一人に公爵家の仕事をさせて遊び呆けていた無能たちだ。
彼らだけで何かできるはずもない。
一応捜索はしているが情報次第では放置してもいいだろう。
次に問題だったのは国民たちだ。
混乱した国民たちを治めるのがかなり大変だったと記憶している。
何せこれまでの生活が一変したのだから。
実力主義の施策に民主制の導入。いくら共和国の支援があったとしても簡単なものではなかった。
職を失う国民が後を絶たなかった。
それを解決するために奔走し、その上元貴族の反乱も起こってしまった。
眠る暇もないほど忙しかった。
何とか国民たちへの補償を行ったが、国民たちの士気は上がらなかった。
なんせ国の改革に巻き込まれ守護神さえもいなくなってしまったのだから。
街に出るとその話を聞かないことはなかった。
神獣がいない、ユミエラがいたら、という声が国民を不安を煽っていた。
そんな中、総統がこんな声明を出した。
『神獣とユミエラ・フォン・アマリリスは遥か遠き地で共に生きている。
いつか祖国に戻ることを夢見ていると。それまでに我々はこの国を守り継いでいく必要がある。
彼女らが笑ってこの国を訪れることができるように、我々は尽力する。
国民たちよ、共に』
この声明の効果か国民たちの士気も大幅に上がった。
彼らもいつか神獣と彼女が帰ってきてくれることを夢見ているのだろう。
彼女らが戻ってくるかは定かではない。
しかし、私は彼女との再会を約束した。
その再会はおそらく我が国で果たされるのではないかと勝手に解釈している。
その日が少しでも早く訪れるように私は私に恥じないように努力すると誓った。
彼女らが笑ってこの国を訪れることができますように――。
合言葉のように口にされるようになったこの言葉を胸に。
私たちは前を向き走り続ける。
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