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第九話 エルフさんじゅうななさい

「エルフ?」


 金髪で耳が長く、人間離れしているようにすら見える美貌。

 目の前に現れた少女は、まごうことなきエルフであった。

 いやはや、まさかこんなところで会えるとは!

 エルフという種族は、基本的に生まれた森から出ようとしない。

 そのため街中で出会うことはめったになく、まして人間の経営するギルドや商会に就職することなど非常にまれだった。


「おっと、失礼! すいません、変なこと呟いてしまって」

「構いません。私がエルフなのは事実ですので」


 慣れているのか、落ち着いた対応をするエルフさん。

 良かった、機嫌を損ねなくて。

 種族関連の話はかなりデリケートなので、本来ならば気を使わなくてはいけないところだ。


「ありがとうございます。では改めまして、ギルドマスターのロアです」

「私はリリアと申します。よろしくお願いいたします」

「ではさっそくですが、志望理由について聞かせてください。どうして、うちのギルドに入りたいと思ったんですか?」

「はい。もともと私は、街で冒険者をしていたんです。ですがある時、ちょっとしたことで所属していたパーティが解散してしまいまして。魔法職だった私は、ソロで活動するのも難しかったことから受付嬢になったんです」


 冒険者からギルドの職員になるというのは、割とよくある話である。

 そもそも経営者であるマスターからして、元冒険者であることがほとんどだからな。

 不審な点はないので、うんうんとうなずく。


「こうして受付嬢となった私は、十年ほどそのギルドでお世話になりました。しかし先日、恥ずかしながらやめて欲しいと言われてしまいまして」

「失礼ですが、理由をお聞かせ願えますか?」

「はい。その……年齢が理由ですね」


 年齢?

 見たところ、十代後半ぐらいにしか見えないけどな。

 俺は急いで履歴書の年齢が書かれている欄を確認した。

 すると――。


「三十七歳、ですか」

「はい。先方のマスターから、その……『そろそろ嬢というのは厳しいよね』と言われてしまいまして」

「うお……!」


 そりゃまた、キッツイこと言うなぁ!

 いったいどこのギルドの人だろうか?

 女性に向かってそんなこと言うとは、とんでもなく図太いな!

 デリカシーとか気遣いと言ったものを、すべてどこかへ投げ捨てたのだろうか。


「な、なるほど……。でも、リリアさんはエルフなんですよね? エルフは人間に比べるとほとんど年を取らないって聞いたことありますけど」

「ええ。十代後半ほどで加齢が止まって、そのあと死ぬ寸前までほぼ老化しません」

「だったら、年齢を理由に解雇というのがそもそもおかしいのでは?」


 実際、本人が言わなければリリアさんは二十歳前ぐらいにしか見えない。

 本当の意味での『永遠の十七歳』ってやつだろう。

 それならば別に、歳のことなど言う必要ないのではなかろうか。


「それがですね……。見た目は若くても、中身がおばさんなのはキツイと。あと、三十七歳というのが中途半端でダメだそうです。いっそ百歳を過ぎてれば、それはそれでありなのだとか」


 ……確かに、三十七歳というのはいろいろと生々しい年齢ではあるな。

 美魔女感というか、イケるかどうかギリギリ感というか……

 ならばいっそ、百歳ぐらいの人間ではあり得ない年齢の方がいいというのもわからないではない。

 けど、それを理由にギルドをやめろなんて言うのは論外だ。

 経営者として、いや、それ以前に人としてやっちゃいけないことだろう。

 そもそも、長く働き続けてくれる人材なんてそうそう得られるものじゃないのに。


「安心してください、うちはそういうこと一切言いませんから」

「あ、ありがとうございます! 今まで、どこに行っても年齢を理由に断られてきましたので。本当にうれしいです!」

「あはは、当然のことですよ。そういう差別は良くないと思ってますから。あくまで採用は公平に行わせていただきます」


 とはいっても、リリアさんでほぼ決まりではなかろうか。

 現在のギルドに何よりも必要なのは、経験豊富な人材である。

 その意味で、実務経験が十年あるというリリアさんに勝る人はいないだろう。

 加えて、ギルドの看板娘としても申し分のない容姿をしている。

 

「はい、それで十分です! 後は実力で、採用を勝ち取って見せます!」


 そう言うと、自信ありげな笑みを浮かべるリリアさん。

 その輝くような表情は、先ほどまでの営業スマイルよりもずっと綺麗に見えた。


――〇●〇――


「そういうわけで、リリアさんが新たに白光の槍の仲間となりました!」

「皆さま、よろしくお願いします!」


 数日後。

 結局リリアさんを採用した俺は、ギルドの皆に彼女の紹介をしていた。

 やはり実務経験が十年あるというのは、アドバンテージとして大きかった。

 そのほかの応募者も優秀な人が多かったが、頭一つ抜き出ていたのだ。

 もちろんそれ以外にも、リリアさんが優秀な点は多いのだが。


「こちらこそ、私はキッカ。よろしく頼む」

「俺はエルグランドだ。よろしくな!」

「はい。キッカ様にエルグランド様ですね、承知しました」


 深くお辞儀をするリリアさん。

 彼女はそのまま周囲を見渡すと、おやっと首を傾げる。


「他の方々はお留守ですか?」

「いや……恥ずかしながら、今のうちにはこの二人しかいないんだ。ちょっと前に、先代だったうちの両親が亡くなってさ。俺が跡を継いだんだけど、その時の騒動でほとんど辞めちゃって」

「そうでしたか。では私も、ギルドのために頑張らなくてはいけませんね!」

「はい、お願いします。人数は少ないですが、そちらの二人はかなりたくさんのお仕事をこなしますからね。これでも、やるべき仕事は結構あるんですよ」


 そう言うと、俺はカウンターの上に積まれた書類の山を見た。

 最近、受付嬢さんの採用とかで平常業務が少し溜まってたからなぁ。

 早いうちに処理してやらなくては。


「これは……かなりありますね」

「最近、なんだかんだと忙しくて。二人で手分けして、今週中には――」

「今日の夕方までには処理しますね」

「え?」


 いやいやいや、俺でも一週間はかかる量だぞ?

 いくら何でも、今日の夕方までにこなすのは無理だ。

 初日でいいところを見せたいからって、無茶をされても困る。

 俺はすぐさま、彼女を止めようとしたのだが――。


「は、早い!?」


 リリアさんの手が、眼にも止まらぬ速さで動き出した。

 す、すごい!

 手が分裂して千手観音みたいになってる!

 本当にこの人は人間なのか!?

 いや、エルフなんだけどさ!


「……まさか、前に金獅子にいたっていう事務の神か……?」

「キッカさん、知ってるんですか?」

「ああ。一時期、金獅子の裏仕事を一人で回していたと話題になっていたからな。まさかそれが、こんな少女だとは思わなかったが……」


 金獅子と言えば、町一番の有力ギルドである。

 構成人員も非常に多く、三百人ぐらいは居たはずだ。

 その事務作業を一人でって、本当だとしたらとんでもないことだ。

 でも、今の作業スピードを見ているとあながち嘘でもなさそうな……。


「こりゃまた、凄い人がうちのギルドに増えたかも」


 こうして俺たちのギルドに、また新たに凄腕の人が加わるのだった。


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