第八話 初めての面接
「ええっ!? 応募が二十件もあった!?」
街の酒場にて。
主人に依頼しておいた求人の件を聞くと、驚きの答えが返ってきた。
冒険者の募集に対しては、未だにほとんど応募がないというのに。
いったいどうして、受付嬢の募集にはそんなにみんな食いついてきたんだ!?
「条件が良かったからな。受付嬢に金貨三枚も出すようなギルドは他にねえよ」
「いやいや、それぐらい普通じゃないですか?」
金貨三枚というと、日本円でだいたい三十万円ぐらいの感覚だろうか。
確かに初任給として考えると、それなりに多めではある。
けどボーナスはないし、年功序列で必ず昇給していくというわけでもない。
むしろ、余裕があればもっと出してあげたいぐらいだ。
「女の仕事なんて、水商売でもなけりゃ金貨一枚から二枚がせいぜいだろ。冒険者って手もあるけどよ」
「それじゃ、まともに生活できないじゃないですか」
「女なんだから、男に養ってもらえばいいだろ?」
俺の問いかけに、呆れたような顔をして答える主人。
ああ、なるほど……そういう発想になってしまうのか。
この世界における女性の立場は、日本と比べてもまだまだ弱い。
必然的に、賃金なども低く抑えられているのだろう。
「なるほど……。うちにとっては都合がよかったですけど、あんまりありがたくないような……」
「ま、集まったならいいじゃねえか。選考頑張れよ」
「はい!」
「んじゃ、これが応募者たちから預かった書類だ」
そう言うと、主人はカウンターの下から書類の束を取り出した。
事前に提出を依頼しておいた、応募者さんたちの履歴書である。
この世界にはそういう文化はないらしいので、ただの書類扱いだけども。
「おお……皆さん、結構気合の入った文章を書いてますね!」
この世界の識字率は低い。
そのため、履歴書の内容についてはさほど期待していなかった。
それがどうしたことだろう、どの履歴書もぎっしりと文字が詰まっている。
応募者たちのやる気が、ひしひしと伝わってくるかのようだ。
「こりゃ、こっちも気合入れて面接しないとな」
思えば、前世において面接をする側になったことは一度もなかった。
何かと落とされることの多かった俺が、異世界とはいえ採用側として面接に臨むとは。
何だかちょっと感慨深かった。
――〇●〇――
「ほかに質問はございますか?」
「あ、ありません!」
ギルドの奥にある応接室。
普段は主に依頼人とのやり取りで使っているそこを、今日は面接会場として使っていた。
並べられた椅子に少女が一人。
額に汗を浮かべ、緊張した面持ちで腰かけている。
「では、本日はお疲れ様でした。結果は一週間以内に連絡いたします」
「ありがとうございました!」
深々とお辞儀をすると、そのまま部屋を退出する少女。
俺は彼女の背中を見送ると、すぐさま受けた印象をメモし始める。
既に十九人の面接が終わり、残すはあと一人だ。
「アイネさんは元気が良かったな。ロミナさんは落ち着いた感じで……」
これまでの応募者のことを振り返りながら、ああでもないこうでもないと頭をひねる。
やる気も能力もありそうな人が多くて、誰を採用すればいいのか本当に迷ってしまうな。
できればみんな採ってあげたいが、そんなわけにも行かないし。
ううーん、本当に迷いどころだな……。
「よう、順調か?」
「エルグランドさん! それにキッカさんも!」
俺があれこれと頭を悩ませていると、部屋に二人が入ってきた。
彼らは俺のすぐそばに立つと、土産とばかりにお茶を差し出してくる。
「緊張して、喉が渇いただろう? 飲むといい」
「ありがとうございます!」
「それで、面接の方は? いい子はいたか?」
「それが、みんないい子で逆に選ぶのに困ってるんですよ。ぜいたくな悩みですけどね」
俺がそう言うと、エルグランドさんは腰に手を当てて豪快に笑った。
そして、俺の肩に手を置きながら言う。
「だったらよ、いっそマスターの好みで選んじまったらどうだ? 俺がいた頃の天馬のたてがみなんて、マスターが金髪好きだったから金髪の受付嬢しかいなかったんだぜ」
「なんですかそれ!?」
「言われてみれば……。私が前にいた巨人の拳の受付嬢は、みな胸が大きかったな……」
「どこも欲望に素直すぎですよ!」
「そんなこと言って、白光の槍も元はそうだったんじゃないのか? 前は普通に雇ってたんだろ、受付嬢」
エルグランドさんにそう言われるが、うちで雇っていた受付嬢さんにこれといった特徴はなかった。
父さん、なんだかんだで母さんに頭が上がらなかったからなぁ。
自分好みの受付嬢を雇うなんて、まあできなかったのだろう。
「別に、うちは普通でしたよ」
「本当か?」
「もちろん。それより、そろそろ次の人たちがきちゃいます」
「ああ、そうか。では、我々はそろそろ失礼しよう」
そう言うと、キッカさんはまだ話足りない様子のエルグランドさんを引っ張って出ていった。
さて、面接も次でいよいよ最後だ。
いったいどんな人がくるのかな。
俺はお茶を含んでのどを潤すと、そのまま姿勢を正す。
「失礼します」
「どうぞ、お入りください」
ゆっくりと押し開かれるドア。
やがてそこから姿を現したのは――。
「エルフ?」
耳が長く、どこか浮世離れした雰囲気を纏った金髪の少女だった。