第十七話 噂の魔法使い
「知り合いに魔法使いはいないか……だって?」
その日の夕方。
俺は早速、仕事から帰ってきたキッカさんに心当たりがないかどうか尋ねてみた。
いろいろと策を考えてはみたが、やはりダンジョン攻略には魔法使いを仲間にするのが一番だ。
魔法使いがいれば、ギルドとしてできることも広がるし。
「はい。実は、合同討伐の報酬であるダンジョンの権利を買おうと思ってまして。それで、そのダンジョンの攻略にはどうしても魔法使いの力が必要なんです」
「事情はわかった。だが、私は前にも言ったと思うが交友が狭くてな。魔法使いの知り合いはあいにく……」
眉間にしわを寄せて、困ったような顔をするキッカさん。
そもそも、魔法使いの冒険者というのが限られていた。
魔法使いはさまざまな場所で優遇されるし、国も雇用に積極的だ。
不安定な冒険者になどならなくても、他にいくらでも仕事があるのだ。
「どうした? 二人して深刻な顔して」
俺とキッカさんが悩んでいると、エルグランドさんが話しかけてきた。
すでにほろ酔い加減な彼に、すぐさまキッカさんが事情を説明する。
「魔法使いねぇ。そういうことなら、蠍の尾の奴らが詳しいんじゃないか? あそこはもともと、魔法で有名だったギルドのはずだぜ」
「へえ、そうだったんですね! ありがとうございます!」
あまりそういう印象はなかったけれど、エルグランドさんが言うならそうなのだろう。
言われてみれば、マスターも召喚魔法を使っていたしな。
俺はすぐにギルドの中を見渡すと、掲示板の前にいる男へと声をかける。
「ボルタさーん! ちょっといいですか?」
「何でしょうか?」
「聞きたいことがありまして。少し時間を貰えますか?」
すぐにこちらへと歩いてくるボルタさん。
彼は新たに加わった元蠍の尾のメンバーの中でも、リーダー格を務めていた。
うちへの移籍を提案したのも、実は彼だったらしい。
俺はそんなボルタさんに、すぐさま呼び立てた訳を話す。
「そういうことですか。確かに、蠍の尾は魔法で有名でしたよ。五年ぐらい前の話ですけど……」
「最近は違ったんですか?」
「ええ。ラゴーヌさんがマスターに就任する時に一悶着ありましてね。あの人、自分と同じ魔法学校の出身者を露骨に贔屓し始めたんですよ」
「あー……」
日本で言うところの学閥ってやつを作ろうとしたんだな。
自身の権力を確立しようとしたのだろうけど、ずいぶんなやり方である。
そんなことをすれば、反発を受けて当然だ。
「それで、ギルドにいた魔法使いのほとんどが出て行ってしまったんです。蠍の尾が低迷を始めた原因の一つですよ」
「権力を手に入れたところで、ギルド自体が衰退しちまったら世話ねえな」
「はい。なので魔法使いの知り合いは、あまり……」
「そういうことなら仕方ないですね」
そういうと、俺はカウンターからすっかりおなじみとなった求人票を取り出した。
知り合いを頼れないのであれば、地道に募集するより他はない。
魔法使いは絶対数が少ないので、採用できるかはかなり微妙だけれど……。
このまま何もしないよりはマシだろう。
するとここで、ボルタさんが思い出したように手を叩く。
「そうだ! 一人だけ心当たりがありますよ!」
「本当ですか?」
「ええ。炎魔法の使い手で、スライムを焼き払うのであればもってこいの人物です」
「おおお!」
それは素晴らしい、ぜひとも紹介してもらわなくては!
俺はズイズイっとカウンターから身を乗り出し、ボルタさんの方へと前のめりになった。
すると彼は、俺の過剰な期待を感じ取ったのか額に浮いた汗をぬぐって言う。
「ただし、ですね。実力は申し分ないのですが、何かと訳アリのようでして……」
「どんな訳なんです?」
「そこまでは把握してないです。ただ、蠍の尾に登録できずにずっと二次請けをしていましたね」
二次請けと言うのは、冒険者のさらに下請けに当たる存在である。
依頼をどうしても達成したい人がこっそり雇う傭兵のようなものだ。
主に富豪の息子などが功績稼ぎのために使うと言われている。
仕事柄、総じて実力は高いのだが……はっきりいって黒い人たちが多い。
ヤの付く自由業みたいな人たちが取り仕切る領域だ。
「おいおい、二次請けなんて大丈夫なのか?」
「そうだぜ。いくら魔法使いが欲しいと言ったって、あんまりヤバい奴は困るぜ」
「それは大丈夫です。何度か話したことがありますが、人柄はとてもよかったですよ。何か危ないことに手を出しているような様子もなかったですし。どうしてギルドに登録させてもらえなかったのか、みんな不思議がってましたから」
ボルタさんに同調して、元蠍の尾の面々がうなずいた。
彼らの間では、結構有名な人らしい。
これは一度、会ってみる価値はありそうだな。
ギルドに入れなかったと言っても、あのラゴーヌさんのしたことである。
性格が合わなかったとか、それぐらいの理由で拒否していても不思議じゃない。
「わかりました。その人の名前と住所を教えてもらえますか? 明日、尋ねてみようと思います」
――〇●〇――
「えーっと、このあたりかな?」
ラグドアの街の西側。
商店の建ち並ぶ地区から少し路地裏に入ったあたりに、その魔法使いさんは住んでいた。
名前はスーシャさん。
ボルタさんの話では、金色の髪をした若い女性らしい。
「お、あったあった!」
路地裏にひっそりと佇む小さな一軒家。
ボルタさんに描いてもらった絵と全く同じ建物である。
この世界、日本と違って標識とか出してないからわかりにくいんだよな。
俺は絵が得意なボルタさんに感謝しつつ、呼び鈴を叩く。
すると――。
「はーーい!!」
元気のいい返事とともに、女性が勢いよくドアを開けて出てきた。
あ、あれ?
黒い商売をしてる人って聞いてたから、もっと大人な感じを想像していたけど……。
「どうかされました?」
首を傾げるスーシャさんの姿は、まだ二十歳前の少女にしか見えなかった。




