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第十四話 竜の力

「ぬんっ……!」


 大戦斧で爪を受け止め、踏ん張るエルグランドさん。

 その後ろには、青ざめた顔をしたラゴーヌさんがいた。

 どうやら、間一髪のところで間に合ったらしい。


「こいつは……なぜケルベロスがこんなところに!」

「見てください、ラゴーヌさんの足元! 魔法陣ですよ!」


 ラゴーヌさんの足元には、複雑な文様の魔法陣が刻まれていた。

 恐らくは召喚魔法を行使するためのものだろう。

 少し離れたところには、魔石を供えた祭壇のようなものまである。


「どうやら、こいつが呼び出したみてぇだな」

「ひぃっ! すいません、すいませんでした!」


 エルグランドさんに睨まれ、ひたすらに謝り倒すラゴーヌさん。

 聞きたいことや言いたいことが山ほどあるが……今はそれよりもこの状況をどうにかしないとな。


「俺はラゴーヌさんを保護します! キッカさんはエルグランドさんと一緒にケルベロスを足止めしてください!」


 俺がそう言うと、キッカさんは少し不満げな顔をした。

 そしてケルベロスの方を見据えると、不敵な笑みを浮かべて言う。


「足止めでいいのか? あんな犬っころ、倒してやってもいいのだぞ?」

「え? いくら何でもそれは……」


 キッカさんの実力はエルグランドさんとの模擬戦でだいたい把握している。

 彼女は確かに強い、そこらの冒険者とは比較にならないほどだろう。

 しかし、あくまで人間の範囲だ。

 伝説の魔獣であるケルベロスに届くほどとは思えない。

 するとエルグランドさんが、俺の考えを見透かしたように言う。


「心配いらねえよ。キッカはたぶん、マスターが思ってるよりもずっとつええ」

「どういうことですか?」

「この前の模擬戦、こいつはまだ何か隠してるみてえだったからな。大方、俺に怪我させないように手加減したんだろうけどよ」


 手加減されていたことに、複雑な感情があるのだろう。

 エルグランドさんは眉間にしわを寄せて渋い顔をした。

 そう言えば、戦いが終わった後に手加減がどうとか言ってたな……!


「そう言うわけだ。だから、私に任せてくれ」

「わかった。キッカさん……あいつを倒してください!!」

「よし!」


 獰猛な笑みを浮かべるキッカさん。

 彼女は自らの顔に手を伸ばすと、再び眼帯を外した。

 開放された竜眼が金色の輝きを放つ。

 その光は次第に強まり、やがて彼女の身体全体を包み込んでいく。


「竜眼……最大解放!」


 光が満ちた。

 迸る閃光に、ケルベロスまでもが眼を閉じる。

 数瞬ののち。

 その場に立っていたのはーー。


「キッカさんなのか……?」

「すげえ、ここまでだったのかよ……!」


 全身からただならぬ魔力を吹き上げるキッカさん。

 その右腕は鱗に覆われ、額からは長い角が生えていた。

 人と竜が合わさったようなその姿は、圧倒的なまでの力を感じさせる。

 

「行くぞ、エルグランド! やつを引きつけてくれ!」

「おうよ!」


 大戦斧を振りかざし、ケルベロスに向かって勇ましく突き進むエルグランドさん。

 その脇をキッカさんが駆け抜けた。

 風と化す身体。

 刃が閃き、斬撃が走る。


「はぁっ!」


 強烈無比な一撃。

 ケルベロスの黒い毛皮が、裂けた。

 腕が落とされ、傷口から赤黒い血が溢れる。


「グオオオオッ!!」

「ふっ!」


 轟く絶叫。

 血に濡れた顔でキッカさんがーー笑った。

 彼女は身を翻すと、次々と斬撃を繰り出す。

 その動きは流れるようで、しかも驚くほどに速い。

 これが真の力なのだろうか。

 衝撃波すら伴う斬撃は、以前見たものとは次元が違う。

 しかし、さすがは伝説の魔獣。

 その速度にも少しずつ対応してくる。


「どっせえぇ!!」


 気迫の突撃。

 エルグランドさんのタックルを受けて、ケルベロスの体が揺らいだ。

 注意がそれて、わずかに隙ができる。


「今だ!」

「キッカさん!!」

「うおおおォ!!」


 一刀両断。

 ケルベロスの首が宙を舞った。


ー○●○ーー


「ケルベロスを倒すなんて! すごいですよ、キッカさん!」


 戦いが終わった後。

 俺はすぐさまキッカさんへと歩み寄った。

 いつもの姿に戻った彼女は、少し照れたような顔をして言う。


「これもマスターのおかげだ。この技は消耗が激しくてな、万全の状態でなければ使えない。もしマスターがこれまで無理に働かせていたら、今頃は負けていただろう」

「いやいや、そんな大げさな」


 ブンブンと首を横に振る。

 俺はあくまで、普通のことをしていただけだ。

 別に大したことはしていない。


「マスターは謙虚だな。それに対して、まったくこいつときたら……」


 エルグランドさんはラゴーヌさんを睨みつけた。

 するとラゴーヌさんは、先ほどまでの情けない様子はどこへやら。

 すっかり威厳を取り戻した様子で語る。


「ふん、好きにしろ。だがあらかじめ言っておくぞ。俺がケルベロスを召喚したという証拠はない。そうだ、証拠はないんだ!」


 完全な開き直り。

 しかしーー参ったな。

 ここは科学捜査なんてものの存在しない異世界。

 居直られてしまうと、不法行為を証明するのはかなり難しい。


「それなら心配しなくていい」


 どこからか声が聞こえてきた。

 振り向けば、たくさんの冒険者たちが立っている。

 彼らは、もしかして……!


「お前たち! よく戻ってきてくれた!」


 両手を広げ、冒険者たちの方へと駆け寄るラゴーヌ。

 満面の笑みを浮かべ、再会を心から喜んでいるかのようだ。

 しかしーー。


「召喚の件は必ず証言しよう。俺たち、蠍の尾がやったと」

「なっ! 貴様ら、私を裏切るのか!?」


 吠え立てるラゴーヌ。

 それを無視して、冒険者たちははっきりとそう告げた。

 キッカさんとエルグランドさんが、やれやれと肩を竦めて言う。


「冒険者を大切にしてきたかどうか。その差が出たな」



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