第十三話 魔獣出現
「いよいよ、今日で最後ですね」
迎えた合同討伐最終日。
俺はいつにも増して、気合いが入っていた。
帰るまでが遠足とはよく言うが、何事も事故が起きやすいのは終わりがけである。
あと少しという気の緩みが重大な結果を招くのだ。
「このまま行けば、上位に食い込むこともできるかもしれません。ですが、何より大事なのは無事に合同討伐を終えることです。安全最優先で頑張りましょう!」
「おーー!!」
俺が話を終えるのに合わせて、他の四人が気勢を上げた。
思えば、最初のうちはここまでみんな打ち解けていなかったよな。
特に若手二人は、先輩二人に遠慮することが多くどことなく距離があった。
それが今では、俺も含めた五人でしっかりとチームワークを駆使して狩りを行なっている。
もともとはギルドの知名度を上げるために参加した合同討伐だったけど、思わぬ成果だ。
「では、そろそろ行きましょうか」
「ああ。……ん?」
「どうかしましたか? キッカさん」
「妙な魔力の動きを感じてな。森の奥からだ」
そういうと、キッカさんは眼帯を外した。
竜眼が大きく見開かれ、万物を見通さんと金色に輝く。
これは、何か相当にヤバそうだな。
キッカさんのただならぬ気配を察した俺たちは、自らの武器へと手を掛けた。
「これは、召喚の類か……? どうにも嫌な予感がする。マスターたちは、本部に連絡に行ってくれ。エルグランドは私と一緒に様子を見に行こう」
「待ってください! そういうことなら、俺も同行します!」
いくら二人が強いとはいえ、彼女たちだけで危険な場所に行かせるのは気が引けた。
これでも、俺は白光の槍のマスターだ。
所属する冒険者たちを、最後まで見守る義務がある。
「わかった。ならば、ラーサーとメリシダ。報告は任せたぞ」
「はい!」
「わかりました!」
胸を叩き、うなずくラーサーとメリシダ。
二人はすぐさま本部のある方に向かって走っていった。
「よし、我々も行くぞ」
「おう! 腕がなるぜ!」
「油断は禁物ですよ。何か、肌がピリピリするような感じがします……!」
こうしてキッカさんを先頭に、魔力の発生源へと向かう俺たち。
森全体を、何やら不穏な空気が覆いつつあったーー。
ーー○●○ーー
「我、紅き月と契りを結び冥府の門を開かんーー」
時は少し遡り。
魔樫の森の中心部にて、ラゴーヌが儀式を執り行っていた。
その足元に刻まれるは、古代文字にて記された魔法陣。
ラゴーヌが呪文を詠み上げるのに応じて、紫の光を怪しく揺らめかせている。
さらにその周りを、完全武装した冒険者たちが取り囲んでいた。
「こんなこと本当にうまく行くのか……?」
「さぁな。けど、従うより他はねえよ」
不安を露わにする冒険者たち。
ーー魔石を使って強力な魔獣を召喚し、それを討伐して戦果とする。
ラゴーヌが彼らに伝えた作戦はこうだった。
強力な魔獣であれば、一体でも大きな戦果として計上される。
これまでの不振を、この魔獣討伐で一気に挽回するつもりなのだ。
もっとも、こんなマッチポンプじみたやり方で戦果を稼ぐのは邪道も邪道。
バレたらもちろんタダでは済まない。
最悪の場合、ギルドが取り潰しになる可能性まである。
「なーに、魔獣の討伐さえすませばマスターが何とかしてくれるさ。あの人はそれでのし上がって来たんだからな。もっとも……」
そこまで言ったところで、改めてラゴーヌの方を見やる冒険者。
どんな魔獣でも、召喚された直後は動きが鈍る。
そこを狙い打ちにすれば、討伐は容易いはずだった。
しかし、どうにも胸騒ぎがして仕方がない。
「出でよ、冥界の獣よ!」
詠唱が終わった。
ラゴーヌは両手を高く掲げ、天を仰ぐ。
にわかに黒雲が垂れ込めてきて、雷鳴が轟いた。
その直後、地鳴りにも似た唸りが聞こえる。
「来るぞ!」
「構えろ!! チャンスは初めだけだ!」
臨戦態勢を取る冒険者たち。
ある者は弓を引き、ある者は杖を構え、ある者は剣を抜いた。
一瞬の静寂。
緊迫した空気が周囲に満ちた。
そしてーー。
「グアアアァ!!」
「なっ!? ケルベロスだと!」
空間を引き裂いて現れたのは、三つ首の魔犬であった。
その手足は丸太のように太く、胴体は小山のよう。
鋭く尖った爪は、人間の身体などいとも容易くバラバラにしてしまいそうだ。
さらに口から吐き出す炎は、地面を瞬く間に黒く焼き尽くす。
「か、掛かれ!! 今しかないぞ!」
「撃てぇ!!」
矢の雨が降り注いだ。
続けて、ありとあらゆる属性の魔法が放たれる。
この機会を逃すまいと、今度は剣士たちが飛び出した。
しかしーー。
「グラァ!」
「ぬおっ!?」
「うごぁっ!!」
瞬く間に吹き飛ばされる冒険者たち。
あまりのやられっぷりに、ラゴーヌは状況も忘れて吼える。
「貴様らァ!! それでも蠍の尾の精鋭か!!」
「そんなこと言われても、あんなのに勝てるかよ!」
「泣き言を言うな! クビにするぞ!」
「クビでいい! 死ぬよりゃマシだ!!」
とうとう冒険者たちの不満が爆発した。
ケルベロスと言えば、魔獣の中でも最高峰の存在。
一国の軍が総出で出動して、どうにか戦えるぐらいの相手である。
根性論でどうにかなる次元ではなかった。
「お、おい! 私を守れ!! 二度と働けなくするぞ!」
必死に呼びかけるラゴーヌだったが、もはや言うことを聞くものはいなかった。
物理的な死が間近に迫っているのである。
もはや、社会的な死を恐れている場合ではなかった。
「グアアア!!」
「ひっ、ひぃ……!」
腰が抜けてしまったラゴーヌ。
どうにか逃げようとするが、まともに動くことすらできなかった。
そんな彼に向かって、ケルベロスは容赦なく爪を振り下ろそうとする。
「誰か、誰か助けてくれぇ!!」
恥も外聞もかなぐり捨てて、情けなく叫ぶラゴーヌ。
その瞬間ーー。
「うらぁ!!」
大戦斧がケルベロスの爪を受け止めた。




