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第十二話 コツコツVSイッキ

「ふぅ……今日はここまでにしよう!」


 額に浮いた汗を拭いながら、みんなに声をかける。

 合同討伐の開始からはや五日。

 安全な河原に拠点を設けた俺たちは、そこから森の中心部へと狩りに来ていた。

 約五時間ほどの狩りで、戦果はウォーベアーが八頭、オーガが十五体、キラーラビットが二十八羽。

 初日からほとんど変わらない数字を維持し続けている。


「獲物は全部、このバッグに詰めてくれ。他の魔物が来ないうちに」


 俺もすぐさま作業に加わり、残っていた獲物を詰めていく。

 そろそろ、一つ目のマジックバッグが一杯だな。

 予備を使わなくちゃ。


「こうして見ると、ずいぶんたくさん狩ったものだな」

「そうですね、そんなに仕事したような気がしないのに」


 カバンの中を覗き込みながら、不思議そうな顔をするキッカさんとラーサー。

 もとより、一日五時間程度の狩りである。

 彼らからしてみれば、本気の七分目と言ったところだろう。

 それで思った以上に成果が出ているのだから、驚くのは当然か。


「こういうのは積み重ねが大事なんだ。最初から飛ばしていたら、絶対に途中でバテてこんなに狩れてないよ」

「マスターの言う通りだな。俺たちだけでやってたら、初日から徹夜してそのあとしばらくは休んでそうだ」

「う、私それやりそう……」

「俺もだ」


 エルグランドさんの言葉に、胸を抑える若手二人。

 たしかに、そういうとこあるよな。

 だからこそ、初日にしっかり休むように注意したのだけど。

 やる気があるのはいいことだけど、だからと言って暴走するのは違う。


「まぁ、冒険者の管理をするのもマスターの仕事だから。うちにいる間は頼ってくれて大丈夫だよ。みんなが無理しなくても、ギルドが回っていくようにしてるからね」

「マスター、優しい……!」

「前にいたとことは大違いだわ!」


 俺の言葉に、何やら感動した様子を見せる二人。

 あれ、そんなに凄いこと言ったか?

 俺がキョトンとしていると、すかさずキッカさんが言う。


「普通のギルドは、少しでも優秀な奴は限界まで依頼を受けさせるからな。無理をさせないなんて言うのは、マスターぐらいだ」

「え? でも、そんな無理ばっかりさせてたら身体壊しちゃいませんか? 冒険者なんてキツイお仕事なんですし」

「潰れたら違うやつを雇えば良いって発想なんだよ。冒険者志望なんて、腐るほどいるからな」


 実際に何らかの経験があるのだろうか。

 エルグランドさんがしみじみとした口調で語った。

 なんとまぁ……骨の髄までブラックだな。

 そんなのでよく今までやってこれたものだ。

 この世界の場合、他も似たようなものだから成り立ってきたのかもしれない。


「今回の合同討伐も、他のギルドのやつは極限まで働かされてるだろう。特に、マスターが現場まで出張ってきてるようなとこはな」

「うわぁ……。でも、そんなのは長続きしないですよ。これだけ長い期間の討伐なんですから、いかにペースを保つかが肝要です」


 俺がそう言うと、みんな力強く頷いた。

 合同討伐も残り二日、最後までしっかりやろう。


「ああ、そうだ! もしこの合同討伐、最下位じゃなかったらギルドで宴会しましょう! ボーナスとかは資金的にちょっと厳しいですが……飲み食いぐらいなら!」

「よっしゃあ!!」


 拳を突き上げ、叫ぶラーサー。

 エルグランドさんたちもまた、ギラギラと瞳を輝かせる。

 この調子で最後まで頑張ろう!


ーー○●○ーー


「……お前たち、こいつはどういうことだ?」


 ところ変わって、蠍の尾が拠点を構える洞穴にて。

 マスターであるラゴーヌは、地面に並べられた戦果を見て吼えた。

 キラーラビットが八羽。

 ギルドが誇る精鋭三十人の戦果としては、あまりにも少なかった。

 十倍にしても足りないぐらいだ。


「それが、連日の狩りでみな疲労が溜まっておりまして……。負傷者も続出しておりますし、討伐の続行自体が難しいかと」

「馬鹿が! 途中退場なんぞいい恥さらしだぞ! ろくに成果も出せてねぇしよぉ!」


 徹夜をしたこともあり、初日は予想以上の戦果を出せた。

 しかし、蠍の尾の活躍はそこまで。

 二日目からは、全くと言っていいほど結果が出ていなかった。

 それどころか、魔物と交戦するたびに負傷者が増えてどちらが狩られる側かわからないぐらいだ。


「このままじゃ、間違いなく下位確定だ。下手すりゃブービーかもしれん。そんなことになったら、今後の仕事に響きかねんぞ……」


 額に手を当て、頭を抱えるラゴーヌ。

 大手ギルドである蠍の尾は、貴族や大手商会の出す割の良い依頼をいくつも抱えている。

 しかし、ギルドの低迷が続けばそれも打ち切られるかもしれない。

 ラグドアの街には、大小数十ものギルドが乱立している。

 それだけに顧客の目はシビアだ、大手といえど没落する時は早い。


「こうなったら、大物を狩って逆転するしかねぇな……」

「オーガロードなどですか?」

「その程度じゃ無理だ。もっと強いやつじゃねぇと」

「ですが、それより強い魔物はこの森にはいませんよ」


 冒険者からの問いかけに、ラゴーヌは腕組みをして考えこむような仕草をした。

 彼は軽く目を細めると、その場に集まった冒険者たちを見やる。


「……今、何人が戦える?」

「二十三名です」

「よし、それだけいるなら十分だ」

「あの……何をするつもりで?」


 不穏な気配を察して、冒険者の一人が怖がりながら尋ねた。

 するとラゴーヌは、不機嫌さを露わにして怒鳴る。


「うるせぇ、余計なことを聞くな! てめえらは俺に従ってれば良いんだよ!」

「は、はい!」

「もし今度の討伐、成績下位なら……お前ら全員クビだからな! 覚悟しておけ!!」


 ひとしきり怒鳴ると、ラゴーヌは冒険者たちに背を向けた。

 そして懐から小さな宝石ようなものを取り出すと、獰猛な笑みを浮かべて呟く。


「できれば使いたくなかったが……仕方ねえ。この魔石に懸けるしかないか」


 怪しい光を湛えた魔石。

 それに照らされたラゴーヌの顔は、邪悪に満ちていた。


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