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第十一話 魔樫の森

「いよいよ魔樫の森ですね……」


 合同討伐への申し込みをしてから約一か月後。

 無事に参加を認められた俺たちは、他のギルドの者たちとともに魔樫の森へとやってきた。

 鬱蒼と生い茂る巨木に、立ち込める薄霧。

 昼だというのに辺りは夕方か夜のように暗く、獣の気配に満ちている。

 油断をすれば、たちまち木陰から魔物が躍り出てきそうだ。


「よっしゃぁ、やってやるぞ!」


 周囲を見渡しながら、気合を入れる少年。

 彼の名はラーサー。

 先日、リリアさんの紹介でギルドに入ってきた冒険者ペアの片割れである。

 まだまだ駆け出しとのことだったが、単騎でオークを討伐できるという。

 無鉄砲なところが玉に瑕だが、とても将来有望な若者だ。


「有名になる絶好のチャンスよね。腕がなるわ」


 腕まくりをしながら、グッと拳を握る司祭服の少女。

 彼女の名はメリシダ。

 ラーサーの相方で、先日ギルドに入ってきた冒険者の一人である。

 服装が示す通りの神官で、強力な治癒魔法の使い手だという。

 元は教会に所属していたが、肌に合わずに冒険者になったという変わり種だそうだ。


「よし、このあたりでいいだろう! みんな、止まってくれ!」


 話をしているうちに、少し開けた場所までやってきた。

 最前列を歩いていた男――金獅子のマスターだ――が、サッと手を上げて皆を止める。

 ちょっとした軍隊ほどの規模の討伐隊が、ゆるゆると停止していった。


「ここに合同討伐の本部を設営する! 金獅子のメンバー以外はいったんここで解散だ。代表の指示のもと、ギルド単位で討伐を行ってくれ。もし自分たちだけで対処不可能な魔物が出現するなどした場合は、すぐに本部へ連絡するように!」


 金獅子のマスターからの言葉に「はい!」と返事をする冒険者たち。

 ここはすでに、魔物が闊歩する危険地帯。

 普段の緩い様子とは打って変わって、みな、表情は真面目そのものだ。

 エルグランドさんも、いつもと比べるとやや緊張したような顔をしている。


「それでは、各自の健闘を祈る!」


 いよいよ、合同討伐が始まった。

 各ギルドの代表者たちは、すかさず地図を取り出すとメンバーを引き連れて移動を開始する。

 その様子はさながら、潮を読む漁師か何かのようだ。

 

「私たちも行くか。マスター、どこに向かう?」

「そうですね。ここから三十分ほど歩いたところに川があるようです。今日はそこの河原で野営をしましょう」

「ちょっと待ってください! 河原は魔物が少ないですよ!」

「そうだぜ。スタートダッシュをかけるなら、森の中心あたりがいいんじゃないのか?」


 エルグランドさんは地図の真ん中、一段と緑が濃く塗られている部分を指さした。

 森全体に魔力を含んだ霧が漂う魔樫の森。

 その中でも特に強力な魔力が渦巻き、強力な魔物が潜むのが中心部である。

 獲物を狩ることだけを考えるなら、そこへ行かない手はない。

 しかし――。


「いや、河原だ。合同討伐は長丁場だから、初日はしっかりと旅の疲れを取っておきたい。これからすぐに野営の準備をして、今日はもう休もう」

「そんな悠長な! 獲物がいなくなっちゃいますって!」


 他と違うことが心配なのか、それとも早く討伐がしたくてうずうずしているのか。

 ラーサーはしきりに森の奥へ行こうと提案してきた。

 気持ちはわからないでもないが、ここは指示に従ってもらわねば。

 まずはとにかく、休むのが大事なのだ。

 それを徹底できるかどうかで、今回の合同討伐の結果が決まると言っても過言じゃない。


「大丈夫。だから、今日はしっかり疲れを取るんだ。明日からも狩りは一日五時間まで。最終日までペースと効率を維持することを優先していこう」

「わかった。ではその方針で行こう」

「キッカさん!? いいんですか!?」


 キッカさんの返事に、驚いた顔をするラーサー。

 すると彼女は、にこやかに笑って言う。


「マスターにはマスターの考えがある。ギルドの一員ならば、それに従うのは当然だろう」

「そうですけど……」

「キッカがそういうなら、俺も素直に従おう。マスターには世話になってるしな」

「……二人が従うなら、私たちも従うしかなさそうね」


 渋々と言った様子ながらも、メリシダがうなずいた。

 彼女に促され、ラーサーもうなずく。

 こうして俺たち白光の槍は、ペース維持を最優先に合同討伐へと望むのだった。


 ――〇●〇――


「さあお前たち、狩って狩って狩りまくるんだ!」


 白光の槍の面々が、河原に向かい始めた頃。

 蠍の尾の選抜メンバーは、魔樫の森の中心部を目指して爆走していた。

 大手ギルドながら、ここ数年、合同討伐の戦績が振るっていない蠍の尾。

 最下位を避けられるように白光の槍をくわえたが、できればブービーも避けたいところ。

 ラゴーヌの言葉にも自然と熱がこもる。


「これから合同討伐が終わるまでの一週間、一日十五時間の狩りを行う! 休んだり泣き言をいうやつは許さん!」

「十五時間!?」

「そうだ! 休んでいてはこの合同討伐、上位はとても狙えん! 寝る間も惜しむんだ!」

「しかし、そんなのはとても無理……」


 ラゴーヌの前に立っていた冒険者が、弱々しく切り出した。

 すると彼は、顔を耳まで上気させてたちまち特大の雷を落とす。


「バカモン!! 無理だと考えるから無理なのだ! できると考えれば何事もできる!!」

「いや、ですが……」

「逆らうやつはクビだ! 二度と冒険者が出来ないようにしてやるぞ!」

「わ、わかりました!」


 そう言われてしまっては、従うより他はない。

 もとより、戦うことしかしてこなかった者たちである。

 ここでギルドを追い出されてしまっては、最悪、路頭に迷って野垂れ死にだ。


「返事はもっと大きく! 覇気がないぞ!」

「はい!!!!」


 森全体に、威勢が良いのにどこか悲しげな叫びが響いた――。


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― 新着の感想 ―
[一言] 現代社会に生きてると当たり前だけど、福利厚生っていざってときに履行される保証が無いとそういうのが基本無い時代?の人には信用しにくいよね。 不謹慎だけど誰か福利厚生を履行されるような事態にな…
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