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第十話 合同討伐

「リリアさんも加わって、ギルドの体制は万全。そう、万全なのだけど……」


 未だにガラガラのギルドホールを見て、ガックシと肩を落とす。

 あれから一週間。

 リリアさんの知り合いだという冒険者のペアが、うちのギルドへと加わってくれた。

 しかし、まだわずかに四名。

 まだまだギルドとしてはあまりにも人が足りないのが現状だ。


「こればかりは、ゆっくりとやっていくより他はないでしょう。幸い、キッカ様とエルグランド様のおかげでそれなりには運営が成り立ってはいます」


 お茶を出しながら、フォローを入れてくれるリリアさん。

 でも、これからもずっとあの二人に頼り切りってわけにはなぁ。

 負担が大きすぎるし、ギルドの経営からしてもマイナスだ。


「もっと、うちの良さがみんなに伝わればなぁ。人も増えると思うのだけど」

「そうですね。そこを理解してもらえれば、皆さんうちのギルドに入りたくなると思います」

「今だとわかる人にはわかるって感じだけど、単純にもっと人手が欲しいからね」


 さすがにメンバーが四人では、できることにも限りが出来てしまう。

 両親が亡くなる直前、この『白光の槍』には三十名ほどの冒険者が所属していた。

 できればそれと同等か、それ以上の人数が欲しいところだ。

 そうすればお金に余裕もできて、みんなにもっと還元することが出来る。

 ついでにマスターである俺の生活も、ちょっとは改善できそうだ。

 さすがに、藁のベッドだと腰がそろそろ限界なんだよな……。


「……そうだ! そろそろ、合同討伐の時期でしたよね。白光の槍も、参加してみてはどうでしょうか?」

「え? うちが?」


 合同討伐というのは、毎年この時期に町中のギルドが連合して行う大規模討伐のことである。

 実施場所は西部の山岳地帯、ガラト山からさらに先へと進んだ魔樫の森と呼ばれるところ。

 名前からしておどろおどろしいが、実際にたくさんの魔物が棲んでいる。

 ここの魔物を間引きして、街を脅かす大氾濫スタンピードを防ぐ。

 それが合同討伐の目的だ。


「合同討伐で実績を上げたギルドは、領主さまからも表彰されます。ギルドの名を上げるには、これ以上ないほどの機会でしょう」

「ですけど、合同討伐に参加するためには最低でも五人は必要ですよ」

「マスター自身を数に入れてしまえばいいんですよ」


 ああ、そうか。

 マスターを入れてはいけないってルールはないものな。

 現役の冒険者がマスターを務めているギルドも結構あるし。

 一応、俺も魔樫の森で死なない程度の戦闘力はある。

 主力として活躍するのは厳しいけど、数合わせぐらいにはなれる……はずだ。


「よし、それで行こうか。合同討伐は、一か月後からだったよな?」

「はい。来月半ばから一週間の予定です」

「みんなの予定を確認して、問題なさそうだったら参加申請をしよう」

「かしこまりました」


 すぐさま書類の準備を始めるリリアさん。

 こうして俺たち白光の槍は、合同討伐への参加に向けて動き出すのだった。


 ――〇●〇――


「参加が認められないって、どういうことですか!」


 数日後。

 みんなの予定を確認し終えた俺は、合同討伐参加の申請をするため領主さまの城に来ていた。

 しかし、あろうことか参加が断られてしまったのだ。

 申込期限までにはあと一週間ほどあるし、参加条件に不備はないのにである。


「書類上は、五人いれば参加可能となっていますがねぇ……。本当に五人で参加というのは、さすがに厳しいでしょう。合同討伐は領主さまがお金を出される公共事業。貢献できないギルドに参加されても困るんですよ」

「そんなことおっしゃられても! そりゃ、うちは人数は少ないです。ですが、有力な冒険者もいますし参加して害になることはありません! 領主さまからいただく補助金以上の仕事は必ず致します!」

「そうは言ったって、五人じゃねぇ」


 こちらの言うことを聞き入れようとしないお役人。

 参ったな、このために依頼の量とかもあれこれ調整してきたんだけども。

 参加できないとなると、いろいろと差しさわりがある。

 何よりも、ギルドの知名度アップのためには欠かせないというのに。


「おや? どうかしたのかね?」


 押し問答を続けていると、不意に誰かが話しかけてきた。

 振り向けば、立派な鎧を着た恰幅のいい男が立っている。

 この人、前に会ったことあるな。

 確か『蠍の尾』という大手ギルドのマスターだったはずだ。


「ラゴーヌ様! いえ、こちらの者が合同討伐への参加を申し出ているのですが……その。ギルドの人数が五人しかいないと言っておりまして」

「……ふむ、五人か。まあいいだろう、参加を認めてやれ」

「は、はい! かしこまりました」


 すげえな、さすがは大手ギルドのマスター。

 あれだけ強情だった役人を、あっという間に黙らせてしまった。

 彼はそのまま俺の方を向くと、にこやかな笑みを浮かべる。


「お久しぶりですなぁ、ロア殿」

「こちらこそお久しぶりです、ラゴーヌさん」

「合同討伐に参加されるとのこと。いやはや、驚きましたぞ」

「はい?」


 いったい、どこに驚いたのだろう?

 思いもよらぬ言葉に、俺は首を傾げた。

 するとラゴーヌさんは、何やら嫌味っぽい笑みを浮かべて言う。


「白光の槍は、とっくに潰れたと思っておりましたからな。存続していたようで何より」

「は、はぁ……」

「せいぜい頑張ってください。五人では大した成果は出せないでしょうがな、ははは!」


 笑いながら立ち去っていくラゴーヌさん。

 それを見たお役人は、先ほどまでの態度とは打って変わって、同情的な目でこちらを見る。


「蠍の尾は、人数こそ大手ですが最近はあんまり活躍できてないようですからねぇ。もしかすると、最下位になるのを回避するためにあなた方を引き入れたのかもしれません」

「あー……出ますもんね、順位」


 合同討伐に参加したギルドは、その戦績によって順位付けされる。

 うちのような零細ならまだしも、大手である蠍の尾が最下位では体裁が悪かろう。

 それを避けるために、最下位必須な俺たちの参加を後押ししてくれたってわけか。

 参加させてくれたのはいいが、うまく利用されたって感じが凄いな!

 さすがにちょっと、ムカッと来るものがある。


「まあ、事情はどうあれですよ。参加した以上は、全力を出し尽くすだけです!」


 拳を握り、気合を入れる俺。

 今回の合同討伐、参加することが目的みたいな感じだったけど……。

 こうなったら、何が何でも最下位だけは避けてやるぞ!!

 それでもって、あのおじさんの鼻を明かしてやる!


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