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中華マフィアとのアルバイト2

夏子の得意魔術はワープだ。

魔術士の子供たちの間では結構RPG、特に魔法使いが活躍するタイプのものが流行ったりする時期があるのだが、彼女は特に”ルーラ”を見た時に強い共感を感じているようだった。

 というのもワープには強いイメージが必要で、目視以外の場所、つまり一度行ったことのある場所でも、思い出しやすい建物や、風景の構図がなければそこへ正確に飛ぶのは難しいのだ。魔術士は得意としている魔術も当然使える、ただし本人のマナの性質や熟練度の関係で専門家ほどの効率では使えないが・・・そのため僕も何度かワープ、瞬間移動魔術を練習したことがあるが、瞬間移動魔術の初歩である2か所魔術的アンカーになる魔法陣を設置してのどこでもドア式の移動でも数時間の準備をしてやっと200mの移動が成功率70%といったところであった(それでも熟練していけば秘密の会合・盗み・近くのスーパーへの買い物などに利用できるようになれたのだが)結局のところ夏子のようにノーアクション(呪文、魔法陣等無し)で東京から本場のフィッシュ&チップスとケバブを買って30秒以内に子供部屋でふんぞり返って友達に振る舞うことは無理だった。というか今の世代ではそこまでの芸当ができるのは彼女くらいのものだろう。一回ワープホールのゲートを上下に作ってループを作り、ワープゲートを作っては消しを繰り返して、廃車を永遠にワープさせ、どれだけ魔力が持つかをテストしてみたが、一日中やっても魔力の消費はほとんどなかった。それだけ適正による効率の違いは大きいということだ、その代わりと言っては何だが、夏子はテレキネシス系もパイロキネシス系も全くの不得意、というか火炎魔術はライター程度でギブアップしてしまうほど適性がなかったし、パイロキネシスはワープのマナ特性と相性が悪く、マッチョな人間の方が全然物を動かせる程度だった(それを言ったら僕のワープも走った方が早い程度なのだが)

 夏子がサークルを卒業した後も僕を気にかけているのには、そこら辺の魔術の相性という実用的な理由がある。初見の場所に行けない夏子は、夏子がワープを効率的に使えることと同様にとても効率的かつ、強力にテレキネシスでジェット機よりも圧倒的に早く移動できる僕は新しい場所に行くのに非常に便利だし、夏子の”ゲート”は例えば大きなものや重いものを移すことはできるが、そこから必要な場所に運びこむには、別に力が必要なので、テレキネシスを持っている僕はいろんな意味で便利というわけだ。

 正直僕も夏子の能力の汎用性は認めているし、割とwin-winの関係なので、子供のころから割とお互いの有用性を理解しているからか打算的にコンビを組んでいた。(あと夏子は結構かわいいので正直言って一緒にいたいというのもあった、思春期なのでちょっと冷たくしてるがお話してくれるだけでちょっとうれしいのだ。)



ゲームの残り時間は中華マフィアのおっさんにあった時点ですでに80時間を切っていたが、夏子はすでに”ロケット”を準備していた。

 といっても明らかに即席のものだしそれをロケットだと認識できるのは僕たちだけだろう。

普通のトレーラーハウスに数日分の生活用品を詰め込んで、あきらかにロシア語が書いてある(おそらくワープでかっぱらってきたのだろう)宇宙用の素材であるプレートを全面に張り付けただけのしろもので、一見どう見てもただのデカイ箱にしか見えない、ただ魔術によって結合させたものなので継ぎ目らしきものは全くない。結合だけでなく、魔術士にはそのプレートが魔術的に強化されているのが分かるだろう。多くの実戦的な場合はさらにその上から結界で魔力が通っていないように隠すものなのだが、今回は隠す必要性がないのでそのままだ。

 結構強力な防御なので、マグル(魔術士の間ではハリーポッターのブーム以降非魔術士のことを冗談交じりにこう呼んでいた。)でも近くに立っていれば非常に不快感を感じるかもしれない、防御と隔絶結界を編み込んだような術式なので、これならば真空だろうが深海だろうが水爆だろうが耐久的には問題ないだろう、宇宙放射線とかの耐用テストはやったことはないが、この術式は冷戦期に核戦争になった場合の魔術アトリエをシェルターにすることを想定した式の現代的な素材へ活用するための発展形なので、多分そこまで問題はないはずだ。あとは目視的にもレーダー的にも目立ちすぎるため地上から”ロケット”を飛ばすわけにはいかないので、大気圏くらいまでは夏子のワープで何とかしてもらって、僕の仕事は”ロケット”にかかっている重力を振り切って、地球から月までの間の384400kmを移動できるように加速&減速をする人間ロケットエンジン兼パイロットってわけだ。

 ただしここまでの内容を仮に見聞きしたとして実感として理解できるのは魔術士だけなのだが。


中華マフィアのおっさんは、この明らかにでかいだけの箱を見てうろたえていたが、夏子に作戦の詳細を聞いてさらにうろたえていた。

「君が魔術士であることは分かっていたのだが・・・これがロケットとは、君たちに見聞きさせられるものはいつも突飛なものばかりだね。」

「大丈夫ですよ、一度大気圏外まで私とロケットごとワープして耐久テストはしてますから、酸素や物資も十分用意してありますし、最悪失敗したら少なくとも大気圏レベル以上のある程度の距離まではワープで帰れますよ、私のワープがどれほどまで使えるのか確証がないのであまりメインには考えていませんが。」

 それは大丈夫と言えるのだろうか、最悪の事態の部分を説明する誠意は理解できるのだが、なぜだろう、この女の説明は僕もちょっと不安になるんだよな、それはいままで一緒に過ごしてきた中での経験則からくるものでもあるのだが。


着々と準備を進める夏子を脇目に、おっさんがこちら側に来て、手を握って話しかけてきた

「俺の名前、言ってなかったな、朱 子清っていうんだ、俺は君たちのこと、信頼するよ。」

明らかに非日常なことの起こりすぎでおっさんの顔は青く、目は遠くなっていた。

そして手は冷たく汗ばみ震えていた・・・大人のこんな不安になっている姿は初めて見たよ。

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