現代を生きる魔術の日常
新しい元号を迎えても、想像していたよりもずっと現実は未来ではなく、自家用車もおそらくこの先1世紀は空を飛ぶことはないだろうと感じる今日この頃、我々魔術師もいまだに何とか社会の隅で食い扶持を得ることができている。僕はここ1年魔術師の活動をほっぽり出して受験勉強を必死で行い、なんとか県内トップレベルの県立高校に合格することができた、はっきり言って魔術師の勉強より数学の過去問を解いているときの方がよっぽど難しいしつらかった、魔導書は手に入れるまでは大変だが、理解するのにはそこまで時間も労力も必要ない、方程式に対して魔術師はなんて無力なんだと深夜2時にポロポロと涙を流した記憶が3度ほどある。
ともかくなんとか高校へ入学した僕はアルバイトを探すことにした、進学校に入ったのにアルバイト?落ちこぼれる気まんまんなのか?と聞かれたらもちろん落ちこぼれたくない、むしろアルバイトなんて絶対に嫌だ。しかし魔術師の自立は早い、中学を出たら大体が当面の生活費を持たされて放り出される、親元に行くことはあっても金の無心はできない、15歳で元服し以降は大人、そういう文化なのだ。数名の幼馴染は中学の卒業を待たずに自立する者もいた、主に催眠術、錬金術、魔法薬草学を専攻していた者はそれだけで食いっぱぐれはない、高校なんて出る理由は全くないのだ。
しかし僕の家系は物質魔術士の家系、つまりはテレキネシスやパイロキネシス、地面や岩を割ったりすることが専攻で、僕も御多分にもれずそういった系統が満遍なくマスターしているが、最も得意なのは爆裂魔法だ、近代までは最も重要な学派だったのだが、現代、ICBMや火炎放射器やクラスター爆弾がある時代ではただの廉価版だし、法治主義や監視カメラによって”仕事”もしづらくなっている、監視カメラの記録でも流されたら一巻の終わりだ。21世紀に半径50mを吹きとばす能力は不要なのだ。
もちろん裏の仕事はいくらでもある、中東や東南アジア、アフリカは報酬的にかなり美味しい仕事
でいっぱいだ、倫理の面を無視すればの話だが。
そんなわけで僕は親の支援もなく高校生と魔術士をしながら最低限の食い扶持を探すというべりーハードとまでは言わないが、確実に同世代の中ではハードな高校生活を送ることになってしまった。
「少し仕事振ってあげようか」
ルノアールの奥側の席でいかにも怪しい風貌をした女(怪しいといっても魔術士的な黒ずくめというわけではなく、いかにもインチキ商法をしていますといったタイプなのだが)はそう唐突に切り出した。
水枝谷夏子、19歳、大学2年生。もちろん彼女も魔術士で、僕の数少ない幼馴染かつ少年魔術士サークル(魔術士界のボーイ・スカウトみたいなもの)での先輩だ。
「・・・それって大丈夫な仕事なの?言っておくけど”殺し”はしないよ」
「大丈夫とは?魔術士の仕事に報酬以外は求めない方がいいわよ、
もちろん殺しは無し、それは前提よ、あたしもそんなことしたことないし。
ただし、魔術士として自分の身は自分で守る前提も忘れずにね
”大丈夫なの?”の答えとしては”あんたの実力に依る”だわね」
彼女は高校を出るまで地味な少女という印象を他人に与えさせていたが、サークル内では一番の”ワンパク”であった、17歳くらいまでサークルに遊びに来ていて、厄介なOGかつトラブルメーカーという記憶しかない、外見は怪しく派手になったが、正直元の内面から見れば逆にピッタリといったところだ。
魔術とは全く関係ないが中一の夏休みにおっぱいを触らせてもらったのであんまり逆らえない。
僕は夏子に連れられて雑居ビルの何も看板のない部屋に連れていかれた
中は中華風の装飾のある事務所風で、壁には青龍刀が飾られていた、部屋にはただ一人黒いスーツに黒いシャツ、髪を短く刈ってサングラスをかけた男が立っていた。
夏子は当然のようにマフィアからの仕事を振ってきたようだ、そういう奴なんだこいつは。