プロローグ
俺には楽しみがあった、それは好きなゲームやアニメ鑑賞ではなく、これが出来るのは親父と母さんが旅行や泊まりで出かけて、その日家に誰も帰ってこない時にしかできなかった。
俺は2人が出かけるのを見送り、万が一忘れ物で戻ってきた時の為に余裕を持って1時間後程だ。それくらい時間が経った後で行動を始める。
「さて、今日は何が見れるかな……」
クローゼットの奥、一部だけ隠し底になっている部分を外し、そこから薄汚れた箱を取り出す、その中には手のひらサイズの水晶玉が入っていた。
これは引越しの時に親父がいらないからとゴミに出していたもので、何となく気になって密かに取っておいたものだ。
実はこれを持って目を瞑ると不思議なものが見れる。
有り得ないほど広大な森や浮いている島、大きな都市の時もあれば、人影も無いような一面氷の世界。
風景だけではない。人間にエルフ、ドワーフや魔物だっている。移動は馬や小さいドラゴンのような魔物を使い、背に乗り馬車を引いたりと、まるでアニメやゲームの世界だ。
人間達は攻めてくる魔物相手に剣を振るい、魔法を放ち戦う。
中でも驚いたのは、なんと人が武器に変化するのだ。そしてそれを人が使い、圧倒的な力で魔物達を薙ぎ倒していく。
俺はアニメやゲーム、特にこういうファンタジーには目がない。おそらく毎回同じ世界なのだが、内容は違うものが見れて毎回が楽しい、最高の時間だ。
もし問題があるとすれば、夢で見ているということなのか、見始めて気がつくと2〜3時間経っているのは当たり前で、長い時は半日くらい時間が経っていた時もあった。
親父に見つかれば捨てられてしまうかもしれない、そうならないよう慎重に行動しているのだ。
水晶玉を取り出し目を瞑る、そうすると見えてくるのだ、今の俺にこれ以上のワクワクを得られるものは知らない。
「……あれ?」
だが、今日は違った。
「なんで!?」
見えてこないのだ、いつもは見れていたはず景色が今日は浮かんでこない。
まさか壊れたのか?元々得体の知れない不思議アイテムだったのだが、何年も使えていて突然見れなくなるだなんて思わなかった。
とりあえず振ったり叩いたりしてみる。
「うわっ!?」
そのせいかわからないが、水晶玉が一瞬強い光を放ち、俺の目を眩ませた。
「おおっ!ようやく呼び出されおったか!この天邪鬼め!」
「ミナト殿!お待ちしておりましたぞ!」
「えっ!?」
誰も居ないはずの自室で声をかけられ、驚いて周りを見回すと、そこは自分の部屋ではなかった。
何も無い部屋でお爺さん2人に囲まれている感じだ。
いや、物があるといえばある、部屋中に砕けた硝子のようなものが散らばっているのだ。
「こ、ここは……?」
「ボケたフリをしても無駄じゃぞ!まったく、儂ら老いぼれを前に茶化しおって!」
「さあ陛下がお待ちですぞ!お急ぎくだされ!」
「えっ!?ちょっ、ままっ」
現状が把握出来ず混乱している俺を他所に、お爺さんとは思えない力強さで、俺はグイグイと押されこの場を後にした、一体どうなってるんだ……?