41、立ち合い。いや、あっ、始まってました。
花音は水浴びを済ませて、シナ婆さんの家に戻って来た。
「戻りましたー!」
花音が戻るとタマが居て花音を出迎える。
「お帰りにゃさいませご主人様。」
「え?何故にご主人様?」
「お姉さまもダメ、様付けもダメと言われましたので、ご主人様にしましたにゃ♪」
「いや、それおかしいですから…。」
「そうですかにゃ?」
「そうですよ。」
「しょうがにゃいですにゃ、カノンちゃんにしますにゃ。」
「それでお願いしますにゃ。」
「はいですにゃ♪この度はゴルク爺様との手合わせの観戦の許可を頂きありがとうございますにゃ。」
この子…言う事はまともなんだけど、どこか変な感じ?まあいいや。
「カノンちゃんお帰りっす、これスズちゃんが見つけったっすよ。」
キンから生輝龍の指輪を受け取り、中指に嵌める。
「あっ…すいません、ありがとうございます。ついうっか…。」
「うっか?ってなんっすか?」
「うっかりじゃないですよ?」
「うっかりっすか、カノンちゃんらしっすよ。」
「そんな私らしさは要りません!」
「そろったニャ、そろそろ時間だから行くニャ。」
「はいにゃ、シナ御婆様。」
シナ婆さんとタマを先頭に花音とキンがその後に続き、キンが花音に問いかける。
「カノンちゃんはタマのことどう思ったっすか?」
「そうですね…かわいい子ですね、あとはなんて言えばいいんですかね?…自分を常に下に置きたがってる?ん~ちょっと説明が難しいですね…。」
「カノンちゃんは凄いっすね、タマと会ってそんなに長くないのに…。」
「何かあるんですか?」
「そうっすね…タマはこの村に自分から来たっす。」
「え?自分から?…といことはある程度の年齢まで何処かで生活してたってことですよね?」
「そうっすね…6歳の頃にこの村に来たっす、それまでの事は聞いてないっす、いや聞けなかったっす。」
「聞けなかった…ですか。」
「そうっす、聞こうとすると錯乱したっす…だからカノンちゃんもタマのことを気にかけてやって欲しいっすよ。」
「分かりました。って言っても、私なんて大したこと出来ませんよ?」
「それなら自分たちも同じっすよ、何もしてやれてないっす…ただ普通に接してやるぐらいしか。」
「その普通が大事なんじゃないんですかね?分かりませんけど。」
「そうなんっすかね?そうだといいっすけど。」
「キンさんたちと一緒に狩りとかしてるんでしょ?」
「そうっすね、この村では12歳から狩りとか戦闘を教えていくっす。」
「キンさんたちみたいに師匠はいないんですか?」
「本当はキル辺りがいいんっすけどね、キルはタマに気を使い過ぎて逆にダメなタイプっす。」
「そういえば…みなさんの師匠は同族ですね。」
「そうっすよ、同族じゃないと教えられないっす、それぞれ種族ごとに違うっすから。」
「それならキルトさんは誰が師匠なんですか?」
「キルの師匠っすか?…キルの師匠は4年前に亡くなったっす。」
「ごめんなさい。」
「別に自分は気にしないっすよ、キルに聞くときに気を付けてくれればいいっす。」
「シナ婆さんじゃダメなんですね。」
「ダメと言うか、シナ婆さんも特殊な人っすからね、猫人の戦闘の基本をすっ飛ばして魔法を憶えたらしいっすから、基本が教えられないらしいっす。」
「シナ婆さんらしいのかな?」
「そうっすね、狐人でもないのに狐人以上の魔法を使うっすからね、シナ婆さんを怒らせると火が飛んで来たり、感電したり…鬼っすね。」
「キン!何か言ったかニャ?」
「ナニモイッテナイッスヨ。」
「そろそろ着くニャ。」
シナ婆さんの言葉通りに目的地が見えて来る、既に村長・シグレ・スダレ・ギラン・ギルルド・ナンがその場に到着していて、待っていた。
「ゴルク爺はまだっすか?」
花音はマップでそれらしき人物の場所を確認していた。
「ゴルクは登場の仕方に拘ってるニャ、おそらくもう来て出番待ちしてるはずニャ。
…子供がそのまま歳をとった奴ニャ。」
「ははは、私…帰っていいですか?」
「諦めるニャ。」
「そうっすね、諦めるっすよ。」
「そうですか。」
「カノン殿よう来たのぅ。」
「約束でしたし、シナ婆さんに起こされましたから。」
「ふぁふぁふぁ、そうか、そうか、怪我はせんようにのぅ。」
「はい、ありがとうございます。」
「カノンの嬢ちゃん、がんばりよしね。」
「カノンさん気を付けてくださいね。」
「ありがとうございます。あっそうだ、ギランさん、これ食材になりますかね?」
花音は空間収納から川で回収したドラゴンのような物を取り出す。
「「「………。」」」」
「カノンさんこれはどうしたんですか?」
「川で拾いました。」
「拾った…これワイバーンですよね?」
「そうなんですか?拾っただけなんで分かりませんけど。」
ギランたちはワイバーンの死体を確認する。
「何かにぶつかったのか?首の骨が折れて死んでますね。」
あの時ぶつかったのが原因かな?落ちたせいかな?どっちでもいいっか。
「食材には問題ありません、急なので簡単なのしか出来ませんが。」
「問題なければ、調理お願いします。」
「分かりました。」
「さてっと…これで全員ですかね?」
「そうじゃのぅ。」
「キルトさんはそのままでいいんですか?」
「キルト、どうするかの?ちゃんと姿を見せておいた方が良いのではないかのぅ。」
「村長がそう言われるなら。」
「キルトさんはタマちゃんのことお願いしますね。」
「…と申されますと?」
「手合わせですけど、何が起こるか分かりませんから、念の為です。他の人達は自分の身ぐらい自分で守れるでしょ?」
「…そうですね、分かりました。」
さて、ゴルクさんがあの位置なら…この辺りで待てばいいかな?
「カノン殿。」
「ギルルドさん?どうしました?」
「これを…。」
ギルルドは花音に2本の木刀を差し出す、その内の1本は紐が結ばれている。
「これを使ってゴルクめを真っ二つに」
「しませんよ!そんな危険な物使いませんから!」
「そ、そうか…残念じゃ。」
心底残念そうなギルルドが花音から離れて少しして、
「ガハハハ、逃げずによく来たな娘っ子!」
ゴルクが木の上から飛び降りて来た。
「え?逃げてよかったんですか?でしたら今からでも…。」
「そりゃぁできねぇってもんだ。」
「ですよね~。」
「手合わせはどうやるんですか?」
「娘っ子は武器はいいのか?」
「はい、武器は危ないです。」
「危ない?よく分からんが、俺は無手で問題ねぇ。」
「それじゃあ私も無手で行きます。」
「ガハハハ、よく言った娘っ子。立ち会いは…ギランは調理があるしな、長老・シグレには無理だな。」
「誰か立ち会いをしてくれねぇか。」
「ならば儂がやろう。」
「ケッ、ギルルドか…この中じゃぁそうなるか…娘っ子は問題ねぇか?」
「私の方は、ゴルクさんの方が問題ないなら構いませんよ。」
「そんじゃあ、ギルルド頼むわ。」
「うむ。」
「それでは、ルールはお互い無手、勝敗はどちらかの戦闘不能か降参。ゴルクが負けた場合は儂に土下座じゃ。」
「なんでそうなる!」
「儂の弟子に負けたんじゃ、それくらいよかろう。」
「いや、よくねぇよ!」
「ギルルドさん、先に進みませんから、最後のは無しでお願いします。」
「むぅ、カノン殿がそう言われるなら仕方がない。」
「おめぇ…この娘っ子に弱みでも握られてんのか?」
「ゴルクよ戦ってみれば分かる…かもしれん。」
「かもかよ!」
花音とゴルクは適当な距離まで離れて向かい合う。
「2人とも準備はよいな?」
「おう。」
「はい。」
「それでは、手合わせを開始する…『始め!』」
始めの合図と共にゴルクの拳が花音の腹に入り、花音はゴルクの拳で吹き飛ぶ。
こんなはずじゃなかったんです。こんなことを書く気は全然なかったんです。
タマちゃんがなんか訳有になってしまいました(´・ω・`)




