182、魔道具についてINお風呂
エレンシアに装備の説明を終えて花音は風呂場へと急行する。
「……………良かった、誰も待ってなかった。スリーピーさんはお風呂大丈夫なの?」
「ん。大丈夫。」
「そっか…。」
花音は服を脱ぎ畳んで棚に置いて、ガラガラっと引き戸を開けてお風呂場に入って来た花音に、お風呂に浸かっていたシグレ、スダレ、ナンにヨギリの視線が一斉に集中する。
「え?なに?なんですか?」
「ようやっと来はったね…ヨギリ頼んます。」
「はい。お師さん、こちらが前回お師さんが壊したシャワーの試作品の一つです。」
「前回…壊した…。」
最初の試作品を壊した記憶がある花音は恐る恐るそれに手を伸ばすと…
ひょいっとヨギリによって引っ込められ、花音の手は空を切る。
「よ、ヨギリん?」
「カノンのお嬢ちゃんには悪いどすが、おそらくまだカノンのお嬢ちゃんには使えまへん。」
「ですから、某が代わりに魔力を流して、お師さんのお背中をお流しします。」
「ああ、そういう…。」
花音が視線移動させると、キンが洗い場で椅子に座って右にヘヂマたわしを、左にシャワーを持って墨を落とそうとゴシゴシと体を洗っている。
「ならヨギリんお願いします。」
「はい。」
そう答えて、ヨギリはシャワーを起動させる。
「ちべた!」
「あ、すいません。」
「すいまへんな。まだ水しかでえへんのよ。」
「それを先に言ってください!心臓が止まったらどうするんですか!」
「えろうすんまへん。」
「すいませんお師さん。」
「まあいいです。手の先の方からかけて行って、慣らしながら体の方に近づけていってください。」
「分かりました。」
そう答えてヨギリは手からスタートして腕、体へと進め、花音の背中を洗う。
「落ちないっすね…スリーピーさんの分体にお願いするっすか……あっ、あー!ヨギリん狡いっす!自分もカノンちゃんお背中洗うっすよ!」
「いやキン、もうすぐ終わるから…。」
「なら自分は前を洗うっす!」
「それは自分で出来ますから!キンたんの大きな物が二つも目の前にあったら自我を失いそうです!」
「あっ……………そうっすね。今回は我慢して大人しくしてるっす。」
そう告げてキンはスリーピーの分体にお願いして墨汁で黒くなった部分を綺麗にしてもらってから湯船に浸かる。
「あはは♪キンでもカノンちゃんのアレは苦手なんだ。」
「ナンはあの時の花音ちゃんの目をちゃんと見てないから笑えるんっすよ。あの状態のカンンちゃんの目を見たら笑えないっす…。」
「え?そんなに?」
「そうなのじゃ。私も見たことがあるのじゃが…出来れば遠慮したいのじゃ。」
「スダレもか~、なら止めとこう~っと。」
「それが賢明っす。」
「失礼しま~す。」と言って花音がお風呂に入って来る。
「ふぅ~っは~……………六人じゃ広すぎますかね?」
「別に良いんじゃない?狭いよりは広い方が良いよ。」
「それもそうですね。ところで…シナ婆さんとハルサメさんはどちらに?」
「シナ婆はんと師匠はトウガと一緒にあっちらどす。」
「ああ、三人風呂の方ですか…。」
なら改装は後だね。
「シグレさん。シャワーで水以外は難しそうですか?」
「ん~、ん~、何てゆうたらよろしいんやろか?魔道具を作るんには魔石が必要どす。」
「そう言ってましたね。」
「うちらが手に入れれるんは地と火と水。あと風も偶に手に入ります。」
「ダンジョンでは12階層までで、火と地だけでしたけど?」
「そらダンジョンやから、川の近くでは水の魔石がダンジョン程ではありまへんけど、少量手に入るんどす。
風は鳥系の魔物からの入手できはるから、こちらも偶然少量手に入るぐらいどすな。
問題の、シャワーでゆうたら、お湯にするんには火と水の魔石があればそないにややっこしくはないとは思うんどすけどな。」
「それなら何で…。」
「魔道具作るんには魔石ともう二つ、魔術回路と魔術文字が必要になって来るんどす。」
「魔術回路と魔術文字…ですか?」
「そうどす。こん二つに必要なんがミスリルなんよ。
単純に考えると二つの魔石を使えば出来るんやけど、大きくなってしもうて、そん分魔術回路と魔術文字に必要なミスリルと銀も多くなるんよね。
それを解消するんが、カノンのお嬢ちゃんのゆうた魔石の合成になる訳なんやけどね…
二つの魔石を使うとミスリルと銀の消費量が倍以上、下手すると三倍になるさかいなぁ…難儀やわ。」
二つの魔石と合成した魔石一つだと消費が違う…というのはなんとなく分かるんだけど…
「ミスリルと銀ですか?」
「ああ…そやね…ほんまは見てもろうた方が良いんやろうけど…実際に見てもらうんは今度にして…
ミスリルも銀もダンジョンで手に入るんやけどな、どちらも入手量が少ないんよ。」
「シナ婆さんからもそう聞いてますけど…銀も必要なんですか?」
「シグレさん、傍で聞いてたっすけど、自分もよく分かんないっすよ。」
「私も。スダレぐらいじゃないんですか?理解出来てるの…。」
「某もさっぱりです。」
「これはうちの説明下手の所為やね。スダレ。」
「私が説明するのか⁉」
「せや。うちはどうも一から説明するんは苦手どす。」
「まあ…仕方ないのじゃ。一から説明するのじゃ…。
魔道具が何故動くのか知っておるじゃろ?」
スダレのこの問いに反応は別れた。
というか、ヨギリ以外が首を横に振る。
「何故キンとナンまで首を横に振るのじゃ!」
「って、言われてもね…ね?」
「そうっす。自分やナンは魔道具なんてそんなに使わないっすからね。」
「さっきシャワーを使っておったじゃろ!」
「ん?お?おぉ…あれも魔道具っすね…忘れてたっす。」
「ま、まあいいのじゃ。魔道具がなぜ動くのかといえば、魔力を流すからなのじゃ。」
「スダレたん、そんなの当たり前っすよ?」
「そうなのじゃが…キンはさっき首を横に振っておったじゃろ!」
「いや、そんな当たり前なことを聞いてくるとは思いもしなかったんっすよ。」
「だね~、もっと難しいこと聞いてるのかと思ってたよ。」
「一からと言いたのじゃが…このシャワーで簡単に説明すると、握りの部分に魔力を流すと内側にある魔力回路に魔力が流れて、その魔力が魔力回路を通って魔石に流れて水が出るということなのじゃ。
魔力回路は魔力伝導率の優れたミスリルだけで構成するのが一番良いのじゃが、ミスリルは手に入り難いから銀とミスリルを混ぜて、銀が主でミスリルはその伝達を補助するという感じで使用しておるのじゃ。」
「シナ婆さんはミスリルの加工にはドワーフの秘術が必要って言ってましたけど?」
「ああ…あ~、シナ婆さんがそう言ったのはおそらくなのじゃが…武器や防具にするのにって意味だと思うのじゃ。」
「ん?」
「ミスリルを切ったり、削ったりするだけなら同等以上の物があればどうにかなるのじゃ。」
「あっ!ああ、あ~、確かに。ニグルさんに初めて会ったときにミスリルを切ってもらったんだった…。」
「だから溶かした銀にミスリルの粉末を混ぜて魔術回路と魔術文字を作るのじゃ。」
「溶かした銀にミスリルの粉末を?」
「カノンのお嬢ちゃんはようわかっとらんみたいやけど、シナ婆はんがいわはったドワーフの秘術ちゅうんは、ミスリルを溶かすことなんよ。
粉末にするぐらいならミスリルどうしでどないか出来るんやけどな…。」
「ミスリルはその秘術じゃないと溶かせないんですね…」
「せやから、うちは溶かした銀にミスリルの粉末を混ぜて使うちゅう方法を使ってる訳やね。」
「でも、カノンちゃんはエレンシアさんにミスリルの装備を用意したっすよ?」
「ほんまに⁉どないして⁈」
「あ~っと…錬金です。」
「錬…金…そら、カノンのお嬢ちゃん以外は無理やろうね…。」
「どうしてっすか?」
「そら、こん風呂場を作ったときもそやけど、あんだけの魔力を使ってもケロッとしてはるんよ?魔力量がうちらとは違い過ぎるんやろうね。
うちは錬金を使えまへんからよう分りまへんけど、そんだけの魔力があればミスリルの錬金も可能なんとちゃいますの?」
「まあ、カノンちゃんっすからね♪」
「お師さんですから。」
「なんかキンとヨギリん似て来たよね…。」
「そうニャ、カノちゃんだからニャ…カノちゃん以外誰にも真似出来ニャいと思うニャよ?」
「そうだナ。あの底なしの魔力だからナ…。」
「カノンお姉ちゃんでしゅ♪」
「あら?トウガこっちゃ来ぃ。」
「はいでしゅ。」
トウガはシグレに呼ばれテケテケ、チャボン。
とお風呂に飛び込む。
「トウガ、その入り方はダメなのじゃ。カノンに怒られるのじゃ。」
スダレの言葉にトウガは首を傾げ、
「カノンお姉ちゃんに怒られるでしゅ?」
「そうなのじゃ、最初に風呂に入ったときにカノンから注意されたじゃろ?他の者に迷惑をかけないと。」
「そ、そうでした…ごめんなさいでしゅ。」
「ははは、トウガはええ子やね。」
シグレに頭を撫でれ、トウガは「うにゅ。」と声を漏らし撫で続けられている。
「そや、師匠はどないしはったん?」
「どうしたとはどういう意味ナ?」
「もう出はるんどすか?」
「ああ、違うナよ、体を洗いに来ただけナ。お湯の中で体を洗ったらカノちゃんに怒られるとシナちゃんが言ってたからナ。
それでこっちに来たナ。」
「さよで。」
「そうニャ!カノちゃん、あっちにも洗い場というのが欲しいニャ。」
「ああ…急いで作ったから洗い場までは気が回りませんでした。
でもあの三人風呂は仕えなくなりますよ?」
ラクネアさん専用に作り替えるから…
「ニャ⁉ガニャーン。」
花音の言葉にシナ婆さんはガーンっとショックを受けたような顔で固まってしまったのであった。
「あ、あれ?」
10日投稿予定がズレました。すいません。




