144、助けを呼ぶ声。何処のヒーローものですか?
8人は村へと戻る途中で葱だろうと思われるものを求めて少し遠回りをする。
「シナ婆さん、猫人族は葱を食べられないんですか?」
「葱?…よく分からニャいがニャ、特に食べられない物はニャいニャよ?」
「シナロナ様、某はキルトとクルトからあれは毒だって教えられたんですが…。」
「ニャ?………あ、あぁ…あれかニャ?あれは子供の頃食べるとよく嘔吐や腹を下すニャよ。
あれがカノちゃんの言ってるネギだったのかニャ…。」
「葱じゃないんですか?」
「正式な名前は知らニャいニャ、わーは青草って呼んでるニャ。
あれは薬の調合に使ってるからニャ、頭痛、下痢、腹痛、腫れ物のときニャんかに使ってるから毒…ではニャいと思うんだがニャ…。」
「…下痢の薬で腹を下す?」
「まあ、薬には根に近い白い部分を使うんだがニャ。」
「それなら上の緑の部分が?」
「わーには分からニャいニャ、キルトとクルトが小さい頃腹を下したときは、それを使って治療したことがあったからニャ…。」
「あの時のことかは分かんないっすけど、たぶんそれ…ネギだったっすか?それを食べるときに洗ってないのと、手も洗ってなかったっすからね、たぶんそれが原因だと思うっす。」
「ああ、あの時か…私とキン、それにナンとカルトも一緒だったのじゃ。
でもカルトは何ともなかったのじゃから、キンの言ったことの方が原因だと思うのじゃが…。」
「…たぶんその時ニャ、あの時キンたちが2人を運んできたからニャ。」
「ちゃんと手を洗いましょうってことですね…。」
「そうニャね。」「そうっすね。」
「そうなのじゃ、トウガにはちゃんと手洗いは言い聞かせてるから大丈夫だとは思うのじゃが…。」
「そうですね、トウガちゃんにはそんなことで苦しんでは欲しくないです。」
「スダレはええお姉はんやね♪」
「し、師匠⁉」
「そない大声出さはらへんでも…。」
「スダレを見てるとナ、昔のシグレを見てるようで懐かしくなるナ。」
「そうニャね…。」
「し、師匠⁉」
「ほらナ♪」
しばらく進むと葱の群生場所に到着して、シナ婆さんと花音は葱の採取。
ヨギリとキンはそれを手伝い、スダレはトウガを背負っているので見学。
シグレとハルサメは近くのレモネを摘みに行っている。
「シナ婆さんは葱を栽培したりしないんですか?」
「してるニャよ?でも素材は多くても困らニャいニャ、逆に少ニャい方が困るニャよ。わーは一応あの村で薬師もやってるからニャ。」
「あ、そうだったんですか。」
「そうニャ、だからわーの家は寄合所みたいにニャってしまったんだがニャ…それはそれで別にいいニャ。
ルーも育って来てるしニャ、わーもそろそろお払い箱ニャ。」
「…そんな悲しいこと言わないでくださいよ。」
「っと、悪かったニャ。でもわーの心残りはカノちゃんが一気に解決してくれそうだからニャ♪」
「心残り?あれ以外に心残りがあったんですか?」
「オルトのこととタマのことニャよ…。」
「あぁ…。」
「そこはこの後のカノちゃんの話の内容次第ってところかニャ?」
「……。」
「マスターめ!」
「ハッ!スリーピーさんありがとう…。」
「カノちゃんがオルトのことになるとそうなるから、わーは少し不安ニャよ…。」
「少しですか?」
「少しニャ。緊急ならカノちゃんが話しニャんかせずに黙ったままか、カノちゃん自身が動いてると思うからニャ。」
「私はそんなに良い人じゃないですよ?」
「そうかもしれニャいがニャ、オルトに関してはタマが関係してるからニャ…カノちゃんはきっと動くニャよ♪」
「……。」
「さて、このぐらいにして村に戻るかニャ。」
「そうですね、ヨギリん、キンたん。そろそろ戻ります。」
「分かりました。」「了解っす。」
「それなら私は師匠たちに伝えて来るのじゃ。」
「すいません、お願いします。」
スダレはシグレとハルサメの下へ向かう。
花音たちが待っていると…
「ギャー!」「助けて!」
「女王様逃げてください!ここは我々が囮になります。」
という言葉が聴こえて来るが、ヨギリやキン、それにシナ婆さんは特に聴こえた様子はない。
「あれ?…シナ婆さん。」
「ニャんニャ?」
「助けを呼ぶ声が聴こえたんですけど…。」
「ん?わーには聴こえニャかったがニャ?カノちゃんの気の所為か、いつものカノちゃんの能力じゃニャいのかニャ?」
「私の…あっ!」
「心当たりがあったかニャ。」
「はい、昨日召喚の時に召喚した魔物とお話し出来るようにしたままでした。」
「ということはニャ、魔物が助けを求めてるってことかニャ?」
「たぶんそうだと思います…。」
「わーたちはここで待ってるからニャ、気にニャるニャら様子を見てくればいいニャよ。」
「…すいません、ちょっと様子を見て来ます。」
「分かったニャ。」
シナ婆さんの了承を得て花音は声のする方へと向かう。
「お師さんはどちらへ行かれたんですか?」
「ニャんか助けを呼ぶ声が聴こえたんだそうニャよ。」
「助けですか?某には全然…。」
「おそらく魔物ニャ。」
「魔物⁉」
「そうニャ。カノちゃんは自分で良い人じゃニャいって言ってたがニャ…。」
「お師さんは良い人?ですよ?」
「違うっすよ。」
「キンは違うと?」
「そうっす人じゃないっす、良い魔の付く人っす♪」
「あぁ…でもそれも人じゃないですか!」
「あれ?…そうっすね♪」
花音は声の方に向かって行くと、そこにはレッドウルフに襲われているマァトゥンの群れが見えた。
「あ、あの声は羊さん達のか…って助けなきゃ!」
考えるより先に体が動き、襲っているレッドウルフとマァトゥンの間に花音は躍り出る。
突然現れた花音にレッドウルフは警戒して一旦マァトゥンを襲うのを中止する。
当のマァトゥンも突然現れた花音を警戒する。
「貴様は何者だ!」
「え?…生もの?」
「違う!何者だと言ったのだ!」
「ああ、人族です。」
「莫迦にしてるのか!人族が我らの言葉を話せるはずがない!」
「意外と賢いですね…。」
「あ、あなたは…。」
「女王様、お下がりください!危険です!」
「え~っと…あなたがこの群れの…ボス?」
「いいえ、王が居るのですが…ここ数日戻って来てません、代理となります。」
「王?あっ……そ、そう…それでさっき私に何者だって訊いて来たのが、そっちの群れのボスかな?」
「そうだ!」
「そっか、それなら話し合いしましょう。」
「話し合いだと?笑わせるな!」
「笑ってないじゃないですか。」
「貴様!おちょくっているのか!」
「ん~…。」
『ガルドラさん。』
『ん?主か?どうした?』
『すいませんが召喚して良いですか?』
『あ~ちょっと待ってくれ、召喚されることに問題はないが、状況を教えてくれると助かる。』
『今レッドウルフの群れとそれに襲われてたマァトゥンの群れの仲介みたいなことをしようと思ってるんですけど…。』
『レッドウルフというのは赤い毛の奴らのことだったな、マァトゥンといのは?』
『マァトゥンは白いモコモコの毛の羊です。』
『白い、もこもこ…お?おぉぉ、あれの肉は美味い。』
『召喚しても襲ったらダメですからね!』
『む、無論分かっておる。』
『本当ですか?』
『わ、わわ我は主の従魔だぞ!』
『…それで召喚しても良いですか?』
『す、少し待ってくれ、心の準備が必要だ。』
『心の準備?』
『主よ…召喚されて目の前に美味しい肉…獲物が居るんだぞ?我慢できると思うか?』
『ああ…確かに。』
『理解してくれて何よりだ、少し待ってくれ。』
『分かりました。』
「貴様!さっきから黙っているが…。」
「少し待ってください、仲介役を呼びますから。」
「仲介役だと?そんなもの…。」
『よし、準備完了だ。』
『召喚します。』
『うむ。』
「ガルドラ召喚!」
花音の言葉と同時に魔法陣が現れそこから突如ガルドラが姿を現す。
ガルドラという強者の出現にレッドウルフは戦意喪失、半分が回れ右して逃げて行く。
もう半分は逃げようにも攻撃範囲に自分たちが入っていることを理解している為に逃げようにも逃げられない状況である。
一方のマァトゥンはガルドラの登場に死を覚悟して絶望する。
女王だけはどうにか仲間を逃がさなければと覚悟を決め状況を見守る。
「それで主は何故我を呼んだのだ?」
「主だと⁉」
「え?だって狼ならガルドラさんって決まってるじゃないですか。」
「狼ではあるがこいつらと一緒にされても困るのだがな。」
そういってガルドラはレッドウルフの方を一瞥する。
レッドウルフの方は絶望で身動きが取れず、ガルドラの視線に怯えるだけである。
「仲介をするんですから、あまり怖がらせたらダメですよ?」
「むっ…我はただ見ただけなのだが…な。」
レッドウルフのボスはこの場で一番強いのはこの自称人族の雌なのだろうと判断する。
この人族?猫人族?の雌がこの化物の主だと?そうは見えない、見えないがこの化物が主と言ったから間違いない…間違いないのだろうが…強さがさっぱり分からん。
分からんがそこが却って不気味だ…。
「おい、そこのお前。」
「な、なななな、んだ?」
「落ち着け、我が主はお前たちを殺す気はないようだ。」
「そ、そんなの信じられるか!」
「信じようが信じまいがお前たちの勝手だが…お前たちの所為で我が呼ばれたのだぞ?」
「くっ…。」
「ガルドラさん!」
「わ、我は悪くないぞ!こ奴が勝手に怯えておるだけだ。」
「そうなんでしょうけど…。」
「大体、主の強さも理解出来ん連中に情けをかける必要があるのか?」
「ちょっと私の所為で…色々あるんです。」
「主の?」
「はい、この森は生息地域が決まってたみたいなんですよね。」
「…確かに、ここにこいつらが居るのは不思議ではあるな。」
「それ、たぶん私の所為なんです。」
「何故主の所為なのだ?」
「ちょっとやって見せます、なるべく早く収めたいと思ってますけど…そこのレッドウルフのボスとマァトゥンの女王さんは逃げないように、ガルドラさんも気を付けてくださいね?」
「う、うむ…。」
レッドウルフのボスは花音の言っている意味が分からず、取り敢えず頷く。
マァトゥンの女王も同様に頷く、ここで頷かないとその後がどうなるか分からない為である。
「スリーピーさんお願いしますね。」
「分かった。」
「あ、主、その頭の上のは何だ?」
「それは…後で紹介しますよ。」
「そ、そうか…。」
「それでは始めます、気をしっかり持ってください。」
そう言って花音は魔王の威圧を発動させる…。
ガルドラは花音の従魔で花音の強さも理解していたつもりであった。
そう…〝つもり〟だったのである。
花音から発する魔王の威圧がその場を支配し出した瞬間…
「マスターめ!」
スリーピーさんによるストップがかかる。
「っと、スリーピーさんありがとね。」
花音はスリーピーにお礼を言って周囲を見渡せば…。
ガルドラはなんとか耐えたようだが、小刻みに体が震えている。
レッドウルフの方はボスが辛うじて意識を保っているが、それ以外の全員が失神。
マァトゥンの方も同様で…
「え~っと…女王は…これってアヘ顔?うっわ~見たくなかった。」
「そう言ってやるな主よ…我でも逃げ出したかった所を、逃げずに堪えたのだ。」
「そう聞かされると…スリーピーさんお願いしても良い?」
「分かった、魔力♪」
「あ、はい。」
スリーピーの要望に花音は魔力を与えると、分体が産まれてマァトゥンの女王を取り込む。
「捕食…ではないのだな?」
「当然です、ここで捕食したら私に何のメリットもないじゃないですか!」
「めっりっと?」
「あ~利益?美味しい所?」
「ああ、美味しい所がないのか、それはいかんな。」
「そうでしょ?レッドウルフのボスも似たような感じですね…。」
「そっちも?」
「出来ますか?」
「大丈夫。」
「なら、お願いします。」
「分かった。」
再びスリーピーから分体が産まれ、レッドウルフのボスの方へと近づく。
「う、うわぁぁぁー!来るな!こっちに来るな!」
レッドウルフのボスは恐慌状態で叫ぶが、逃げようにも体が動かずに分体に飲み込まれる。
ガルドラさん再登場、サハどんの出番は何時?




