120、お昼。楽しいお昼……。
花音たちがギルの店に到着したときには昼飯の時間を少し過ぎた頃で、殆ど人が居ない状況になっている。
すれ違う者、まだ残っている人も最初は花音の後ろを跳ねて付いて来ているスライムに驚くが、花音とゴルクを見てそのまま仕事に戻ったり、食事を続けたりする。
「お待たせしました。」
「遅かったっすね、シナ婆さんはどうしたっすか?」
「まだ村長さんの所です。」
「何かあったの?」
「スライミーさんの件で村長さんが壊れました。」
「あ~、それは仕方ないよ、カノンちゃんが来るまで魔王なんて話の中だけの存在だったからね。」
「そうじゃな、魔王…特にドラゴンとスライムは強さで知れ渡っておるし、ルーニア大陸のは人族とよく戦をしておるらしいが、ここまでは来んからな。実物を見たのは儂も初めてじゃ。」
「お師さん、さっきから魔王、魔王って何の話ですか?」
「あれ?ヨギリんは村に戻ったときに話した…よね?」
「ちゃんと話した訳じゃねぇが、話題には出たな。」
「ん?……あっ、あれ冗談じゃなかったんですか⁉」
「冗談じゃないですよ、私の頭の上に居るのがそのスライムの魔王のスライミーさんの分体です。後ろに付いて来てるのもそうですよ。」
「なななな、何で魔王の分体がお師さんの頭の上に居るんですかー!」
ヨギリはそう叫んで急に拝みだす。
「それは従魔になってくれたからで…そんなに驚くことですか?って拝まないでください!」
「娘っ子…これが普通の反応だ、魔王てぇのはそんな存在なんだ…ちと存在が大き過ぎて日常で出くわす魔物より脅威度が分かり難いがな。」
「そうなんですか。」
「私達もカノンちゃんから聞いてなかったら、これより酷い状態だと思うよ?」
「そうっすね、カノンちゃんだからなんとか納得してるだけっすからね…。」
「そうなんです…か…、ヨギリん、私の頭の上に居るのがスライミーさんの分体で…スリーピーさんです。」
「スリーピーさんですか?」
「名前付けたんっすか?」
「今考えました、村長さんと話してるときに約束してましたからね♪」
「スリーピー…私の名前…嬉しい…です♪」
「喜んでくれたなら私も嬉しいです♪で、こっちがヨギリん…ヨギリさんで私の一応…弟子です。」
「お師さん、一応は外して欲しいんですけど…某、弟子のヨギリです。よろしくお願いします。」
「よろしく。」
「あ、自分も自己紹介するっす、自分はカノンちゃんの孫弟子のキンっす。」
「それなら私も、私はナンね♪よろしく。」
「儂も、儂はカノン殿の一番弟子…」
「師匠は一番じゃないっす!一番はヨギリんっすよ!」
「え?ぇ?某?…あっ、某が一番弟子…一番弟子なんですか⁉」
「当然っすよ♪師匠は二番っす。」
「む…二番弟子のギルルドと申す。」
「ガハハハッ、弟子に怒られてやがる♪」
「うっさいわ!」
「俺、私はこの村の猿人族の代表のゴルクです。以後お見知りおきを。」
「お主が綺麗な言葉を使うと気色悪いな。」
「うっせー!」
「そこで寝てるのがタマにゃんね、起きたら改めて自己紹介しようね。あとはシナ婆さんはこっちに来た時でいいかな?」
「みんな、よろしく♪」
「さっきアルファルム大陸の魔王が出て来ませんでしたけど、どうなんですか?」
「ん?この大陸に魔王が居るのか?初耳なんじゃが?」
「自分も知らないっすね。」
「何言っとるか、お前に話してやったのは儂じゃからな、儂が知らぬならキンも知らんじゃろうが!」
「そう言われると、そうっすね♪」
「ゴルクさんは聞いたことないの?」
「ねぇな…俺が聞いたのは魔王じゃなくて、吸血鬼の話だけだ。」
「どんな話っすか?師匠から聞いたことないっす。」
「儂も聞いたことがな…あー!」
「ど、どうしたんですか?」
「いや…儂が旅に出て、こ奴やり合ったからな、儂はすぐにこの大陸を出たんじゃ、じゃから…この大陸のことはそんなに知らんかった。」
「あの時か…あの後俺は逆方向に向かったからな。」
「そうなんですか…それで吸血鬼ってどんな話だったんですか?」
「あれは、えらく別嬪な女が人を攫うってぇだけの話だ、その女が吸血鬼じゃねぇかってな。」
「つまんないっすね。」
「まあ、特に面白い話じゃねぇが、そう言われると殴りたくなるな…。」
「あはは、冗談っす。」
「おう、魚焼けたぞ。」
「待ってたっすよギルさん♪」
「チッ、逃げやがったな。」
「お昼ですね♪タマにゃんはまだ気を失ってるんですよね…起こした方がいいのかな?」
「そうなんだよね、気持ち良さそうに寝てるから起こすのもどうかと思って、そのまま寝かせてる。」
「もう少しして目を覚まさなかったら起こしましょう、空腹でダンジョンに行くのも可哀想ですから。」
「だね。」
「お師さん、シナロナ様は待たなくて良いんですか?」
「あ、どうしましょうか?」
「シナロナは待たなくてもいいだろ、その為に自分が残って、俺たちを先に行かせたんだからな。」
「ここは任せて先に行けってやつですね…。」
「そう聞くとなんかカッコいいね。」
「そうっすね、自分も何処かで使うっすかね。」
「いやいやいや、この言葉死亡フラグですからね!使わない方がいいです!」
「「死亡フラグ?」っすか?」
「この言葉を言ったが最後…生きて戻ることは難しいという呪いの言葉です。」
「そ、そうなんっすか⁉」
「なんか恐いね。」
「まあ、生きて戻って来る人も居れば、行方不明になる人も居ますし、そのまま死んじゃう人も居ますけどね、後半の人が多いから呪いの言葉です。」
「それは本当ですかにゃ⁉」
「あ、タマにゃん目覚めたの?」
「カノンちゃん、さっきの話は本当ですかにゃ!」
「さっきの…。」
「ここは任せてですにゃ!」
「あ、あ~……そうだね、圧倒的不利な状況で、人を逃がすときによく使う言葉だからね…良くて重症、最悪死亡が大半だね…。」
「そ、そうですか…にゃ…カノンちゃん…悪いですがにゃ、にゃーは今日は帰りますにゃ、ダンジョンはごめんなさいですにゃ…。」
「そっか…うん、分かった。ダンジョンは日を改めよう。」
「にゃ⁉でも…。」
「別に良いよ、話せない、話したくないなら無理には聞かない、でも話してくれるなら最大限協力はするからね♪こっちにはスライムの魔王様も付いてるんだから!」
「にゃ⁉」
「私の頭の上のスリーピーさんがスライムの魔王の分体だから、話したくなったら聞きますよ♪」
「聞く…マスターが。」
「わ…にゃー………分かりましたにゃ…今は…今日は帰りますにゃ…。」
「…うん、分かった、いつでもいいからねー!」
トボトボと去って行くタマの後姿を全員が黙って見送る。
「やっぱり何かあるんですね…。」
「そうっすね…。」「だね~…。」
「タマのことも気になるが、取り敢えず飯食え!な!折角俺が作ったんだからな。」
「そうだな。」「そうじゃな。」
「それじゃあいただきます。」
「いただくっす。」
「「「「いただきます。」」」」
花音たちがご飯を食べだしてほんの少しして、シナ婆さんがやって来る。
「どうしたのかニャ?昨日の宴の最初みたいニャよ?」
「タマが帰ったっす…。」
「タマがかニャ?…ニャにかあったのかニャ?」
「シナ婆さんの話をしたら帰ったっす。」
「ニャ⁉わーの話かニャ⁉」
「ちょっとキン、その言い方だとシナ婆さんが原因みたいじゃない。」
「まあ、間違ってはんねぇがな。」
「詳しい話は食べながらしましょう。」
「そ、そうだニャ、ギル!わーの分も頼むニャ!」
「あいよ。」
「しかし…お師さんはよく厳しいこと言えましたね。」
「厳しいですか?…そうですね、タマにゃんに何かあったことはあの雰囲気で分かりますよ?でもそこで希望を持たせるのと、現実的に厳しい状況での可能性を教えるのと…どっちが良いんでしょうね…。」
「それは…。」
「正直こればかりは、どちらが正しいなんて正解はないですよ。ただ…タマにゃんが私を頼ってくれるなら全力で力を貸します。」
「お師さん…。」「カノンちゃん…。」「娘っ子…。」
「カノンちゃんが全力出したらこの大陸大丈夫っすかね?」
「「「「…………。」」」」
「何でそこでみんな黙るんですか!」
「そりゃあー…な。」
「美味しいニャ♪ところでニャにがあったのか詳しく教えて欲しいニャよ。」
「シナ婆さんが村長さんの所に残って、私達を先にここに向かわせたじゃないですか。」
「そうだニャ。」
「その状況を言い表すと、「ここは任せて先に行け」っていう状況なんです。」
「ふむふむ。そう言われればそういう状況だニャ。」
「それを聞いたタマにゃんが…ちょっと取り乱して、しょんぼりして帰って行きました。」
「そうかニャ…カノちゃんはタマのことを何処まで聞いてるのかニャ?」
「そうですね………6歳ぐらいで1人でこの村に来たのと、村人と距離があるぐらいですかね。」
「そうかニャ……。」
シナ婆さんは1回頷いて、意を決したような顔をして、人払いをする。
「これから話す内容は、村人には聞かせられニャいニャ、少し席を外すニャよ。」
「「「………………。」」」
「うむ…分かった…。」
「おぅ小娘共、ちと離れるぞ。」
「「「…。」」」
ゴルクの言葉にキン、ナン、ヨギリが渋々従う。
全員が…
「ギルも悪いが席を外すニャよ。」
「ぉ、おぅ、でもな…ここ俺の店なんだがな…。」
「そこは悪いと思うがニャ…。」
「いや、すまん、ちょっと言ってみただけだ。」
ギルも大人しく離れていく。
「ここからは村長とわーしか知らニャいことだがニャ……。」
「村長さんとシナ婆さんだけですか?」
「そうだニャ、タマがこの村に来た時に話を聞いたらニャ、オルトが…いや、オルトと思われる人物がこの村の場所を教えたみたいニャ、そのときはタマも錯乱してたし、疲労に怪我も酷かったからニャ、どうにか分かったのはその程度だニャ、しばらくして落ち着いた時にはタマは殆どの記憶が曖昧で、それ以上これと言った情報は得られなかったニャよ…。」
「そうですか…オルトさんと言うのは誰ですか?私会ったことないですよね?」
「この村には居ニャいニャ、タマが来た日以降オルトは戻って来てニャいニャ。」
「それって…。」
「おそらくニャ、カノちゃんの先に行けという状況だったんだと思うニャよ…。」
「そうですか…。」
「オルトはニャ…キルト、クルト、カルトの師匠で、わーの次の代表予定だったニャ、戻って来ニャいからわーが続けてるがニャ…。」
「…そのオルトさんは村長直属だったんですか?」
「そうだニャ、その仕事中、魔物の生息調査中にタマを見つけたんだと思うがニャ……。」
「タマにゃんを助けたのがオルトさんとは限らない…ということですか…。」
「そうだニャ、戻って来ニャくニャって、猫人族の総出で探してはみたんだがニャ…。」
「見つけられなかった、死体も遺留品もって感じですか…。」
「そうだニャ、だから生きている……と思ってるニャ、その可能性を当時…死んだようニャ感じのタマに伝えて、ニャんとか今みたいに元気にニャったんだがニャ…。」
「…………それを私が…タマにゃんの希望を閉ざしちゃったと…。」
「いや、いやいやいや、カノちゃんは…。」
「いいですよ、その可能性はタマにゃんの様子でなんとなく分かっちゃいましたから…でも…これじゃあ私の気が…よし!」
そういって花音は席を立つ。
「ニャにをする気ニャ⁉」
「情報収集のスペシャリストにお願いしてみます。」
「ス、スペ…シャ…?…??」
「情報収集の専門家に頼んでみます。キンさん達には今日のダンジョン行は中止と伝えてください、この埋め合わせは後日とも伝えてください、お願いします。」
「わ、分かったニャ…。」
シナ婆さんの返答もそこそこに花音は家の方へ向かっていく。
その後をぴょんぴょんとスライミーの分体が付いて行く…。
ダンジョン行が怪しくなってきました…。
いつもの事ですね…(´・ω・`)
タマの話はお風呂の時に書くつもりだったんですけど、何故か話の流れでここになりました…。
何でだろ⁇




