108、宴。お通夜…じゃないですよ!
花音たちが宴の場所に戻って来た時には、そこは宴…ではなく、お通夜のような静けさであった。
「かぁ~辛気臭い連中だな。」
「それでも子供たちは美味しそうに喜んで食べてますよ♪」
「それだけが救いじゃのう…。」
「ゴルクさん、ちょっとお願いして良いですか?」
「あん?何だ娘っ子。」
「ほら、訓練をするじゃないですか、それの告知をお願いしたいんですけど。」
「あれか…でもいいのか?ここで言っちまえば人数が増えると思うぞ?」
「そこは…しょうがないです、このまま犬耳、猫耳、狐耳がへにょ~んっとなってる方が私には耐えられません!」
「時々、娘っ子の考えがよく理解出来ねぇ時があるんだが…まあいい、それで俺で良いのか?」
「たぶんゴルクさんが一番いいと思います、シナ婆さんはお説教っぽくなりそうですし、シグレさんはちょっと違うと思います、村長さんは…この話には一番縁がなさそうですし、ギランさんは模擬戦を実際に見てませんから。」
「そうだニャ、ゴルクが一番適任かも知れニャいニャ。」
「そうどすなぁ、うちでは訓練のことはよう分かりまへんし、魔術なら狐人も参加しはるでっしゃろやけど、魔術はあらへんのでしょ?」
「そうですね、私がまだ魔術は使いませんから、それでも体を鍛えたい人が居れば参加してもらっても良いんですよ?」
「そやね…参加打診については各代表が伝えまひょ。」
「それが良いだろうな。」
「それなら…ギランさ~ん!」
花音に呼ばれてギランが駆け寄って来る。
「どうしましたか?」
「娘っ子のところでの訓練の告知をするんだが、ギランは模擬戦のこと聞いてるか?」
「はい、少し…参加者が戻って来た時は、死人でも出たのかと驚くほどの状態でしたよ。」
「聞いてんならそれでいい、それで告知の後の参加希望者の打診先を各種族でって話になったんでな。」
「あぁ…分かりました。」
「話が早くて助かる、んじゃ!ちょっと連中に発破をかけてくっかな。」
ゴルクは最初に村長が挨拶した場所に立ち
「うらぁぁぁーー!!!お前ら辛気臭いぞ!折角の料理が不味くなんだろうが!」
ゴルクの怒声にその場に居た者たちの視線がゴルクに集中する。
「いいかよく聞けよ。娘っ子が訓練に付き合ってくれることになった、参加を希望する奴はこれから各代表が打診先を伝えるからな、よく聞いて、そして考えて答えを出せよ。自分がこのまま弱いままで良いのか!強くなりたいのか!ってな♪」
ゴルクの告知によってその場に居た者たちの心に灯がともる。
「お?耳が少し立ってきましたね♪」
「強くないと生きていけない人も居るっすからね。」
「分かり易いのがあれなんだけどね…あははは。」
「それじゃあ、猿人族から打診先を伝えるぞ、打診先は俺かヨギリだ。よく考えて打診して来いよ、でも今日は来んな!」
そう言ってゴルクは下がって行く。
「次は犬人族です、打診先はナンかキンです。ギルルドも参加するみたいですから、よく考えてから打診してください。」
「それはどういう意味じゃ!」
ギルルドの抗議を無視してギランは下がって行く。
「次々行くニャよ、猫人族はわーかキルトに打診するニャよ。」
そう言ってシナ婆さんは下がって行く。
「狐人にはあんまり関係なさそうどすやけど…うちん師匠を考えれば身体能力向上というんは悪い話やあらへんと思うて、そんなら打診先はうちかスダレで…うちは基本研究したはるでっしゃろらトウガに打診おくれやす。」
そう言ってシグレも下がって行く。
宴の会場は目標…というよりも、何をどうしたら良いのか分からなかった者達にやることが見えて来たお蔭で最初の静けさから、多少賑やかになって来る。
「これで良いか娘っ子?…って何1人で食ってやがんだ!」
「もきゅ?…もぐもきゅ…美味しいですよ♪」
「そりゃぁ美味いだろうよ!」
「ゴルクもそんなに怒鳴らんでものぅ…こりゃ美味いの!」
「村長まで⁉」
「ゴルクは元気だニャ、これもなかなか美味しいニャン♪」
「ちょ、シナロナまでかよ!」
「わーたちはゴルクが告知してる間に料理を取り分けたニャよ?」
「そうっすよ、ゴルク爺は打診も一番最初に伝えたのにのんびりしてるからっす。」
「怒鳴ってるならゴルク様も早く確保した方がいいですよ?」
「そうだよ~ゴルクさん、早くしないと他の人に食べられちゃうよ。」
「ちくしょー!食ってやる!食ってやんよ!」
ゴルクは食べ物を取りに行き、花音は周囲を見渡す。
「まだ、元気がないですけど、笑顔がチラホラ見え始めましたね。」
「カノちゃんが言った通りニャ、お腹が空いてたら元気も出ニャいニャ。」
話ながら花音とシナ婆さんはワイバーンの肉を頬張る。
「あっ、カノンさん。」
「ん?ギランさんどうしました?」
「ワイバーンの尻尾の部分が2体分残ってるんですけど、どうしますか?」
「尻尾ですか?そこは食べれないんですか?」
「勿論食べれますよ。」
「それなら何で…。」
「一種の験担ぎのようなものです、忌み子は尻尾の部分を食べない風習がありますから…。」
「ああ…成程、それなら私が貰います。」
「分かりました、ギル!」
「おう、何だギランの旦那。」
「カノンさんがワイバーンの尻尾を引き取ってくれるから準備しようと思う。」
「分かった、嬢ちゃん凄かったらしいな♪30人ぐらいが一気に戦意喪失だって?何の冗談だよ。」
「冗談じゃないっすよギルさん、カノンちゃんのフシャー!ってやつでみんな動けなかったんっすから。」
「え?」
「そうだよ、私も動きが止まっちゃったもん。」
「え⁉」
「そいつは凄いな俺も見てみみたかったな♪はっはは。」
「フシャー!」
「お?おぉぉ~可愛いもんだ、これだけ可愛ければ動きも止まるかもしれんな♪ははは。」
ギルはそう言ってカノンの頭を撫でてギランと尻尾を運ぶために移動する。
「あっ、ニグルさ~ん!」
花音はニグルを見かけて声をかける。
「ん?おう、嬢ちゃんか、模擬戦凄かったな。」
「凄かったですか?直属の戦闘はどう見えましたか?」
「ヨギリたちか?ヨギリが強くなってて驚いたな。」
「某が強く…ニグルさんに言われると嬉しいです♪」
「そうかそうか♪あとはあれだな、キルトとクルトの増殖だな、あれは驚いた。」
「増殖って…何か気持ち悪い…。」
「何を想像したんだ?…それで俺に何か用か?」
「そうでした、この小太刀見てもらって良いですか?」
花音は収納から秋桜を取り出してニグルに渡す。
「これは?」
「私が錬金で作った小太刀です。」
「嬢ちゃんが…抜いてみても良いか?」
「はいどうぞ。」
ニグルは秋桜を鞘から抜いて確認していく。
「こりゃー………斬ってみても良いか?」
「はい。」
ニグルは移動してその辺の木を斬ってみる、それっきりニグルは言葉を発しなくなる。
「…………どうですか?」
「…廃業だな。」
「ちょっとニグルさん⁉」
「いや、話は聞いてたんだ…聞いてたんだが………実物を見ちまうとな…それでこれを見せたのは俺に決断をさせる為か?」
「ちょ、そんなことしませんよ!」
「それなら何が目的だ?」
「これと同等の物をニグルさんに作ってもらおうと思ってます。」
「そ…それは無理だ…。」
ニグルは悔しそうで、諦めにも近い感じで言葉を絞り出す。
「どうして作れないんですか?」
「どうしてって…俺の魔力じゃ全然足りない、この小太刀には自動修復と斬撃強化が付与されてるんだろ?一から手作りして能力付与だけに魔力を使い切っても良くてこの小太刀の能力の斬撃強化の3分の2以下の能力ぐらいしか付与出来ないだろうな。」
「それならニグルさんの魔力が今の倍になったらどうですか?」
「倍?ははは、倍になればこれと同等の斬撃強化ぐらいなら何とかいけると思うが…。」
「思うが?」
「ああ、倍になったとしても最初は手作りしなきゃならんだろうな。」
「手作りはダメですか?」
「ダメってことはないが、一振り作るのに7日~10日ってところだな、それも他のことがなければって話になるが…。」
「ん~結構かかりますね…それなら3倍なら?」
「3倍⁉それなら、まあ………1日一振りだな。それでも斬撃強化だけしか付与出来ないが…。」
「斬撃強化で1日一振りですか…自動修復は付与出来そうにないですか?」
「自動修復はな、正直付与出来る気がしないんだ、俺の知ってる限りで自動修復なんて物は存在しないからな。」
「自動修復って存在してないんですか⁉」
「俺の知ってる範囲でだがな、シグレさんのドワーフの書物も見せてもらったが自動修復はなかったな、修復はあったんだが、それは付与するやつじゃなかったし…。」
「そうですか…それならニグルさん頑張ってくださいね♪」
花音は収納から腕輪を取り出しニグルに渡す。
「ん?何だこの輪っかは。」
「それは大きさが自動で調整されますから、腕でも指でもニグルさんの好きな所に着けてください。」
「ああ、ありがとう?」
「いえいえ、どうしようかと思ったんですけど…それ魔力が5倍になって魔力回復が若干早くなりますよ♪(それ以上はナビちゃんに止められましたけど…)」
「な⁉いや、でもこんな凄い物貰う理由が無いぞ⁉」
「この前の鉱石の対価になりませんか?」
「なんねぇよ!」
「ダメですか…やっぱり現物じゃないとダメでしたか。」
「いや、そういう意味じゃない、渡した鉱石以上でこっちが貰い過ぎだ!」
「そうなんですか?それなら武器に防具にと私の代わりに頑張って作ってくださいね♪」
「嬢ちゃんの代わり…って何だ⁉」
「シナ婆さんとシグレさんが私に武器を作って欲しいって言ってたんですけど、私もしないといけないこともありますから、それなら本職のニグルさんに作ってもらおうと思いまして、その為に魔力増強の腕輪を作りました♪あっ、腕輪って言いましたけど指にも着けれますからね♪」
ニグルは花音から渡された腕輪を握りしめて、
「ああ…ああ、分かった、俺が出来る限りは嬢ちゃんの代わりに作っていこう。」
「あっ、それと…。」
「まだ何かあるのか?」
「その腕輪、ニグルさん専用にしてますから、他の人にあげたりしたらダメですよ。」
「そんなことする訳ないだろ!」
次はきっと…。




