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幽霊は眠らない。俺が寝ている間も、彼はずっと起きて、自分の過去に創った歌を口ずさんだり、また退屈そうに漫画を読んだり、窓の外を羨ましそうに眺めたりしている。生前は音楽ソフトで作曲していたので、俺のパソコンを使いたがっていたけれど、それだけは許さなかった。
少年の幽霊が俺の部屋に現れて、十日ほど経つ。未だに消える気配がない。俺はこれが、全部俺の生み出した幻影なのではないかとたまに思う。何年もずっと部屋に引きこもりすぎて、本当におかしくなってしまったのだろうか。あるいは、俺の罪悪感が、この少年の姿を見せているのだろうか。
「どうしたら、お前は消えるんだ。」と問いかけたことがある。けれど少年は首を傾げるだけだった。
「幽霊って……多分、何かやり残したことがあるから出てくるんでしょう。けれど僕は、どうしてここに現れたか自分でもわからないんだ。」
「君はわかる?」と今度は俺に問いかけてきた。
「わからない。悪いけれど、今までお前のことなんて知らなかったよ。」
嘘をつくときはいつも、少年のまっすぐに見つめてくる右目を見れなかった。左目は、潰れてよくわからないことになっていたからそもそも最初から見なかった。
その日も月が明るく部屋を照らしていた。俺はそのたび、月明かりの中出かけたあの日のことをよく思い出した。まるで誰かに見られていたかのような夜だった。