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第一章:二話 転生完了、そして

 一騎の意識は赤い光に飲み込まれて消し飛んだ。消し飛んだ先から別の意識に体が塗り替えられていくような感覚が全身を駆け巡る。しかも痛みを伴ってだ。声を上げることも身を捩ることもできないのに勘弁してほしい。夢でも現実でも転生でも再構築でも何でもいいからさっさと終わってくれ。


 負け犬根性と弱虫根性を全開にする一騎、に不意に声が落ちてきた。


『肉体の再構んんっ、転生は順調ですねー。ではではここで、皆様方にはボーナスを一つ差し上げまーす。神族が召喚した人間に特異能力を与えると言いましたが、我ら魔族も負けてはいませんよー。神族はあくまでも人間に能力を一つ与えるだけでしたが、我らは転生で得た強靭な肉体に加えて、更に強力な能力をプレゼントしてあげるんですからねー。期待に胸躍らせて下さい。なおなお、与えられる能力はランダムであることが基本となりますけど、概ね本人に相応しいものになりますので承知して下さいねー』


 適当すぎるだろ。痛みでそれどころではないので心中だけで一騎は突っ込んだ。


 一騎の知識による異世界転生だと、転生者はある程度自分の意志で能力を選べる。無理やり連れてきた挙句、ランダム振り分けとか勘弁してほしい。


『もちろん、本人が強く望めば指定された能力が獲得できますよー?』


 情報の後出しは本当に勘弁してほしいと思う一騎だった。


 望む能力、なんてものを思い浮かべる余裕はない。せっかくの妖精の言葉も、間断なく全身を苛む激痛を前にしては無意味そのもの。


 この状況で思い浮かべる能力があるとすれば痛覚遮断あたりが妥当だろう。一騎としてもそんな能力は欲しくない。なので運を天に任せる気持ちで、痛みが過ぎ去っていくのを待ち望むのだった。


 時間にしてどれくらい経ったのか、あるいは経っていないのか。


 常盤平一騎が目を開けると、まず視界に飛び込んできたのは洞窟の天井だった。色合いや質感から場所は同じだと理解できる。


「ギ、ギ」


 喉から漏れたのは言葉ではなかった。加えて聞きなれた自分の声でもない。だが確かに自身の口から発した声だと一騎は理解した。妖精が言うところの転生とやらが完了したからだろうか、飢餓と表現するのも生ぬるい空腹感に襲われる。


『いやー、さすがは召喚による皆様方ですねー。中には随分と強力な力をお持ちの方々もおられるようで、わたくし、心より皆様方の転生を祝福させていただきます。いやはやまったくもって素晴らしい』


 妖精が飛び回って誰彼構わず声をかけて回る、と一騎のすぐ近くで止まった。


『うぅ~む、まぁ、中には期待外れの方もいるようですけどー』


 未だ地面に倒れ伏したままの一騎を見下ろす妖精の瞳はゾッとするくらい冷たく、妖精の声には侮蔑の色がありありだった。


 妖精はさっさと一騎から離れていく。一騎は倒れたままで周囲を観察する。惨状とはこのことだろうか。一騎の周囲には数十の「何か」が転がっていた。巨大な犬、どす黒く輝く蛇、羽の生えている者、鋭い爪を生やし鱗に覆われている者もいる。


「っく、痛みが引いていく?」

「冗談じゃないぞまったく」

「い、一体、なにが」

「どうなってんだよ、おい」


 倒れ伏した生徒たちの中、一人の男子が起き上がった。相手が誰なのか、一騎にはわかった。クラス内カーストのトップ、矢立誠一だ。


 立ち上がった矢立誠一は驚いたことにあまり姿が変わっていない。角が生えたり額に第三の目があったりと、まったく変わっていないわけではないが、他の連中に比べればかなりマシである。


 妖精も一騎のときとは打って変わって矢立を褒めちぎった。


『これは素晴らしい! 実に実に素晴らしいですよー。まさかまさか魔人に転生される方が現れようとは、このわたくしも予想だにしませんでした。内に秘める魔力量も素晴らしい。それにこちらのお嬢様も』


 妖精が向き直った相手は霧島玲だ。矢立に送れること数秒、彼女もまた起き上がる。霧島玲は矢立よりもさらに変化が少ない。目が赤くなっている程度だ。


『まさか吸血鬼への転生を果たすとはまっこともって驚きですよー』


 矢立誠一と霧島玲が起き上がったことを合図としたのか、他のクラスメイトたちも次々と立ち上がる。立ち上がって、次に来るのは悲鳴だ。


「な、なんだこれは! 俺、犬になっているのかよ」

『いえいえ、そちらは狼の獣人ですよ。これまたかなり強力な個体ですねー』

「こっちは蛇なんだけどっ!?」

『相手を石化させる特殊能力を持つ魔物ですよ。優秀なんですから』

「鳥みたいな頭がついてる!?」

『フクロウですよー。豊富な知識を持ち魔法を操る、魔族に必要な人材ですねー』


 混乱が爆発し、妖精が冷静に対応し続ける。五分も経ることなく場に静けさが戻ろうとしたそのとき、


「ふざけるな!」


 誰かが叫んだ。牛頭の強力そうな奴だ。


「勝手に連れてきてこんな姿に変えやがって。体を元に戻せ! さっさと元の世界に戻せ! ぶっ殺すぞ!」


 声も姿も変わっているので、一騎にはこの牛頭が誰なのか見当がつかない。矢立や霧島くらい見た目に変化がなければわかるのだが、ほとんど全員の顔と名前が一致しない。


 一致しているのは感情だけ。自分たちをこんな目に遭わせた妖精への怒りだけだ。牛頭が拳を握りこむ。人間など簡単に砕いてしまいそうな拳だ。牛頭の怒りに触発されて、他の生徒たちも口々に騒ぎ始めた。


「そうだそうだ、俺たちを元に戻せ!」

「魔族だあ? ふざけてんじゃねえ!」

「そうよ、何でもいいから全部、元に戻してよ!」

「このクソチビ、殺されてえか!」


 広間を覆う怒声に罵声。それらが唐突に悲鳴に変わった。斎藤を食い殺したときと同様、妖精の右腕が巨大な口になり、何人かの生徒を食い殺したのだ。


『ダメですよー、皆様方には大切な役目があるのですから。好き勝手なことを言ってわたくしを困らせないで下さいねー。一応、皆様方の生殺与奪権限を預かってはおりますが、そんな悲しいことをさせないで下さいよー?』


 妖精はにっこりと微笑んだ、いや、微笑みの形に表情を歪ませた。


『話を進めますね。皆様方は強靭な肉体と強い魔力を持ち、何らかの能力まで授かったわけですが経験は皆無ですよねー? それでは当方としても困りますので、皆様方には実戦を通して経験を積んでもらいます』

「実戦、というのはゲームみたいに敵を倒してレベルアップする、とかそんな形なのかい?」


 口を挟んだのは魔人に転生した矢立だ。


『ふ~む、本当は説明の途中で口を挟んだ輩は殺すところなのですが、魔人への転生を果たした方を軽々しく殺すわけにはいきませんからね。特別サービスでお答えいたしましょう。でもこれが最後ですからねー?』


 念入りに忠告をする妖精。つまり魔人ではない他の誰かが発言していたら、その場で殺されていたというわけだ。妖精の恐ろしさに股間の縮む一騎だった。


 妖精が言うには、基本的に魔族や魔物の力というのは、保有する魔力量が関係している。魔力量が多ければ多いほど強力な個体になるわけだ。魔力は力の源であり、同時に魔族や魔物にとっては活動を支える源でもある。


 この世界の大気には魔素が含まれており、魔物たちはこの魔素を体内に取り込んで魔力に変換することが可能と妖精は説明するが、大気中に存在する魔素は微々たる量でしかないため、魔族や魔物を強化するほどの効果は期待できない。あくまでも最低限の生命維持をするだけでしかないのだ。


 訓練を経れば魔力量を増やすことも可能、だがもっと効率の良い方法がある。魔力を多く含有するものから奪えばいいのである。魔力は人間も持っているがこの場合はつまり、他の魔物のことだ。


『殺せば殺すほど強くなる。戦乱の世にあってもっとも相応しいと思いませんか? 思いますよねー?』


 妖精のテンションがいや増していく。


『当方が望むのは凡百の兵士などではありません。神族や人間を打ち滅ぼせる、強力な戦士を望んでいるのですから。そう、強力な戦士を、最低でもこの洞窟から生きて出られるくらいの力の持ち主でないといけませんからねー?』


 妖精が指を鳴らす。鳴らした指から広がる小さな波紋がどんどん広がっていく。どこまで広がったのか、洞窟のどこか奥で獣の鳴き声と洞窟全体を揺らす地響きがした。


「な、なんだこれは」

「待って誠一、何かがこっちに向かってきてる!」


 矢立と霧島のやり取り。短いそのやり取りだけで、尋常ではない事態が起きたのだとわかる。


『さすがは吸血鬼に転生されただけのことはありますねー。正にその通りですよ。今からこの洞窟はわたくしのペットが破壊処分にしますので、速やかに逃げないとペットに食われて死ぬか、洞窟ごと潰れて死にますよ。まぁもっとも、そちらの魔人さんと吸血鬼さん以外の皆様では今のままだと死ぬしかありませんけどねー』

「ど、どういうこ」


 発言した生徒は最後まで言い切る前に妖精の腕に食い殺された。説明の途中で口を挟めば殺す。ついさっき妖精が丁寧に教えてくれたことを、どうやら忘れていたようだ。最初から覚えていなかったかもしれないが。


『わたくしのペットもそれなりに強力な魔物なんですよ。生まれたての皆様方では対処のしようがないくらいにはねー。ではどうするのか? 簡単ですよ、皆様方が強くなればいいのですよー』


 簡単に言ってくれる。一騎は心の中で毒づいた。転生した自分たちが強くなるには魔力を多く内包した固体になることだ。そのためには地道に訓練をするか、魔力を多く含むものから奪う、つまりは殺さなければならない。魔力を持つものは人間や魔物。しかしこの場にはもはや人間はいない。


 要するに妖精の言わんとすることはこうだ。


 生き残りたければ殺し合え。クラスメイトや友人であった者どうしで殺し合い、魔力を奪い合えと。妖精の真意に気付いた生徒たちもいるが、さすがに殺し合えと言われてすぐに実行できるはずもない。肉体が変化したとはいえ元々が人間だ。


『う~ん、さすがにいきなりでは踏ん切りもつきませんかねー。ではでは、わたくしから指名させてもらいましょうか。わたくしから見て、生きていても皆様方の足を引っ張るだけの存在、たとえばそちらのゴブリンを殺すとかいかがですかー?』


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