第六章:八話 あっさりと黒幕露見
長らく更新が滞りまして、すみませんでした。
バタバタも少し落ち着きましたので、ちょっとずつ投稿していけたらと思います。
今後もよろしくお願いします。
名前と実力が広がって抑止力になるのならよかったのに。宗兵衛の淡いというか自分勝手な期待は明後日の方向に飛び去り、後ろ姿も見えなかった。
「はぁ、仕方ありませんね。気分転換の散歩も兼ねて出掛けるとしますか」
宗兵衛本人は別に救援要請を受けるとは決めていないが、話を聞きに行くと決めた時点でほとんど結論は出ているのと同じだ。
少なくとも集落の大半はそう考えていて、まずは話を聞くだけなどと口にするのは宗兵衛くらいのものである。
立ち上がろうとして、頭部だけであることを思い出した宗兵衛は床に転がり落ちる。
卓越した魔力操作により床に落ちるまでの秒にも満たぬ間に骨体を形成、骨体の足が木製の床に着く――――
――――前にアーニャの斬撃により再び頭部だけの状態になって、アーニャの腕の中に納まっていた。
「ホワッツ!?」
「……なにか問題でも?」
一体どんな斬撃だったのか、宗兵衛が作った骨体は塵になってサラサラと室内に舞っていた。
「いえ……それでは、行きましょうか」
宗兵衛にはもちろん同行者がいた。メンバーは固定だ。宗兵衛を抱く『剣鬼』アーニャ、宗兵衛の頭の上にラビニア、そして教皇ルージュである。
問題解決イコール殲滅。
そんな物騒な構図が脳裏に浮かんだ宗兵衛は、固有スキル――魔物のスキルではなく日本人特有の――「曖昧な笑顔」を骨の顔に浮かべて、この場を流すことにした。
宗兵衛たちが集落を出たのは昼前だったが、そこはさすがに魔の森、歩くのに適した道などあるはずもない。
武道の心得はあっても達人の域には遥か遠いルージュは、早々と歩くことに苦情を並べ、宗兵衛はルージュを抱いて移動することになった。
アーニャの腕の中を出て骨体を作るわけで、自分の足で歩ける感動を噛みしめるアンデッドである。
「ふふん」
「むぅ」
高い位置からルージュの得意気な顔を向けられたアーニャもまた、頬を膨らませ抱っこを要求してきたため、断れるはずもない宗兵衛は右にルージュを、左にアーニャを抱き抱える形になる。もちろん頭の上にはラビニアだ。
素直に両手に花と受け止めるべきか、いつでも己を滅ぼせる相手と密着していることに恐怖すべきか、判断に迷った宗兵衛は考えることを止めた。
嫉妬仮面がいれば、間違いなく狂戦士化して襲いかかってくるだろう。いや、あいつらは基本的に狂化していたな、と考え直した。
両手の塞がった宗兵衛は木々をかき分けるために新たに骨腕を四本生やし、森を進んでいく。レッドゴブリンの巣に着いたときには既に太陽の力はかなり弱くなっていた。
自然豊かな緑の多い土地、嘘偽りなく言うなら、自然しかない土地だ。
レッドゴブリンの巣は洞窟に見張りが立っている程度のものだった。ゲーム視点なら完全に初心者向けダンジョンといった風情である。
「ゴブリンだから小汚いのは我慢するとして、せっかく教皇が来たのに出迎えもないのかしら」
ルージュは宗兵衛の腕の中で少しだけ眉根を寄せる。
来たのではなく僕が抱き運んだだけです、とか、そもそも教皇聖下は呼ばれていないです、などという異論反論は心の表層に浮かび上がる前に押し潰した宗兵衛である。
「とりあえず、見張りのゴブリンに話を聞いてみましょうか」という宗兵衛の目論見は裏切られた。森の奥から姿を現したスケルトン(とスケルトンに抱えられた美少女二人)を見た見張りは、大慌てで洞窟に走っていったのだ。
「……逃げられた?」
「いえ、洞窟内の仲間を呼びに行っただけでしょう」
「荒事になるのかしら?」
『だとしたら面倒ですねー』
ラビニアの言葉は全員の総意だ。なんだって助けを求めに来た相手と戦いにならなければならないのか。
『ギギィ、これはこれは盟主様、ようこそいらっしゃいました!』
『ギギ、お待ちしておりました!』
洞窟の奥から走り現れたのは、シワの多い年老いたゴブリンと、木製の弓矢を背負った若いゴブリンである。
「ええー」
「ソウベエ?」「……ソウベエ?」『ソウベエさん?』《主?》
雰囲気からして荒事にはならなさそうでる。しかし宗兵衛の目と意識を奪ったのはゴブリンたちではなく、ゴブリンが手に持つ布切れのほうであった。
熱烈歓迎! 盟主様!
と書かれている。
「……ソウベエ、あの布は何ですか?」
「なにか文字が書いてるわね」
「そうですね」
宗兵衛はゴブリンの背後に転生者か転移者がいることを看破した。なぜなら布切れに書かれた文字は、呆れたことに、日本語だったからだ。
出迎えてきたゴブリンたちからは「仕事の合間に時間を縫って無理にツアーコンダクターの仕事をしている」感が漂っている。
「はぁ……出迎え、ありがとうございます」
『ギギ、お越しいただきありがとうございます。盟主様が起こしになられることを一日千秋の思いでお待ちしておりました』
よくそんな言葉を知っていますね、というツッコミを宗兵衛は喉の奥で留めておく。裏で糸を引いているものが何者なのか、推理力がなくともわかってしまう。
『ギギギ、それにしても人間の女を二人も連れてくるとは、さすがに盟主様ともなると、素晴らしいご趣味をしておいでですね。いやぁ、わたくしめも是非にご相伴に預かりたいものです』
若者ゴブリンも腰を低くして揉み手までしてくる始末。どうやらルージュとアーニャを性的な対象として捉えたようで、表情は極めて下卑たもので、口の端から涎まで流れている。
少なくともこの若者ゴブリンの末路は決定的だ。破滅の文字がよく似合うに違いない。
「ふーん」
「……へぇ」
(ひぃぃぃいいいっ!?)
抱き抱える腕を通じて、聖属性の魔力を受け止める宗兵衛の骨体にあちこちにひびが走ったことはこの際、どうでもいい。
『ソウベエさん、顔が真っ白ですよー?』
「骨は元々白いのです。いいですか、彼女たちは僕にとってもかけがえのないとても大事な存在です。決して無礼非礼失礼のないように。もしなにかあれば、一切の容赦をかけませんよ」
『ひ、さ、さすがは盟主様、森の隅々にまで名が轟いているだけのことはございますな。まっこと、蘊蓄のある言葉です』
「蘊蓄? もしかして含蓄のことですか?」
『ギギ、そうそう、それでございます。いやあ、さすが盟主様は言葉にもお詳しいですな!』
「ねえ、ソウベエ? このゴブリンたち、貴方のことをこれっぽっちも尊敬してないんじゃないかしら?」
「思惑も含めて透けて見えそうですよ。それはともかく、まずは話を聞かせてもらいましょうか」
『ギギ、わかりました、こちらでどうぞ』
年寄りゴブリンはニコニコと頷き、宗兵衛たちを洞窟の中へと案内する。
洞窟自体は特別な仕掛けもなく、構造も複雑ではない。基本的に一本道で、横穴に入る道が一本あるだけだ。その横穴に宗兵衛は驚いた。ゴブリンが剣を研いでいるのだ。
「ゴブリンが武器の手入れですか」
『基本的に奪うことしかしない種族のゴブリンがすることじゃないですよねー』
《明らかに誰かに知恵を与えられています》
『ギギ、我らは群れとしての数は少ないですが、このように他のゴブリンにはない技術を持っておることが強みにございます』
「その技術がありながら、助けを求める理由があるのですか?」
『ギギ、その通りでございます。だからこそ盟主様に来ていただいたことは誠にありがたく感じております』
「聞きましょう」
『ギギ、ありがとうございます。奥でお話しさせていただきます』
洞窟の奥は恐らく、群れのリーダーが使う部屋なのだろう、さっきの作業所よりも僅かに広く、洞窟の上には、歓迎の垂れ幕がかかっている。
もちろん日本語で。
友好の意思を示して敵意がないとアピールしたいのだろうが、むしろ警戒を高めるだけだ。しかも友好的なのは文字だけときている。




