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第一章:十六話 共闘開始

       ◇         ◇          ◇


 狙い通りのポイントに投げることができ、自分のコントロールに宗兵衛は頷く。


 しかし問題はここからだ。常盤平が観察と分析に専念し、宗兵衛はその材料を提供する。噛み砕くと、最前線で妖精ペットとドンパチすることが宗兵衛の役割だ。


 下手をすると自分自身が噛み砕かれるのではないかと危惧する宗兵衛は、この事態にも余裕があるのかもしれない。


「         」


 妖精ペットの咆哮が響く。


「……ふと思ったのですけど、妖精ペットが洞窟を破壊し終わるまで隠れ続けて、壊し終わってから土砂と瓦礫の中から這いずり出たほうが生存確率が高いのではありませんか」

《その場合、常盤平一騎の死亡確率が著しく上昇しますが》

「そんな些末な問題はさておいて」


 常盤平の耳に入れば反発必至のセリフをさらりと並べて、宗兵衛は揺らめく眼窩をもう一つのグループに向けた。宗兵衛たちよりも先に、広間にたどり着いていた首なし騎士らだ。彼らも妖精ペットの出現と迫力に気圧されている。


「協力を得られるのなら、それに越したことはないですからね」


 宗兵衛が右足を首なし騎士らに向けると、首なし騎士と単眼巨人が明らかに敵意の混じった警戒態勢を取る。宗兵衛を、というよりも転生者を警戒しているような態度だ。


 やむを得ず、宗兵衛は距離を開けたまま、首なし騎士らに呼び掛ける。


「今から時間稼ぎをします。皆さんも協力をお願いできませんか」


 自己紹介や理由もすっ飛ばして用件だけ告げるこの方法で、


「あぁ?」


 協力など得られるはずがない。当然のように首なし騎士らは了承の返事をせず、戸惑って宗兵衛と妖精ペットを繰り返し交互に睨み付けるだけだ。


 宗兵衛は溜息をつく。いや、スケルトンなのだから息のしようがないのだが、とにかく仕草だけは溜息の形になっていた。


「……協力は無理そうですね。単独で動きます」


 宗兵衛は首なし騎士らを意識から切り離す。


「まずは遠距離から。『導き手』は僕のサポートと、ついでに常盤平と接続して分析を補助してやって下さい。必要ならこの場の全員との一時的な接続も構いません」

《了承。魔力操作の最適化完了済み。魔力循環量を二割増量します。魔力循環速度を一割三分上昇、骨強度及び硬度を強化。周囲の魔素吸収量を三割増加します》


 宗兵衛は『導き手』のサポートを得て自身の骨体に力がみなぎるのを感じる。


「         」


 ペットが空気を吐き出す。獰猛な両目は宗兵衛を見据えていた。敵として認識されたのか、宗兵衛は早々に逃げ出したくなる。


 ペットが前足を振り回す。轟音を上げて広間の床が砕け、衝撃が四方を破壊する。「ひええ」と情けない声を上げながら宗兵衛は瓦礫の隙間から腕を振るった。指の第一関節が弾丸となってペットに命中する。魔力により鉄を上回る硬度となった骨が時速百五十キロで着弾しても、ペットには効果が認められない。


「なんの効果もないですね。なら」


 ぼやく宗兵衛。宗兵衛の指関節は一瞬で再生を果たしている。


 指第一関節の形状がナイフのように鋭く長くなる。時速三百キロで投擲される、鉄より硬いナイフ。次は螺子のようにらせん状になった骨の杭、更に次はより薄く作成したナイフ、いずれも妖精ペットに命中はしても今一つ効果がない。


 妖精ペットが煩わしげに吠える。ちまちまとした遠距離攻撃が不愉快だったのか、手当たり次第に地面を砕き、砲弾と化した瓦礫を撒き散らす。逃げ場を探して動きを止めてしまう宗兵衛目掛けて妖精ペットが突進する。


 防御する間もなかった宗兵衛と妖精ペットの激突は、宗兵衛の一方的な敗北に終わった。金属どうしがぶつかるよりも破滅的な音を響かせて宗兵衛は吹き飛んだ。激突した壁面が大きく陥没する。


 壁面にめり込んだまま動けない宗兵衛に妖精ペットの追撃が迫る。渾身の力が込められ、固く握りしめられた、岩塊よりも巨大な拳だ。妖精ペットには宗兵衛が交差した骨の腕の防御など見えてもいないのか、二撃、三撃、四撃と拳を雨と浴びせる。




 妖精ペットの猛撃とそれに晒される宗兵衛に、離れた位置にいた首なし騎士らは動揺する。


「おいおいおい! あの骨の奴、やられちまうぞ!?」

「どうするの? 助けるの? 協力するの?」

「でも田所みたいに後ろから襲ってきたりされたら」

「落ち着け!」


 首なし騎士が大剣を地面に突き立てた。


「そんな話は後だ! 今はあの骨と協力してデカブツを始末するときだ!」


 堂々とした宣言だが、他の転生者は戸惑いを隠せない。


 骨が裏切ったらどうするのか。敵と戦っている最中に後ろから攻撃されるような事態になったらどうするのか。仲間たちの懸念を首なし騎士は、胸を勢い良く叩いて吹き飛ばした。


「大丈夫だ! 向こうから協力を申し出てきたんだ。単独であのデカブツを倒せないとわかっているんだろう。万が一に備えて、一人は積極的に戦闘に参加せずに骨の動きを見張れ! まずはこの場を生きて切り抜けることだけを考えろ!」


 首なし騎士は発破をかけると、役割分担も決めずに妖精ペットに突っ込んでいった。


「あいつ、考えなしに突っ込んでいきやがった!?」

「一人だけ行かせるわけにもいかない。こっちも続く。フォーメーションは任せるぞ、参謀!」

「誰が参謀だ!?」




 削岩機よりも容易に岩を砕き、崩落よりも大量の岩石や土砂を撒き散らす。四足歩行だった妖精ペットはいまや後ろ足だけで立ち上がり、前足は宗兵衛を殴り殺すためだけに振るわれている。


「どぅおぉりゃぁぁああっ!」


 妖精ペットの横っ面に大剣が叩き込まれた。首なし騎士の一撃だ。


「おい骨っ、協力してやるから感謝しろぅぉほぉぅっ!?」


 首なし騎士は妖精ペットの反撃の頭突きで弾かれる。地面と抱き合う寸前に六本足の馬に助けられ、「慎重にしろ」「うるさい」だのと言い争いを始め、単眼巨人に窘められることで終わった。


「……正直、助かりましたね」


 ぼこ、と音を立ててめり込んでいた壁から脱出する宗兵衛。あちこちにヒビの入っている骨体が瞬く間に修復される。骨硬度と強度を強化していても損傷を免れることができなかったのだから、妖精ペットの攻撃力は尋常ではない。妖精ペットの突撃で砕けない骨というのも尋常ではないのだが。


「おい!」


 宗兵衛が声の方向に首を向けると、首なし騎士が大剣の切っ先を向けていた。


「骨、仕方ねえから協力してやる。作戦があるんだろうな?」

「作戦名、肉の壁、を実行します」

「協力っつってんだろおぉぉ!? こんな堂々と捨て石にしますって宣言する奴、初めて見たわ!?」

「ですから、これが協力なのですよ」


 妖精ペット攻略戦について宗兵衛が説明する。


 まず必要なのは壁役だ。前衛を置いて敵の動きを押さえている間に、他の攻撃役が多様な攻撃を加えて妖精ペットを分析する材料を集める。


 前衛、攻撃役、後方支援役の三つの役割分担が理想的なのだが、スケルトン、首なし騎士、動く鎧、六本足の馬、単眼巨人、ハーピーと誰も彼も後方支援に向いていない。辛うじて空中戦のできるハーピーが後方に就くにしても、回復役にはならない。


「一番防御の堅そうな首なしが前衛、で僕たちが攻撃役で」

「ちょっと待て。骨呼ばわりしておきながらなんだが、首なしなんて嫌な呼び方をするな。荒巻周平って名前がある」

「すみませんが僕は他人の顔と名前を覚えるのは苦手でして。ついでに他人に顔と名前を覚えられるのも苦手という特技を持っています」

「その物言い……わかった、わかったぞ、お前の正体! 小暮坂だろ、お前!」

「おや? 僕をご存じで?」

「荒巻周平だよ! 同じクラスの! 隣の席の!」

「で、僕たちが攻撃役、そっちの女子は遠距離からの支援をお願いします」


 宗兵衛は荒巻を大胆に無視して、大雑把な役割分担を決める。


 一つの目的に向かって長期間の調整をしてきたチームではない。人間だった頃から気心が知れているわけでもない。互いの能力を把握できているわけでもない。即興のチームではこの程度が限界だった。


 動く鎧の提案で、首なし騎士が六本足馬に騎乗して前衛を務めることになり、他は妖精ペットの大規模攻撃での被害を押さえるためにバラバラに陣取る。


 首なし騎士が馬上で剣を構えるのを確認して、宗兵衛は右掌から骨杖を出現させて掴み取り、左手を高く真っすぐに上げた。


 場の緊張感が高まる。


 打ち合わせもない戦闘。


 情報の蓄積も経験もない中では勝率もわからない。


 けれど行動に移さなければならないのだから、動くしかない。


 宗兵衛が左手を振り下ろす。仕切りなおした戦闘開始の合図であり、振り下ろした左手指先から骨弾を発射する先制攻撃だ。


 合計六人の急造パーティが鬨の声を上げた。


       ◇         ◇          ◇


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