表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/210

第五章:十三話 雑魚魔物は試験に臨む

 試験開始が迫る。


 人間時代もそうだったが、この試験開始前の雰囲気が一騎にはどうしても好きになれなかった。それまで騒がしかった教室が一瞬ごとに静かになっていき、不安と緊張が綯い交ぜになって集中力を高めていく。集中を強制されている気がなによりも嫌だった。成績が悪いからテストの雰囲気が嫌いなんだろ、と問われれば、間違いなくその通りである。


 魔法士試験は候補生どうしの戦闘も想定した、実戦形式の試験であるため、スタートにしても競技のように横一列に並ぶようなことはない。各々が思い思いの場所、自分たちの能力を有効に生かせる場所で立つ。カインは仲間たちと一緒に少し高い場所に陣取っている。風魔法でスタートダッシュをするためだ。


 魔法士試験は個人で受けることもチームで受けることもできる。学院側から指定されているわけではないが、効率的に合格を目指し、また魔法士は隊を組んで動くとこが求められるため、普段からチームを組んでいることが大半なのだ。


 チームの人数には多少の差はあれど、概ね三人から五人でチームが組まれることが多い。有力貴族になると十人近くの大所帯になることもあるし、もっとひどいケースでは、複数のチームが有力貴族を合格させるために連合を組むことだってある。


 ここにおいても数少ない例外に入るのが一騎である。貴族でもない亜人の、それも中途入学者の一騎と組んでくれるような生徒はいない。学院においても既にして人間関係がほとんどできあがっていたのだから、新参者が割り込める余地などあるはずがなかった。


 それでも一騎がなにかと注目され、ときに強く警戒される理由がエストだ。魔法士試験は基本的に自分の力でクリアすることが求められるが、自分の力の中には契約精霊も含まれる。つまり、一騎とエストの間に契約がある以上、今回の試験には大精霊が介入するということだ。チーム一騎。参加生徒は一騎だけで、他には大精霊と妖精が一体ずつ。学院史上初となる、稀有なチーム構成である。


「それじゃイッキ、一発合格、一位を目指しましょう」


 ふわり、と試験会場にエストが降り立つ。それだけで会場中がざわつき、ゴブリンに話しかけると混乱と戸惑いを伴ったざわめきは更に大きくなる。シャトレーや天馬のときよりも大きい。感激の涙を流して跪いている観客もいるが、彼らは敬虔な真正聖教会の信者なのだろう。


「いやあの、合格は目指すけど、一位とかは別に」


 目指さなくてもいいんじゃないかなあ、とは続けられなかった。


「なに言ってんの、イッキ! あんな貴族連中には目にもの見せてやらないと。二度と刃向おうなんて気を起こさせないように徹底的に! 完膚なきまでに!」


 試験にかける意気込みでは、エストは一騎を遥かに上回る。厳密には、試験そのものではなく、試験を通じて一騎をバカにした連中を叩き潰す気が満々なのだ。


「ね、イッキ?」

「おぅ」


 一騎は自分の気概も叩き潰されそうな気がした。


「ふん、結局は大精霊様頼りか」

「なんで話しかけてくるかな」


 もういい加減にしてほしい。話しかけてきたカインに対して一騎が抱いた感想である。


 カインへの敵意や嫌悪感を抱いたままの一騎だが、エストとクレアの機嫌のほうが重要だ。元から人間にいい印象を持っていないエストは、カインの一騎への態度に触れて、より拍車がかかっている。更に弟の天馬の出現もあって、相対的に一騎の内側でカインの地位は低下していた。


「なんだと!」

「あー、もう、話しかけてくんなよ! こっちも忙しいんだから!」

「このっ」

『いい加減にしなさい、二人とも』


 懐からの宗兵衛の声には、強い呆れと、呆れ以上の霜が降りていた。通信玉越しに凍結系魔法でも使ったのではないかと思うほど、二人の背筋が冷たくなる。


『せっかくの試験でしょう。衝突するなとは言いませんが、するならするで、試験中にしなさい』

「く、しかし大司教様」


 繰り返すが宗兵衛は大司教などではない。生前は死んだ目をして、死んだ今では空虚な目をしているアンデッドだ。ついでに教皇聖下の聖騎士候補でもあるという、ちょっと意味のわからない奴である。


『試験の様子は市内全域に放映される。そこで君が勝利したなら、最高の意趣返しになるでしょう』

「む」


 押し黙るカイン。もっとも効果的な場面を想像していることは容易に知れる。だが今日、一騎と決着をつけるのはカインの役目ではない。そのことを思い出したのか、カインは腕組みをして一騎から目を逸らした。貴族というのは本当に面倒くさい、と一騎は思う。


「見に来てくれる人がいるだけで十分じゃねえかよ」

『美人の異性が一緒に参加してくれるほうがいいに決まっていると思いますが?』

「やめろ! 証拠もないのに自分勝手な妄想だけで凶器を持って迫ってくる狂人共と同じ街にいるんだぞ俺は!?」


 証拠もなにも、厳然とした事実である。嫉妬団の法典を紐解くなら、死刑執行には十分すぎる証拠と言えよう。女の子から笑いかけられただけでリンチの対象にするような法典なのだから。


『近くにはいないのですか?』

「そういや、最近は見てないな」


 いるだけで一騎の命を狙ってくる嫉妬仮面の二人は、確かに旅路に同行していた。ただコンディート市が近くなったところで、姿を消したのだ。今頃はどこでなにをしているのだろうか。どこにいてもロクなことをしていないとの確信がある。恐らく市内にはいるだろうが。


『彼らがなにか問題を起こしたときは、当方とは縁も所縁もないと赤の他人であることを強調するように』

「あいつらが積極的に俺らを引きずり込もうとすると思うんだが?」

『常盤平が巻き込まれるだけなら、遺憾ではありますが甘受しましょう』

「声に遺憾さが感じられない!?」


 この広い会場で一騎の応援をしているのは、エストとクレアの二人だけだ。店長のラッカは応援してくれてはいても、試験期間中は書き入れ時ということもあって、店の外に出ることすら容易ではない。


 応援の気持ちだけでもありがたいので、正式に魔法士になったら、給料で土産でも買っておこうか、と考え、帝国魔法士の給料体系を聞いて愕然したことを思い出す。


 魔法士の給料は確かに厚遇されてはいる。全ての魔法士に適用されていないだけで。


 魔法士はランク分けされていて、最上級のA級から、下はF級までの六段階になる。この内、一般的に魔法士と呼ばれ厚遇を受けるのはD級以上からで、E級とF級は従魔法士に分けられる。ようするに見習いだ。


 見習いに支給されるのは、月一回に支給される出撃準備金だけ。金額は平均的コンディート市民の月給のおよそ三割程度だという。下積みの苦労と経験は立派な魔法士になるために必要らしい。よほどの成績優秀者か、あるいは四大公爵家出身なら、最初からD級のケースもあると聞いて、貴族ってずるい、と憤慨した。


 一騎の脳内では魔法士になり次第、高給取りになり、魔物の国と帝国との懸け橋になって、もしかすると帝国史に残るかもしれない、までの栄光の道を思い描いていたことは秘密だ。


『生徒諸君、準備はよろしいか』


 スクリーン越しに学院長メラの声が響く。緊張が満ち、会場を埋め尽くしていた歓声も波が引くように静かになる。一騎は鼓動が早まるのは自覚した。近くを見ると、カインも緊張した面持ちで、自分と同じなのだな、と一騎は妙な安心を覚える。


 演壇の学院長メラが右拳を掲げる。拳に少しずつ光が集まり、輝く球状となる。ややあって光が空に打ち放たれ、さながら花火の如く弾け散った。


 スタートの合図だ。生徒たちが一斉に走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ