第五章:十一話 そして帝国到着後
申し訳ございませんでした。
本当に久しぶりの投稿になります。
週一程度のペースで投稿していきたいと思っておりますので、
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こうして一騎たちはフリードの案内で帝国へと向かったのである。
宗兵衛からは、コネクション形成のために帝国上層部に売り込んでくるよう言われた一騎だが、さすがにそこまでうまくいくとは思っていない。
これが真っ当で平凡な異世界転生なら、ごく当然のように一騎はチート持ちとなり、物事が成功を収めることを確信しただろう。しかし一騎がこの世界で学んだこととは、「とかくこの世はままならぬ」という古臭い表現そのものである。
成功体験も失敗体験も持ち、元の世界では味わうことのなかった絶望や悲しみさえ味わった。世界は厳しいものであり、わけてもゴブリンにはもっとも厳しくあるだろう。
一騎の想定では、帝国内に居住する亜人と交流をもって、集落の特産物を扱う窓口を作るあたりが落としどころとしていた。レアな魔石といえど、正体不明の亜人(本当は魔物)が持ち込んだものとなると、地元の商業ギルドを通じて流通させるのが精一杯かな、と考えていたのである。
帝国上層部と接点を作り、魔石ビジネスを展開するなんてのは、幸運の上にも幸運が重なったときにする、程度の考えであったことは秘密だ。
「それがどうして魔法士学院なんかに通う羽目になったのか……」
今でも一騎は考える。理由、というより原因もまた特産品だ。取引の切り札として持ってきた水属性の魔石である。
当初、持ち込んだ魔石はフリードの紹介で専門の業者に見せることになり、見せた先の店主が腰を抜かさんばかりに驚いたのだ。一騎が確認する限り、店主の顎は確実に外れていた。それだけ、集落産の魔石の質が規格外だったのである。
魔石の質の高さに驚き、店と繋がっている貴族に話が行ったことから事態が急激・急速に動き出した。
通された先のデッケン侯爵は、帝都の各商会に太いパイプを持つことで有名らしく、魔石への造詣も深い。そこで一騎がしたこと、それが水の魔石の披露であった。
宗兵衛から言われていたことでもあったことから、有力者に水の魔石を見せることに踏み切った一騎だったが、その場に大精霊エストまでもが同席したことで、今度は別の方向に、話が大きくなったのだ。
遂には国政の中心にまで話が届いてしまい、一騎たちをどう取り込むかという話し合いが数日に亘って行われたらしい。
帝国政府が独占的に魔石を取り扱うことと引き換えに、亜人としては異例の爵位を授ける案まで出たのだが、叙爵の話は一騎が固辞した。貴族なんてのは柄ではないし、集落の長という立場を考えると爵位に伴って発生するだろう義務の履行なんてできるはずもない。
どうするかをエストや宗兵衛たちに相談すると、「いっそ学校に行ってしまえばいいのでは」との意見が出る。出したのは宗兵衛だ。
魔石と大精霊の二つのカードがある以上、目端の効く大人たちは放っておいても寄ってくるのだから、だったら次代を担う少年少女たちともコネクションを作ることが有効なのではないか。
上質でめったに出現しない水の魔石、大精霊の存在、教皇と『剣鬼』の紋章。これらから一騎の要望は容易に通り、どころか帝国内最高学府へと入学することになったのである。
「嫌だぁぁぁぁぁあああぁぁっ!」
もちろん一騎は嫌がった。なんだって異世界転生してまで学校に通わなければならないのか。
確かに転生先が貴族であったり、伝説の武器やらスキルを生まれ持つチート持ちであったりするなら、新たな学生生活を主人公気分で思う存分満喫できただろう。これこそまさに一騎が夢見た異世界生活であり転生ものであり、いい気分になれることは間違いない。
だが一騎はゴブリンだ。加えて種族をホブゴブリンと偽っている。名門の子女が集まる場所に行けばどうなるか、火を見るよりも明らかだろう。
しかも、貴重な魔石供給源である事実は隠蔽することになった。守秘義務や責任の生じる政治家たちが相手ならばまだしも、義務や責任という言葉を知っているだけで体現できるかどうか疑わしい学生に知られることは、一騎の立場上、どうしても避けたかったのだ。
一騎について行くことを公言する大精霊エストを止めることは、物理的にほぼ不可能。
教皇と『剣鬼』の後ろ盾を隠すのも、下手をすれば教会に対して「やましいところがあるのではないか」と勘繰られてしまうかもしれないので、これも隠すことは難しい。
ならばせめて、と魔石についてだけでも伏せておこうという結論に至ったのだった。亜人が希少性の高い魔石供給源であることが広まると、誘拐沙汰のようなトラブルに巻き込まれるに決まっている。トラブルを起こすのは、大精霊が亜人と契約していることをよく思わない連中や、反教会勢力だ。
未然に揉め事の種を減らしておこうというのは、異世界転生からこっち、すっかりトラブルクリエイター――決してトラブルメーカーではない――になってしまっている一騎の学習の成果だった。
結果は見ての通り、衝突しない日はないという有様だ。差別対象である亜人でありながら、大精霊と契約している事実。教会教義に疎いにもかかわらず、教皇と『剣鬼』の後ろ盾を得ているというアンバランスさ。
疑惑と不審と嫉妬と差別感情と貴族としての特権意識が妙な具合に化学結合し、一騎への攻撃性に変化したのだった。
ただまあ、攻撃されることに一騎は慣れている。人間時代から数えてイジメの対象になったこともあり、古木のような連中からの暴力に晒されたこともある身だ。学校なんて場所には、イジメや迫害や暴力や攻撃は付き物だと理解している。悲しいにも程がある理解度と言えよう。
試験会場への移動は馬車で行われる。亜人の一騎にも馬車は用意されていて、さすがに差別や嫌がらせで、用意されていない、なんてことはなかった。
馬車には当然のこと窓があり、窓から流れる風景はなにかのテレビ番組でも紹介されそうだ。余裕のある生徒たちの中には、のんびりと車窓からの景色を楽しんでいることだろう。あまり余裕がないものは対策を立てようと躍起になっているか、神頼みでもしているかもしれない。
では一騎たちはというと、集落で作られたTCGに勤しんでいた。今はエストとクレアが対戦しており、うるさいことこの上ない。
作られてから時間が経っていないこともあって、カードによってはゲームバランスを滅茶苦茶にしてしまう。特に『剣鬼』アーニャ・アウグストのカードは壊れ性能で、場に出すとそれだけで決着がつくほどだ。相手カードの攻撃力や特殊能力を無視して破壊したり、フィールドカードや魔法カードの効果も打ち消したりと、まさに無双状態である。
開発過程でアーニャからの要求を断り切れなかった宗兵衛と嫉妬仮面たちが全面的に悪い。監修を担った一騎の責任も、ほんのちょっぴり程度はあるかもしれない。あまりにも性能がおかしいので、アーニャのカードは外されている。
『もう! このゴブリンのカード、全然、使えない!』
グサッ! 言葉の刃が一騎の心の柔らかい部分を抉った。
「雑魚ゴブリンを三枚生贄にして、森の巨人を召喚!」
グササッ! 言葉のチェーンソーが一騎の心を切り裂いた。
『伏せカードをオープン! カバーリング! このカードは相手の攻撃を、指定したカードに身代わりにさせることができる。この役に立たないゴブリンでも盾代わりにはなるわ!』
グサッグサッグサッ! 一騎の心は既にめった刺しだ。
一騎自身もカード化されていて、通常時は星一つの最弱カードであるが、条件を揃えるとより強い個体に進化するという特殊能力を持っている。進化先も複数あって、使いこなすことができるとかなり強力なのだが、条件がシビアなので初心者向けではない。
それにしても賑やかな車内だ。
エストはともかく、魔法も使えない雑魚魔物である一騎にとって、この試験への参加には緊張がある。それでなくとも、人間時代から試験と名のつくものには強い忌避感を抱いている身だ。ついでに運動会とか体育祭とかも苦手で、なんなら文化祭や修学旅行だって苦手な部類に入る。何のために通っていたのやら。
人と書いて飲み込むと緊張がほぐれるというお呪いはあるが、他になにかないだろうか。よせばいいのに、宗兵衛に聞いてしまう一騎である。
だって仕方ないじゃないか。エストは一騎よりもはるかに強力な大精霊だし、クレアも魔法適性では一騎を凌ぐ上に、試験に伴う緊張など知るはずもない。相談相手としては明らかに不適当だ。嫉妬仮面たちとは連絡がつかず、魔法士学院の他の生徒たちは当てにできない。
消去法で相談相手は宗兵衛しか残らない事実に、知らず一騎の目頭が熱くなった。
『守護霊でも派遣しましょうか?』
「お前、一体何者だよ! 守護霊って派遣できるものなの!?」
『魔の森には成仏できずにさ迷っている魂も多いもので、適当な役割を与えてあげようかな、と』
「地縛霊って守護霊になるの!? 先祖とか俺に縁のある人しか守護霊になれないんじゃないのかよ!」
『大丈夫ですよ。地縛霊は地縛霊でも確かに君との縁を持っています。僕たちが召喚された洞窟の近くでさ迷っていた人狼の霊を見つけましたから』
「そいつはどう考えても俺を守らないよね!?」
むしろ一騎にとり憑いて呪い殺してきそうだ。一騎が逃げようものなら、血みどろで唸り声を上げながら追ってくること確定である。
スケルトンもゴーストもいる世界だ。地縛霊がいても不思議ではないし、不死の魔法使いとして成長している宗兵衛なら、本当に地縛霊を送り込んできそうでもある。
念のため、魔石を売った金で塩を大量に買い込んでおこう、と心に決めた一騎であった。
思い出しながら書くというものが、
ここまで徒労感のあるものだとは思いもしませんでした。




