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第五章:七話 果たして集落でなにがあったのか

本年もよろしくお願いいたします。


と言いたかったのですが、年末の大掃除で

USBメモリを紛失してしまいました。

ログイン内に残っている数話を投稿後は

思い出しながら書くことになりますので

投稿ペースがかなり遅くなると思います。

申し訳ありません。

 心やさし ラララ ヤマトの子

 0.01馬力だ 鉄腕ゴブリン


「宗兵衛えええぇぇぇぇええっ! なにしてくれとんじゃお前ぇぇぇえええっ!」

「君が、国歌みたいなのが欲しいな~、とか戯言を口にするから作ったのですが?」

「戯言扱い!? いくらなんでもインスパイアし過ぎだろがっ!」

「リスペクトの結果です」

「なんでもリスペクトってつければ通ると思うなよ! てか0.01馬力ってなんじゃそらぁっ! いくらゴブリンでももうちょっと力があるだろう!?」

「ゴブリン風情がなにを口走っているのやら」

「風情とな!?」


 馬力の詳しい定義はさておいて、瞬間的になら人間でも一馬力程度の力を出すことは可能とされている。持続的というのなら、0.1~0.2馬力程度が人間に出せる精々だ。


 人間の子供と同程度かそれ以下の力しかない一般的なゴブリンとなると、0.01馬力は妥当なところではないだろうか。


「シクシクシク」

「もちろん、僕からのささやかな善意も込められておりますが」

「善意って言葉の意味知ってる!? お前、国語の点数は良かったはずだろ!」


 文系に限ると、宗兵衛の成績は学年でもトップクラスだった。どの科目も芳しくない一騎とは雲泥の差だ。


 相も変わらず、バカ騒ぎにうるさい場所である。これで集落のトップツーというのだから、あるいは平和なのかもしれない。


『イッキ様、不審な人間を拘束しました』


 その日、どことなく弛緩した空気の漂う一騎たちのもとにそんな報告がもたらされたのは、一騎たちがゴブリンロードとの戦いを制してから一週間後、まだまだ後始末に追われている最中のことだった。


 エストとクレアが競い合うようにして作る昼食の後の軽い昼食の準備の真っ最中であり、一騎は訓練を兼ねた運動で宗兵衛と向き合っているタイミングだ。


 ノーと言えないゴブリンの一騎は正直、少しでも体重増加の角度が緩やかになることを願って行う訓練&運動を、中断させるのがちょっぴり心残りである。


「不審な人間、ね。集落の近くにいたのか?」

『ギ。いえ、集落からは離れています。ちょうど落鳳林道の近くになります』

「ほう! 落鳳林道か!」

『ギギ、落鳳林道です』


 ビュッ ← 一騎が骨刀を振り下ろす音。

 ハッシ ← 宗兵衛が白刃取りを成功させた音。

 ギリギリギリ ← 一騎と宗兵衛が睨み合っています。


「話を聞かせてもらおうかコラ」

「少し落ち着きなさい。これには聞くも涙、語るに落ちる深い事情があってですね」

「落ちてどうすんだこらぁっ!?」

「いえ、鳳雛というネタも使いましたし、落鳳坡のネタも使いましたから、君の軍師無双の傷を抉るにはもうこれぐらいしかなくてですね」

「抉るって考えを捨てろよバッカ野郎!?」

「落鳳平原とか落鳳池という地名を付けようと考えているのですが、どうしましょうか?」

「知るかぁぁぁぁぁあああっ!」


 訓練は中止するしかない。不審な人間とは誰のことか。勇者や教会の人間でないことだけは確かだ。その場合は逃げることを優先するように命令している。ゴブリンやギルマンに捕らえられる勇者もいないだろうが。


 フリードのように、魔物を受け入れて且つ利益や発展につながるような人間であることを期待したい。藤山まゆのような例はもう、はっきりとお断りだ。


『ギ。どうも追われていたようでして、あちこちにケガがあります。一度、目を覚ましたのですが魔物の我らを見てまた意識の糸が切れてしまい』


 気絶したんかい。


 一騎は心の中で突っ込んだ。強力な魔物と遭遇したというならまだしも、チームを組んでいたとはいえゴブリンやハーピーを見て、となると少なくとも歴戦の戦士や勇者である可能性は低そうだ。


「追われていたらしいのなら、森や集落を探っていたとも考え難いしな」


 好き好んで森に入ってくる人間もいないだろう。いや、勇者のように魔物討伐や調査のケースもあれば、もしくは魔の森を領土に組み込むこともありうるかもしれない。


 それもこれも、会ってみなければわからない。これまでの経験から、会っても事態がいい方向に進むとは限らない点だけが悩みの種だった。


「会わないわけにいかないし、さっさと行くか……でもなぁ」

「どうしました?」


 一騎は大きく息を吐き出す。


「藤山まゆもそうだったけど、外から来た人間って揉め事を引っ張り込むのがパターンになってるしなぁ」

「ご隠居の印籠を知らないのですか? ワンパターンを越えた黄金のワンパターンというものが世の中にはあるのですよ」

「まずはパターンであることを否定しろよ」

「それはどうでもいいですから、責任者として早く会ってきなさい。僕はここの片付けをしておきますから」

「やれやれだ」


 案内されたのはいつもの来客用テントではなく、医務室だ。以前はこの医務室も、難民キャンプにあるようなテントだったが、今はプレハブ程度には進化している。設備的にはそろそろ学校の保健室に届きそうで、だが使いこなせる人材が決定的に不足していた。


『ギョギョ、包帯を取り替えますぞ』

「おいちょっと待て! 包帯がぐっしょり濡れているんだが!?」

『ギルマンの手が濡れているのは当たり前じゃないですか。さっきまで水に入っていましたし』

「拭いてからにしろよ!」


 ドアの隙間から覗くと、随分と騒がしくやり取りをしている様子が確認できる。


 魔物と人間で意思疎通が図れているのは、ギルマンが首から下げている真っ白い玉のおかげだ。言うまでもなく宗兵衛が骨から作り出したもので、これまでの通信機能と転移機能に加えて翻訳機能までついている。術式を組み込むことで魔法使用まで可能になるという、一家に一つは欲しい優れものだ。


「ふーむ」


 相手の人間が誰かは知らないが、少なくとも出合い頭に剣を向けてくるようなバカではないらしい。なんのかんの言いながら治療も受け入れている。


「思惑があって我慢しているだけかもしれないが……ここで覗いているだけじゃ始まらないか」


 案内ゴブリンが一騎の到着を声に出してから、ドアを開ける。ギルマンと人間の視線が一騎に集中したかと思いきや、ギルマンが頭を下げた。


『これはイッキ様。このような場所にいかがされましたか?』

「保護した人間ってのに会いに来たんだが」


 一騎の言葉に治療中の人間が驚いていた。後で聞いたところによると、集落の長が自ら足を運んだことが意外だったそうだ。ある程度の治療が終了した時点で、長の前に引きずられていくことを覚悟していたようだった。


 人間の男はその場に背筋を伸ばして起立する。


「失礼いたしました。私はラルフと言います。この度は助けていただき、心より感謝いたします。ありがとうございました」


 早口で言い切ると、痛みが走ったのか顔を歪めるラルフ。


 自慢にならない事実として、この集落には現在、治癒系の魔法を使える人材が存在しない。一騎としてはラビニアあたりが治癒魔法も使用可能だと考えているが、現在までのところ、ラビニアが治癒系の力を見せてくれたことはなかった。


 エストは攻撃方向に偏っているし、クレアは魔法の素質はあっても開花していない。他の魔物たちも才能がありそうな個体はいても、習得に至ったものはいないという有様だ。


 どういうわけか集落に滞在している教皇ルージュと『剣鬼』アーニャも、魔法を見せる気配もない。回復魔法でダメージを受けるアンデッドの宗兵衛に至っては論外である。


 くるみやフリードの話によると、どんな才能のない相手にも魔法を習得させる巻物スクロールが人間社会にあるのだが、値段が高くてなかなか手が出せる代物ではないとのこと。ゴブリンメイジやゴブリンアコライトなどの職業が出てくることを期待するしかない。


「あー、悪い。まだ痛むんだったら、話は後にすればよかったかな」

「い、いえ! このままでも平気でずぅっ!」


 一騎の目には、まったくもって平気そうに見えない。消毒をしたり包帯を換えたりと、一通りの処置が済み次第、来客用の建物に案内をするということになったので、一騎は先に移動することにした。どことなく二度手間になっている気がしないでもない。一騎としてはそろそろ、謁見の間、みたいなものを作ろうかと思うこともあり、しかし生活環境向上のほうが圧倒的に優先順位で上のために断念し続けているのだ。


「そうだ。来るとは思うけど念のため、宗兵衛の奴にも来るように言っておいてくれ」


 あれでも集落の副代表だ。しかももれなくリディルがついてきて、ラビニアもついてくる可能性も高い。外部の人間なんて厄介事、自分一人に押し付けられてたまるかと一騎は考えていた。


「人間が厄介って、すっかり魔物としての考え方が染みついてきたなぁ」


 独り言ちていると、案内ゴブリンが申し訳なさそうに口を開く。


『ギ、ソウベエ様は用事があるので人間の対応はできないと言っておられましたが』

「野郎……っ!」


 とっくに先回りをしている宗兵衛であった。

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