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第四章:十七話 雑魚魔物は未だに無双に憧れる    ~その一~

火曜日に投稿したつもりになっていました。

 無双。


 異世界に来て以来、一騎は何度、この言葉の持つ輝きに憧れたことか。憧れは往々にして裏切られる、などという世知辛い現実に叩きのめされてきた一騎は、別の現実にも打ちのめされつつあった。


『ハァァァァ!』


 みすぼらしくはないものの、簡易な皮鎧に身を包んだゴブリンが棍棒を振り回す。ボロ布程度の装備でしかない敵ゴブリンは、回避を試みる暇もなく頭を強かに打たれて倒れ込んだ。


『骨爪の装備はしていますね。全員降下!』


 ハーピー隊長の号令の下、数体のハーピーが一斉に地上目掛けて急降下してくる。一撃離脱の見本のような攻撃だ。急降下したハーピーたちの爪の一撃は、正確に敵魔物の命を奪い去り、反撃の手を届かせようと考えるものバカらしいくらいの速度で急上昇する。


 彼女たちが足に装備しているのは宗兵衛謹製の骨爪だ。切れ味に優れ、加速や肉を裂く衝撃にも耐えられる強度を持っている。そのあまりの攻撃力の高さは弱い魔物なら確実に仕留めるため、ハーピーの弱点である、獲物をしとめるため地上に留まらざるを得ない時間、を限りなくゼロにしていた。


『ギルマン隊も負けるな! 手柄を奪われるなよ!』


 一騎たちによる先制攻撃で怯んでいる魔物たちに、ギルマンが襲いかかる。


 水場からの奇襲はギルマンのお家芸だ。混乱している敵魔物たちは次々に討ち取られていく。ギルマンたちの中には魔法を使える個体や、装備の違うギルマンアーチャーやギルマンナイトもいて、遠近双方の攻撃に対応していた。


『逃がすな! 回り込め!』


 一騎たちの中で、地上移動速度がもっとも速いのはウルフたちだ。


 ウィンドウルフは数こそ少ないが、高い機動力とゴブリンたちに勝る組織運営力を駆使して、他の魔物たちも率いて戦果を次々に上げている。敵部隊を指揮していたゴブリンの大型種の首に噛みつき、次の瞬間には噛み千切った。指揮官を失って混乱した敵部隊を一気に蹴散らす。


『詠唱開始。引き付ける必要はありません。広範囲にばら撒きなさい』


 戦果という意味では乏しいものの、殊勲賞ものの活躍を見せているのがマンドラゴラたちだ。


 魔石養殖が主な任務となっている彼女らは、戦闘に参加する個体は少ない上に、直接的な戦闘力に欠けている。攻撃手段は必然的に遠距離からとなった。効果は低いが徐々に体力を奪うタイプの毒の散布や、威力を犠牲にしてとにかく範囲を拡大した魔法による攻撃だ。


 ガシャガシャガシャ、森には似つかわしくない音が響く。宗兵衛が大量に作ったスケルトンたちだ。


 手に持つ武器は精々が棍棒や錆びたナイフ程度のもので、宗兵衛の作る骨製の武器は持っていない。宗兵衛の魔力消耗が激しくなることが理由だ。戦闘力は期待できないが、アンデッドはアンデッド。耐久力が高く、文字通りの壁として機能する。必要なものは宗兵衛の魔力だけという、いくらでも補充可能な、これも戦力である。


 大量のスケルトンで足止めし、マンドラゴラの広範囲長距離攻撃で敵を弱体化させ、他の部隊が蹴散らしていく。


「…………」


 自軍が優勢な状況は喜ばしいながらも、一騎は少し複雑な気分になっていた。転生者である己が一向に無双できないのに、部下たちが戦場で大活躍をしているのである。


「そっちに行ったぞ、一号!」

「おうよ!」


 ゴブリンやマンドラゴラたちの攻撃を掻い潜ってきた魔物たちに対処するのは、やたらと張り切っている嫉妬仮面たちだ。女性型の魔物であるハーピーやマンドラゴラにいいところを見せたいという。


 嫉妬仮面二号はマンドラゴラよりも強い毒を散布しており、弱い魔物なら一呼吸だけで十分に致命的だ。一号の攻撃範囲と速度はウィンドウルフを上回り、魔物たちは一号の姿を見るだけで逃げ腰になっている。こっちの世界ではまずお目にかかれない奇抜な格好も影響しているだろうが。


 二人とも魔物形態ではなく、人間形態のままだ。


 強制転生させられた身としては、やはり魔物の肉体が嫌いなようで、戦闘力を犠牲にしても人間形態を採るとのことだった。


 鬱蒼と木々が生い茂る魔の森の中、炎をかたどったマスクとボクサーブリーフに身を包んだ男たちが、魔物相手に肉弾戦を見せる。想像するだけで暑苦しい。二号の毒攻撃は毒霧のようにして飛ばしていて、一号は「空中殺法!」とか叫びながら飛び回っている。どこのルチャドールなんだか。


『ソウベエ様の準備が整ったとのことです』

「無差別爆撃じゃねえだろうな」


 ハーピーからの通信が入ったと思ったら、宗兵衛が割り込んできた。


『失敬な。誰よりも仲間を大事にする僕がそんな非道な行いをすると思いますか?』

「てめえのこれまでの行動をちょっとでも思い返して見ろやぁぁぁああっ!」

『ふぅむ』

「…………どうだ?」

『そんな事実は認められませんでしたが』

「どちくしょうっ!」


 ハーピーからの報告から数瞬、後方から凄まじい量の矢弾が飛来した。


 大量無差別爆撃の巨大骨矢はエストの物理的攻撃を含めた反対にあって使用禁止になったため、急遽、用意した別の攻撃手段である。急遽とかいうわりにスムーズに用意できたことから、宗兵衛は事前に考えていただろうと一騎は当たりを付けていた。


 飛来した大量の矢弾は着弾と同時に爆発するものと、岩や木々を貫通していくものとがある。爆発術式と貫通術式がそれぞれの矢弾に仕込まれているのだ。事前に術式を仕込むことで、魔法力のない又は乏しい部下たちでも十分な威力の攻撃が可能となる。更にラビニアの風の魔法を受けることで、射程距離も伸びているという代物だ。


 後方に避難しているマンドラゴラやケガ人たちが中心となって遠距離攻撃を仕掛けているのだが、前線部分への攻撃を控えていることと、ハーピーの精度の高い観測もあって、味方への誤爆は一切、認めていない。


 この敵軍、規模は大きく、そこそこの統率力はあるのだろうが、戦術が単純極まりない。この数で回り込んで四方八方からの攻撃を仕掛けられたら、さすがの一騎たちももっと苦しい戦いになったことは疑いないのに、正面からの力押ししかしてこないのだ。


 数という武器に絶対に自信を持っているということだろうか。ただしこちらの不利は変わらない。数的不利を補うため、皆が奮戦してくれているが、魔力体力の消耗は激しい。回復のための時間を取る必要がある。


「よし、皆、今から回復に専念する! スケルトンを盾に一旦、後退しろ!」


 正直なところ、一騎の提案した金床戦術は満足に機能していない。相手よりはるかに劣る戦力で、士気は足りていても錬度に欠ける。通信玉という連絡手段があっても、機動的に動くことは困難だった。


 加えるなら、要因はもう一つ。宗兵衛が指揮する遠距離攻撃部隊の存在が挙げられる。


 最大で数千メートル単位の長距離射程を誇り、広範囲に大規模被害をもたらす巨大骨矢と、爆発術式と貫通術式を組み込んだ上空からの長距離攻撃だ。遠距離狙撃と爆撃という近代戦術が運用されているすぐ傍で、鉄剣や棍棒を振り回す古式ゆかしい金床戦術がどれだけの効果を発揮できることだろうか。


 爆発術式の起動を確認するたび、金床戦術を提案した一騎は笑われているような気分になる。笑っているのが宗兵衛だというのが何とも言えず不愉快だった。


『『『グロォォォヲヲッ』』』


 後退は敵軍の攻勢を激しくさせるという副作用をもたらす。数で劣る以上、守勢に回らされると挽回は不可能だ。


 本来なら。


 飛行型の魔物を抱えていない敵軍は、いたるところ無数に出現したスケルトンに阻まれて、進軍速度を上げることができない。そのスケルトンたちは、宗兵衛が錬金術で創り出した盾を装備している。さすがに鉄やミスリルではなく、せいぜいが青銅程度の金属だが、大盾といったサイズなので、アンデッドとしての耐久力もあって壁としての機能が異常に高い。


 敵魔物たちは完全に攻めあぐねていた。この防御力があるなら、回復の時間も取れるだろう。そんなことを一騎が考えていると、一際激しい咆哮と共に、大量のスケルトンが吹き飛ばされた。骨の各部も大盾も、ガラクタのように砕けて宙を舞っている。


『ギギ、イッキ様、大型種です!』

「敵も本腰を入れてきたってわけか」


 ゴブ吉からの報告が通信玉に入る。


 ゴブリンの中でも体躯の大きいホブゴブリン、体長十メートルはある多頭蛇、口に燃え盛る炎を湛えた巨大な亀、地面を食い破って出現した巨大なミミズ状の魔物、グレンデルという名の大剣を携えた巨人族。


 ゴブリンが率いているとは思えないレベルの戦力だ。それも一個体だけでなく、複数の大型種が出てきたとあって、せっかく優勢にあった一騎たちの側の雰囲気が急速に悪化していく。


 一騎や嫉妬仮面たちならまだしも、並のゴブリンやギルマンでは勝てそうにない相手なのだから、及び腰になるのも無理はない。


 逆にゴブリンロード率いる敵軍は息を吹き返す。大型種の後ろで気勢を上げているものがほとんどであっても、士気は大きく盛り返していた。なによりも、大型種の攻撃に巻き込まれないよう、遠距離からの攻撃を中心にし始めたことが鬱陶しい。


 大型種の突進の威力は凄まじいものだ。たとえ攻撃が当たらなくとも、空振りが巻き起こす異音だけで一騎の部下たちの顔が青くなる。


 咆哮、威圧、突撃。感情を持たないスケルトンを大量に壁として配置していても、大型種を食い止めきることは困難だろう。待ち受けるのは瓦解と全面敗走くらいだ。


 恐怖に駆られ、逃げ腰となった状況を立て直すために必要なのは、こまごまとした戦術ではなく、通信玉のような便利なアイテムでもない。確固とした勝利をイメージさせることだ。


「行けるな、一号?」

「おうよ! 粘着質な筋肉ブサメンには制裁が必要だと思い知らせてやるさ」


 一騎が、それだと誰よりも制裁が必要なのは嫉妬仮面一号だろうな、と思ったのは秘密である。


「頼んだぞ、二号?」

「奴らのブサメン指数を考えると、できるなら我ら嫉妬団に入団してもらいたいものだが」


 一騎が、おいちょっと待ていつの間に嫉妬団なんか結成したんだ、と心中で突っ込んだのは秘密である。


 巨大な魔物が大挙して押し寄せてくるという、人間だったときには経験したことのないド迫力な光景が迫っているというのに、軽口を叩き合えるというのは頼もしい。一騎は骨刀の切っ先を迫る大型種に据える。


 まさにここからが正念場だ。

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