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君は絶対


瞼が開いた。



重たいが、腕も動いた。



ツルギはゆっくりと、自分の腕を上げる。



魚を焦がしたみたいな色が、自分の腕にびっしりと生えている。



反対の腕も上げてみた。焦げ焦げだ。


よく生きていられたもんだ。



いや死んでるのか?



今の自分は、実体も定かではない。




でも確かなことは。



俺は負けた。






「……ツルギ?」




 誰かが声をかけた。




 金色の髪、可憐な瞳、透き通った白い肌、彼女は……。




「……ラフィカ」




 ラフィカだった。


 世界とともに消えたはずのラフィカ。



 では、さっきまでいたイヴァンは?ロゴスは?翔火尊塾しょうかそんじゅくは?




ここはどこなんだ。




という疑念は、正直今のツルギにとってどうでも良いことだった。



確かなのは、今目の前にラフィカがいることだった。




「どうして、そんなに黒焦げなの?」




 心配そうな顔で言われた。



 


 ああ。そうだよ。


 これが本当の俺。



 君の前でカッコよく決めたこの前の俺は。



 俺の妄想。



 俺の理想の姿。

 


 そしてこれが。



 現実の俺。



 敗者の姿。




 思えば、この異世界に転生する前も。




 俺はこの姿と相違ない人生を送ってきた。





「……あとは、まっしろけになるだけだね!」



 

 ラフィカが。



 そう言った。




 たった一言だけだったが、



 ツルギにとって、肩の荷が降りる、めちゃくちゃな救いになる言葉だった。




 あとは。


 そう。



 いつも心に思い浮かべるべきなのは、未来の姿だ。




 ツルギは腕を。



 ゆっくり上げた。


 日差しが隠れる。




 ラフィカの手が、その腕を優しく包んだ。



 そして彼女が外すと。




 真っ黒けだったツルギの腕が、真っ白に変わった。






「……そうだ。俺は、世界最強の剣士になるんだ」



 ツルギは一人でに、そんなことを呟いた。




 自分の未来の姿を、もう一度思い浮かべる。




 今がどうであれ。



 弱い自分が鎌首をもたげようとしてきたって。



 目指すところはたった一つだ。






 過去は変えられない。




 ……いや、違う。




 過去も今も、



 未来が変える。




 そう想った瞬間。




 自分の体が、眩い光に包まれるのがわかった。


 


 白く、変わっていく。




 ツルギは隣を向いた。




「ありがとう、ラ……」




 隣には。




 いるはずのラフィカが、いなかった。





「ラフィカ……」




 多分。



 俺が思い描く未来には。




 君が、絶対に隣にいるはずだ。




 


 そんなことを思いながらいると、



 世界は光に包まれ、霧散した。

 






~~~~◇~~~~◇~~~~




 目が覚めた。



 こちらを覗き込んでくる顔。



 かわいいな……。女の子だ。



 ラフィカ……!





「あー。やっと起きましたね」




 ではなかった。




 黒髪ショート。猫目、だけどぱっちりとした瞳。


 な、女の子。




「師匠が『死んではいない』っていうから安心してたんですけど、ここで看ている最中にポックリ逝かれたらどうしようって」



 やれやれ、な手振りで少女が言う。



「君は?」



「あ、ワタシですか?レトナです。翔火尊塾しょうかそんじゅく1番門下生!!……になりたい夢見る思春期な16歳です」



 自己主張の激しい自己紹介にちょっとお、おうと押されたツルギ。



「……君が、看病してくれたのか?」


「………………なんですか?『君が看病してくれたのか(ポッ』ってやつですか?やめてくださいアタシそんなつもりないんで」 



 とんでもねえ眼で見られている……。




 なんだか、たった一言だけでめちゃくちゃケダモノ扱いされた……。




「っていうか、もうワタシ付いてなくて大丈夫ですよね?んじゃ、ここらで失礼しますね……何されるか分かったものじゃないし」



 それじゃ、って感じのノリで夢見る思春期な少女、レトナは部屋を出ていった。



 去り際までケダモノ扱いは継続されていた。


 



「とりあえず……どこなんだ、ここ」




 少なくともあの世界ではない。




 ラフィカとともにいた世界。



 それは、眩い光とともにいつも消える。




 ということはつまり、だ。





 ラフィカは。




 彼女という存在は。



 


 俺のただの空想なのか?



 



 もしそうだったらと、一瞬心が沈んだツルギに、ふと、枕もとに掛けてあった『ペン剣』が目に入る。



 この剣は。




 あの空想かもしれない世界の中で、俺とともにあった。



 なあ、『ペン剣』。




 お前はどう思うんだ?



 


 と、ツルギが、ペン剣に手を伸ばすと、




 そこで気が付いた。






 今、ツルギは体中焦げて黒くなっているはずだった。


 



 の、はず、なのに。




 右腕が真っ白だった。



 この手が白く染まっていた。




 間違いない。

 彼女は空想の存在なんかじゃない。


 絶対に、いたんだ。



 そしてどこかに、ちゃんといるんだ。



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