vsイヴァン~決着~
結果は。
どちらも倒れていた。
まあ、あんな爆風の中で術者も攻撃される側も、完璧に無傷ではいられない。
問題は。
どちらがまた立ち上がるか、であった。
立ったのは。
イヴァンだった。
ほぼ無傷だった。
ツルギの方は。
自爆同然の爆発のため、倒れたままだ。
当然起きなかった。
「っち……、ヒヤヒヤさしてくれるぜ。熱ちいけどよ」
爆破の熱が残るその場所で、イヴァンはそんなことを言った。
「そんじゃあ勝ち負けは」
吹き飛ばされた白刃を握り、ゆっくりと持ち上げた。
「はっきりさせねえとな?」
ツルギの頭上に、翳した。
ヒュンッ
投げられたのは一本のナイフ。
それはイヴァンの目の前をよぎって、手近な木に突き刺さった。
「そこまでだ」
「な、師範」
制止したのはロゴス。
「引け、イヴァン」
「……いくらあんたでも、男の真剣勝負に口挟まれたくねえな」
「その勝負の結果は、お前がたまたま腰を抜かしたからだ」
そう言われ、イヴァンの端正な顔がギッと引き締まった。
その通りだった。
この結果は、ツルギがそのペン先で示した莫大な魔力量に、イヴァンの体が無意識的に“恐れ”を抱いたからであった。
「オレがビビリだったから勝てたと……?随分肩持つじゃねえか、その道場破りに」
今は彼に対して眉間に皺を寄せているが、誤解なきよう言うとイヴァンは、ロゴスを尊敬している。
ロゴスの剣名に惹かれ、家族の反対を押しきって剣の道に進んだのだから。
「……結果にケチをつける気はない。だがこの道場破りは、お前なら圧勝できて当然だった。ここまで戦闘が長引いたんだ。俺から指摘する点はざっと40以上あるぞ」
「え……えっ!40もあるのか!早く教えてくれ!」
イヴァンが食いついてきた。向上心が高い教え子だ。こういうところは素直なのだ。
「その前に剣を納めろ。話はそこからだ」
一にもニにもなく、イヴァンは剣を納めた。
「そーだ、その子、どうするんですか?」
レトナが口をはさんだ。
その子、とは黒焦げになって倒れているツルギを指す。
ロゴスはツルギの首元までよって脈を確かめる。
幸いにも死んではいない。
まあ、自分の刃圏魔術で死んでしまっては笑い話にもならないのだが。そこは彼の中の無意識が魔力の出力を調整したのだろう。
「やっぱ、何であれ道場破りですからねー。騎士連にでも突き出します?」
騎士連、とはこの世界の警察機構のことだ。
余談だが、イヴァンやレトナも入学を目指す剣術学院アルバトロスを、優秀な成績で卒業すれば、騎士連や軍の幹部候補生として、将来の成功を約束される。
「……いや」
ロゴスが答える。
「彼をこの道場に入れる」
その一言は。
イヴァンとレトナの表情に、小さくも強い衝撃の波紋を拡げた。