俺、救けた、よね??
「うわうわうわうわうわうわうわわああああああッッッッ!!」
戦闘の心構えができていない。
さっき、映画よろしく悪党どもを格好良く薙ぎ倒したというのに、不測の事態にツルギは情けないくらいに狼狽えていた。
とにかく必死に光弾を避けた。
ズドンッッ!!
バドンッッ!!
着弾した付近を見ると、地面はものすごく抉れて煙が立ち上がっている。
「どうして動くんですか~~~~!」
殺人級の光弾を放つ魔法陣を展開させながら、目の前の彼女が言う。
「は、はあっ!?」
「止まってくれないと、剣だけ狙い撃つことができないじゃないですか!」
いったい何言ってるんだ、とツルギは本気で思う。
剣を破壊することを許可した覚えはない。
この剣はツルギにとって魂である。そんなこと許すはずがない。
はっ、もしや、とさっきの会話を振り返る。
……………
『あ、あの……』
『ああ、大丈夫、大丈夫!』
『え……』
『もう大丈夫だから!』
『本当ですか??』
『おう!もちろん!』
…………
ツルギは彼女が怯えているのかと思い安心させるために言ったのだが、
彼女は『剣を破壊してもいいよ』という許可に聞こえたのだろうか。
なんという意思疎通のすれ違い。
現代人に求められるコミュニケーション力の水準は予想以上のようだ。
現代じゃないけど。
異世界だけど。
「どわああああっ!?」
そんなこと考えてたら足元に着弾した。
も少しでつま先消えるとこだった。
本気で止めねば。
「ちょっとストップ、ストッッッップ!!」
ツルギは剣を掲げ、腕を思い切り振って静止を呼び掛けた。
空に浮かぶ魔法陣が収束する。
意思疎通成功だ。一応。
「何ですか?」
「いやなんですか、じゃなくて!そっちこそ!」
「ええ、それはだって、剣を壊すことを許可してくださったから……」
「許可してない!断じてない!」
「大体何で君を救けた俺の剣を壊すんだ?!」
ツルギは疑問をぶつけてみた。
「救……救け?」
その部分で、彼女は何か引っかかるような顔をした。
何だ。何なんだ。この前提が覆されるような悪寒は。
そもそも彼女。
こんな圧倒的な力があるなら。
自力で絡んできた連中を瞬殺できてたんじゃないか?
「…………あの連中に絡まれてたんじゃないの?」
「いや、あの、その人たちの腰にぶら下がってる剣を壊そうと思いお願いしたら揉めちゃって……そこにあなたが来て……」
え。
彼女は、絡まれてたんじゃなく。
自分から絡みに行ったのか?
そう思うとツルギは急にヘナっとした気持ちになり、腰がぬけて地面に転がった。ここは芝生だ。みょーに気持ちいい。
油断してれば彼女がまた魔法陣を呼び出して攻撃してくるかもしれないが、もうなんかどうでもよかった。
グ~~キュルル~~。
ツルギの腹の音だ。なんだかお腹が空いた。
「あ、あの」
彼女が、何か言ってきた。
あんまり聞く気はしなかったけど、彼女が持ってきたバスケットの中から、いい匂いがする。
「サンドイッチあるんですけど……食べます?」
食べてはならない。
そう自分の中の自分が警告する。
絶対に眠り薬とかが入ってて、俺が寝てる間に俺の愛する剣を壊すつもりなんだ。
てか人の剣を壊すとか、一体本当に何が目的なんだ…………?
剣を奪って売るとかなら分かるけど、ただ壊すだけに何か意味があるのか。無意味な破壊じゃないか。
…………っていう疑問をぶつけてみた。
サンドイッチ頬張りながら。隣に座ってる彼女に。
結局、食欲の前では無条件降伏した。
「えっと、そうですね……」
彼女もサンドイッチを食べながら、口元についたパンかすを指で拭うと、答えてくれた。
「全ての剣を壊すこと。それが私の夢だからです」