ツルギvsブレン①
昨日更新分の1話前ですが、編集してお話を足しています。
昨日(5/2)、1話前をお読みになった方は、一旦戻って1話前の最後辺りからお読みいただければ助かります。
美男子の視線をまっすぐに返して、ツルギはその頼みを断った。
「……ハハハ、やっぱパン一個じゃダメかな?」
「……これは俺にとって、俺の夢にとって一番必要なものなんだ。一時の空腹の引き換えになんてできない」
ツルギは少し、笑顔を浮かべていった。
「それ以外のことなら、なんでもするよ」
美男子の表情に、少し影が差したような気がした。
「……悪いが、それ以外のものはいらないんだよ」
語気が少し、荒くなったのかと思った。
と思うと、また静かな声音に戻った。
「ボクはね、何か行動を起こすとき、欲しい結果だけは常に揺るがさないんだ」
チャキリ、と、金属の音が鳴る。
「変えるのは手段だけ」
美男子の腰には、確かに剣が佩かれていた。
華美ではなく、しかし実戦的ゆえに逆に実践的なシンプルさそのものが美しいと呼べる、実直な剣。
「……何度でもいうよ。ボクは欲しい結果は常に動かさない」
向かってくる気だ。
ツルギも構える。
さっきのイヴァン戦でのダメージが消えたわけではないが、休んだおかげで少しは動ける。
だが、だが――――。
いざ、実戦となると、拭いきれない思いがあった。
「申し遅れた。ボクはブレン。翔火尊塾の道場生だ。生まれてこの方勝ちを人に譲ったことはない。たまに一度負けても必ず取り返してきた。ささやかなことだけど、ボクの自慢さ」
自信に満ちた表情で、美男子――――ブレンは言う。
俺は、あんな風に自分に自信を持って言えるか。
自分が強いと、悟ることができるのか。
答えは出ない。それでも、両の手は、このペン(剣)を掴んで離さない。
「――――もう一度、聞く。そのペンみたいな剣を、ボクに渡してくれないか」
それだけには自信をもって答えることができた。
「断る」
「解った」
稲妻のような剣閃が、飛んできた。
~~◇~~◇~~
横薙ぎの一閃。
それを間一髪防げたのは、幸運だった。
「……くっ、やっぱり腕が痛む……」
注意深く見ればわかるが、ブレンは腕にケガを負っている。
腕の痛みを気にして、この威力なのか。
ツルギは今、二十メートルくらい吹っ飛ばされて、地面に転がっていた。
ブレンの太刀筋を受け止めた衝撃の結果だ。
強い……!
「……そんだけ吹っ飛ばされても、まだ剣から手を離さないんだね」
ブレンは肩に剣を担いで呟く。
「いい根性だ。でもすぐに、その手を引きはがして見せる」
ブレンの体が飛んできた。
立ち上がるツルギ。
応戦。
ものの二合で、
ツルギの手から、聖剣筆は弾かれた。
「はい、これはボクのもの」
そう言って地面に落ちた聖剣筆に手を伸ばすブレン。
なぜだかはわからない。
それでも、ツルギは夢中になってペン剣を死守した。
気づけばまた、ツルギの手中にペン剣が宿る。
「……凄まじい執念だ」
ブレンは冷たい眼で、言う。
「すぐにそこから解き放ってやる」
その台詞から、この男の聖剣筆への執着もまた、凄まじいものだった。
ツルギは構える。
ブレンが飛び込む。
ブレンの剣が。
奔る。
稲妻のごとき勢いである。
いや、実際に稲妻が、剣から迸っている。
おそらく、これがブレンの刃圏魔術。
ツルギも応戦する。
が、いつの間にか剣が弾かれる。
すると即座に、ブレンの手が動く。
渡したくない。
「があああああああああああ!」
ツルギは空手を握りしめ。
ブレンの顎を打ち上げる。
「らああああああああああ!」
ブレンの顎が。
跳ね上がる。
入った。
わけではなかった。
寸でで、躱していた。
ニタリと。
ブレンの顔が歪んで、今度はブレンの拳が、ツルギをぶっ飛ばした。