~死神は哀れな男を笑う~
死神の仕事の話です。
やぁ、諸君!コンニチハ?コンバンハ?私は今宵は良い満月ですね。とてもとても綺麗な紅月でございます。私の相棒の鎌もいつもより紅く爛々と輝いております。
「おやおや、そんなに逃げないでくださいよ~」
昨日も今日のために念入りに磨き上げた甲斐があると言ったもので今日のスコアは今月一番になりそうです。ん?私の仕事かい?それはね、寿命が来た人間の魂を刈ることと借金を返済して貰うことです。
「今日が魂の返済日となっております、早々に払って頂きたいですね」
死期に来た人間は徐々に精気が抜けていき最後は器と魂だけになります。そこに我等死神は魂の回収をするのですがこれが困ったことに拒む片方がたまにいるのです。
そこで我等死神の仕事の内には魂の貸し出しなんかもあるですよ、まだ死にたくなと言う人間方に期限付でその分の魂を貸し出すのです。無論貸し出すだけなので返して貰います。貸した分の利子を乗せてね。
「さて、見て分かりますが……目的は達成出来ましたでしょうか?」
利子はその人の魂ですが……これだけ聞くと悪魔みたいですよね。違いますよ、我々死神はそんな非道な事は致しません。天使がホワイトで悪魔がブラックなら我々死神はグレーですから。
利子は魂なのは悪魔と変わりませんが、グレーな我等死神は魂の格を頂きます。
生涯において歩んだ人生により魂の格が変わります。平凡なら灰色平均より上なら薄めの灰色で更に上で白色になりこれなら天使からスカウトがきます。
逆に黒色なら悪魔からスカウトがきますが、基本的に悪魔のスカウトは断れませね何たってほぼほぼ強制ですからね。
「頼むもう少し待ってくれ!」
「はぁ……」
魂の格が白なら我等死神にとってとても良い事になります。わざわざ手暇をかけて魂を洗わないで済みますからね。
あれ何回かやりましたが大変なんですよ?服についた油みたいで擦っても擦ってものかないのなんのって、あの仕事の死神さん達いつも「もう嫌!何だよこの汚れ!ふざけんな!」て言ってましたね。
黒にいっては何回も何回も擦ったり洗ったり干したりを繰り返します。
「もう少しと仰いましても今日が返済日なのですよ?そんなことは出来ませんし、しません」
「あと、あとちょうと本当にあとちょっとなんだ!頼むから!!」
「…………」
この男は自分の魂の格を代わりに今生きています。そして、今日そこ返済をして貰うために来たのですが……輝いていませね。
白は素晴らしいですが白の光は更に素晴らしいのです。洗わなくていいし、寧ろ汚れた魂の近くに置いておくと汚れを少し浄化して落ちやすくしていれるのです。
なので死神は光の魂を最高級としています。目の前の男もその最高級の魂の一歩手前と言ったもので近年まれに見る良い魂なのです。
「頼むこの通りだ!身勝手なのは分かっている!」
「…………」
しかし、最高級ではない。死神は魂を貸す相手に試練を与えます。「運命」と言う名のね。魂の格に応じた試練により仮に生き延びる日数が変わります。凡人ならせいぜい一ヶ月そこらで少し上は一年ぐらいで、この男は十年です。
分かりやすいでしょう?この男はまごうなき英雄です。
「フム……返済は今日ですから、そこまで言うのなら日付が変わるまでなら待ちましょうかね?」
「本当か!!」
「えぇ、貴方の熱意に応えてね、別に意地悪したいわけではありませんしね、私はあくまで仕事に忠実に勤めたいのです」
「すまない、恩に着る!」
「まぁ、頑張ってみてくださいな」
試練を与えるのは死神ですが、運命を決めるのは人間です。あの男は命の延命とその代償に魂の格を差し出しました。運命は激しければ激しほど乗り切った時魂が磨かれるので、死神は運命を決めさせます。
そこまで正確ではなくてもいいですが、はっきりとした運命の方が魂を貸し出す期間が伸びます。例えば男が提示した運命は「メイトを助け出して、告白して付き合ってもらう」です。メイトてっのは幼馴染みの少女らしいです。
……フッフフフ、笑えますよね?たかが幼馴染みの女のために魂の格を差し出したんですよ?これを笑わずしてどうしてくようか。しかも、「告白」って……頭の中お花畑ですかね?
でもまぁ、実際に延命して幼馴染みを大悪魔より助け出してしまったわけですから凄いですよね。どこの物語の主人公だよって感じですよ。胸くそ悪くて吐き気がします。
そして、今日告白して付き合ってもらえれば運命は完遂するですよ。どうやらとんだヘタレのようで今日のこの日まで告白しなかったようです。迷惑な……。
「最後の日に告白ですか……どうして、主人公は無駄にロマンティックにしたがるのでしょうかね?」
死ぬことはかわりないのに、なんですかね?最後は幸せの中で死にたいのでしょうか?……人間の考えることはよく分かりませんね。
死神の魂の回収でそれなりの功績を残し尚且つ、本人がそれを望めば本人に関わる指定した人物から記憶を無くす事ができます。
どうせ、これ頼まれますよ。彼女には俺のことを忘れて幸せになって欲しいってやつですよ。あぁ~やだやだ~そう言うのは物語の中だけにしてくださいな。
見たくもないですが、回収しないといけないのです。甘甘で胸焼けを起こしそうですが見物と洒落こみますかね~。
周りより少し大きな家の庭に男がいまし……た?これはどういった事でしょうか?
「……メイト?誰だよ、その男……」
「えっ!ロイト!なんでここに……今日用があるって」
「あぁ、ちょとお前に伝えておきたいことがあったんだが……」
おやおや、なんでしょうか。この凍りついた甘甘から一番遠い空気は……。もしや、もしかしましたか?先程まであの苛ついた気分が嘘のように消えていく……。
「その……君があの英雄ロイト様ですか?」
「そうだが……お前誰だよ」
「あのね、ロイト君私その……結婚することになったんだぁ……」
「ぇっ……結婚って」
「この人アルクって言うの、ちょとおちょこちょいだけど優しくて頼りになってね……」
どうやら、もしかしちゃた様ですね。チラチラとアルクと言う男を見ながら話すメイトの頬は僅かに赤みがかっています。アルクの方も穏やかにメイトのを見つめています。
「嘘だろ……」
「……?ロイト君どうしたの?」
「大丈夫ですか?」
ロイトは数歩後ろによろけ頭を抱えてブツブツ言い出しました。フッフフフ、あぁ~ぁ~お可哀想にこりゃ駄目ですわ。完璧に愛しあってる新婚さんですね。二人もロイトを気遣って声をかけますが、余計に追い討ちをかけることになりました。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァーー!!そんなぁ……俺は君のこを……」
「!……ロイト君……」
「ロイトさん……」
「あぁーロイト様~、お時間ですよ~」
私が木上に腰かけていますからロイト、メイト、アルクが私の方を見上げる形で振り向きます。
全く気づかなかったことに驚いている二人と絶望した顔で私を見るロイトは酷く怯えているようです。
それも当然何たって最後の最後で運命をなし得なかったですから、これは試練失敗です。それすなわち……
「お気の毒にロイト様貴方は運命に敗れました」
「あぁ……ぁ」
「これにより魂の格は満たされませんでした」
「……来るなぁ…」
「それにより貴方は破綻しました」
「来るなぁぁァーー!!」
ロイトがとち狂ったのか腰に挿した剣を鞘から出し私に向けて振るってきました。流石大悪魔を倒しただけのことはありまさに達人の剣捌きでこれでは新入社員の死神では切られてしまいますね。
……ですが、運の悪いことに私は生憎とベテラン死神でしてね。
ギィンィーー!
「なっ!?」
「本日貴方の魂を刈りに来た死神です、宜しく……と言っても、もう永久に会いませんがね」
影から取り出した大鎌で剣を弾き飛ばし、私は大鎌を振るう。鎌先が肩に突き刺さりそこから切り裂くように肉を絶ち骨を砕き内蔵を切り裂く。半身がズレ鎌を振ると血肉を飛び散らし青々と生えた草と地面を紅く染めあげる。
「うぁお……ごふっ…………」
「いやぁぁぁァーー!?」
「君何てっことをするんだ!?」
「フム……何をそんなに慌てているのですか?」
メイトがロイトに駆け寄り目から水を流している。なんだ目にゴミでも入ったのでしょうか?アルクは私に敵意の目を向かってロイトが落とした剣を持ってメイトを守るように構えている。
?私は仕事を淡々とこなしているだけなのですが、どうも私は人の恨みをかいやすい質のようだ。
「そこを退いていただけませんかね?仕事が出来ませんので」
「仕事ってなによ!?ただの人殺しじゃないの!!」
「これでも真面目な仕事で死神を生業にしております、今宵はそこのNo.六百三十番【ロイト・ヒーリフイト】様の魂の返済にやって参りました」
彼は魂の格を代償に契約上限全てにし、十年の延命を手にいれた。契約の内容には魂を十年で最高級にすることが含まれていた。そうすれば最高の状態で来世に転生を果たすことができるという契約を結んだのだった。
では、返済出来ずに破綻した場合はどうなるかと言いますとですね。
「ロイト様契約にしたが貴方の魂を消滅をかせていただきます、宜しいですね?」
「ゴッフッ……ァアアアアア!!グルナァ!!……グァ」
「風前の灯火の命を更に消費するのは構いませんが……どうしました?今になって【死】が恐ろしくなりましたか?」
『死神は鎌を掲げ、振り下ろし、血に染まった衣を身に纏い、身に切り裂くことこそ祝福なり。』
『死は我等と共にあり、死は隣人なり、我等共に歩む道に彼岸を咲かせよ、視界を朱に染めよ、死は我等の象徴なり。』
『死神は鎌を振るう。』
死神に伝わる人間で言うところの子守唄的な感じの教えです。私中々にこの歌好きなんですよね。こう馴染むと言いますか、自然と仕事中や隙な時に口ずさみますね。
「それでは、【サヨナラ】」
今日も私は人を刈る。邪魔するものも共に刈る。助けようとした?そんなこと私は知らないし、知る気もないし気にしない。この後にもあとが控えていますので、まぁ、お気の毒に。
「今日の魂は【哀れな英雄】」
私は今日も魂を刈る為に鎌を振るう。明日も明後日も振るうのだろう。何故なら私が死神ですから。
何となく書きました。