明晰夢 純愛
夢の中でたまに見る風景。
自分はビルの上から行き交う人混みを眺めながらこう思っていた。
この人々は一体どこに向かい、どこに帰るのだろう………と。
自分の移動手段はジャンプだ。一度蹴り出せば数十キロは跳べる。故に車や公共手段は一切不必要だ。
この日東京に来ていた。
いつもは空を飛んだり 時空を越えたりと、この場所に居るのだが今回はジャンプで来たようだった。
なぜこの場所に来てしまうのかは自分自身でも分からない。考えても仕方がないので帰る事にした。
ジャンプ中、なぜか人気のない田舎の細い一本道が気になり降り立った。
暫く辺りを眺めていると実際某県に存在する道だと気付き、もうすぐ家に帰れると思っていると目の前から数人の女学生がおしゃべりをしながら歩いてこちらにやって来た。
彼女達の目の前でジャンプをする訳にもいかず、且つ怪しまれずやり過ごそうとしたその時、一人の女学生と一瞬、目が合った。
するといきなり風景がグニャリと歪み出すも彼女だけは直立不動で鋭い眼光を放っていた。
……気が付くと女学生達に介抱されている自分が居た。 その女学生の中に先程の少女も居たのだが、あまりの可憐さに自分は一目惚れをする。
どうやら先程の不可解な現象は彼女の仕業だと直感で理解できた。
この謎の女学生、可憐で清楚な容姿だが なにかがおかしいと自分は警戒しつつもみとれてしまう。
その容姿は
黒いセミロングに淡いピンクのブラウス、同じくピンクのスカート。顔立ちは幼き日の某女優に似ていた。
その日から自分は彼女の虜になっていく。
彼女がそう仕向けたのは分かっていたが抗えなかった。
ひと目彼女の笑顔を見たく、上空から毎日彼女を見ていた。彼女も気付いていたが知らぬふりをしていた。
お互い適度な距離を保ちながらも毎日一瞬だけ目が合うだけで幸せだった。
やがてお互いの距離が少しづつ縮み出した頃、ある日を境に彼女は自分を避けるようになった。
自分は真相を知りたく彼女を追い問い詰めるべく彼女の肩に触れた瞬間、全てを悟った。
その女学生は住まう時限の違う魂だった。
その昔、叶わぬ禁断の恋を嘆き、身投げした哀れな一人の女性だったのだ。
彼女は笑みを浮かべながら昇天し、光りと融合し消え去ったのでした。