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おとぎ話の時間です  作者: 小鳩子鈴
Special Thanks 番外編(FA御礼SS)
31/32

ドーナツ・ドーナツ

◆金野文さまより、とっても素敵なモフモフイラストを頂戴しました! 可愛くて可愛くて仕方ありませんっ。眺めていたらこんなお話が……ご一緒に、ほっこりしていただけたら何よりです。金野さま、ありがとうございます!!


◆お使いの動作環境で画像の読み込みに時間がかかる場合など、画面右上の【表示調整】内の一番上で表示をON/OFFできます(画像のみリンクに切り替わります)

     挿絵(By みてみん)


 おーちゃんとずっと一緒にいるようになってしばらく経つ。仲間のみんなと離れ離れで淋しいかと思って、コロの散歩の時なんかには絢子さんの庭に寄ることも多いのだけれども、今日は様子が違った。

 着いて目に入ったのは、庭先でほかのおーちゃん達にぐるりと囲まれる黒猫のリューちゃん。その構図につい、バレエの「ボレロ」を思い出してしまう。

 でも、みんなぷりぷり怒っていて、リューちゃんはしれっとした顔でちょっと得意そうな感じ……?


「みんなー、どうしたの? え、ちょ、おーちゃん、くすぐったいっ」


 ちょっと怪しい雰囲気に、声をかけると一斉にわっとこっちを向いて微動だにしない……なに、なにがあったの? 普段ならわーっと集まってすぐに遊び始めるのに。妙な迫力に驚いて、肩上にいたおーちゃんがわたしの首元から服の中に入って隠れてしまった。


「……何やってるの、お前」

「ふぁっ、ありがとう、十和田くん。い、痛くないかな?」

「平気だろ」


 十和田くんが外に残っていたおーちゃんの尻尾を掴んで、服の中から引っ張り出してくれた。おーちゃんは逆さまになりながらも、にゅーんと丸くなってジタバタ……逃げようとしている?

 そうこうするうちに、詰め寄っていた方のおーちゃんたちがどどっと走って来た。


「***、*!」


 口元からキラキラを出しながら、一生懸命に十和田くんに訴えるおーちゃんたち。わたしにも、何匹もくっついて登ったり手を引っ張ったりして涙目で何か必死に言っている。おーちゃんは十和田くんの背中に張り付くように隠れているし、リューちゃんは向こうで余裕の表情だ。


「なんだろう、本当にどうしたの」


 そんなうるうるした涙目で見つめられると胸がぎゅっとしちゃう。つられて泣いちゃいそう。


「……最近、リューが北沢さん家に来た?」

「えっ、あ、うん。先週かな」


 おーちゃんを道しるべにしているのか、わたしの家も覚えたようで、リューちゃんも遊びに来ることもある。まだ、二、三回だけど。コロとも仲良くしているし、三匹でぴょんぴょん遊んでいるのは見ていても楽しい。


「何か食べたんだって、木の色で、あったかくて、丸い……輪っか? 穴?」

「あ、」


 身振り手振りを加えて必死に十和田くんに話しているおーちゃんたち。通訳してくれた十和田くんの言葉に、思い当たることはひとつ。


「ドーナツ作ったの」

「リューが自慢したらしい。で、自分たちも食べたかったって」

「ああ……そっか」


 おーちゃんたちはお菓子が大好き。ここに来るときはみんなの分を持って来ることが多いけど、家であげたのは入れてなかった。うっかりだったなあ。


「お前たち本当に食い意地が……、って、おい、こら」


 たしなめた十和田くんに繰り出される猫パ、いやオコジョパンチ。そんな場合じゃないけど、和む。一番先鋒の子をひょい、と持ち上げた。


「ドーナツ食べたかったんだね。ごめんね、気付かなくて」


 あうあう、と口元を震わせてきゅうっと抱きついてくるおーちゃん……はうう、可愛いっ。やっぱり一緒に泣いちゃいそう。


「あの、あのね、材料はあるからドーナツ作れるんだけど、生地を寝かさなきゃないんだ……明日でも、いい?」


 ぱああ、と表情が明るくなる。もう一回ぎゅっと抱きつくとあっという間に散り散りに遊び始めてしまった。残されたのは可愛すぎるおーちゃんにやられて締まりのない顔のわたしと、呆れ顔の十和田くん。あ、コロやリューちゃんも一緒になって向こうで遊んでいる。


「はあ、かわいい……」

「自由すぎる……北沢さん、別にいいのに」

「ん、でも作ってあげたいし。難しくはないんだ、わたしが作るのパン生地じゃなくてベーキングパウダーで膨らます方だし」

「違いは分からないけど、面倒でないなら」

「――ただいまぁ。遥ちゃん、いらっしゃい」

「あ、絢子さん。お邪魔しています」


 帰ってきた絢子さんに相談して、次の日。

 絢子さんの台所でじゅうじゅうとドーナツを揚げるわたしの後ろには山盛りのおーちゃん……いつもより多い気がする。足りるかな。


「遥ちゃんのお菓子大好きねえ、あなたたち。あ、ほらそこ、前に出ない。危ないでしょ」

「やっぱ食い意地が……」


 生地を輪っかに抜くのを絢子さんに手伝ってもらって、次々と油で揚げていく。わたしのドーナツはオールドファッション。イーストを使ったパン生地のも作ったことがあるけれど、こっちの方が手軽で「お家のドーナツ」って感じがして好き。


「おーちゃんたちに囲まれて、わたしがドーナツになったみたい」

「ふふ、半円だわね」

「北沢さんが穴のとこだな」


 白く柔らかい生地をするりと油に入れると、しゅわっと気泡が取り巻く。ふんわり膨らんで、だんだん茶色く色付いて甘い香りが漂う。生地にぐるりと綺麗に入る割れ目は美味しく揚がったサイン。

 大皿に山盛り出来上がったドーナツは一人一個、どうにか数は間に合った。おーちゃんたちが満足そうにしてくれて嬉しい。嬉しいんだけど。


「ごめんね、残ったのここなの」


 輪っかのドーナツは完売でお皿に残ったのは全部、ドーナツの穴の部分。おーちゃんたちは、どうしても輪っかの方が食べたいらしい。分かるけど。あの形がいいよね。


「これでいい」


 ひょい、とつまんで口に運ぶ十和田くん。ころころと丸い、ドーナツの穴のところばかりのお皿。


「鈴カステラみたい」

「味はちゃんとドーナツ」

「ほら二人とも、お茶もね」


 それからも、時々こうしてドーナツを揚げるようになったけれど。私たちが輪っかのところを食べることは、やっぱりないのだった。


     挿絵(By みてみん)

   (イラスト:金野文さま 2枚とも)

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『Ayakashi and the Fairy Tales We Tell Ourselves』
イラスト/ Meij 先生
おとぎ書影

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