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おとぎ話の時間です  作者: 小鳩子鈴
本編

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18/32

11.5 お正月のおとぎ話

「あんらまあ、裄丈ゆきたけもぴったり」

「お母さんに似て小柄に産んじゃって悪いわね」


 おばあちゃんの家、居間の隣の和室で、お母さんとおばあちゃんに挟まれたわたしは着せ替え人形になっていた。クラスで背の順一番前を常にキープのわたしだけど、久しぶりに会ったおばあちゃんには「大っきくなったねえ」と喜ばれた……150センチ弱が大きいかどうかは置いておいて、まあ、お母さんとほぼ同じ高さにはなったし。

 それでさっきのお昼ご飯の時に、お母さんの若い頃の着物が着れるんじゃないか、という話になったのだ。


 今年のお正月は寒いけど晴れて、雪もあまり積もっていない。せっかくだから晴れ着で初詣に行こうというわけだ。お父さんとの結婚前に長いことお茶を習っていたお母さんは着物をたくさん持っている。わたしやお兄ちゃんが巣立ったらまたお茶を再開するんだ、と言って、なかなか着る機会がなくなっても大事にとっておいていた。

 あれこれと当てられて何枚目だろう、ようやく着物が決まったら今度はどの帯を合わせるかでお母さんとおばあちゃんが討論中。


「やっぱりお正月っぽい柄が」

「そうねえ、でもそれは色っコが落ち着きすぎっしょ、遥ちゃん中学生なんだから」

「んー、あ、じゃあ、あの白いのにしょうか。で、帯締めを赤いのにして」


 楽しそうな二人にされるがままのわたしには着物の知識も、口を挟む隙もない。さっきまでそこにいたおばあちゃんの家の猫も、次々広げられる布の海に流されて居間へ行ってしまった。きっと今頃は掘りごたつに潜ってるんだろうな。そんな事を思う間にも、手慣れた二人にあっという間に着付けられていく。

 毎年、夏祭りには浴衣を着たりするけど、着物はすごく久しぶり。七五三以来じゃないかな。あの時も確かこうやって、お母さんとおばあちゃんに着せてもらったんだっけ。


「っん、しょっと。どう、苦しくない?」

「ん、平気」

「どうせだったら変わり結びにしたいけど」

「上に羽織るから見えなくなるよ。普通のでいいよ」


 そうお、とお母さんは少しだけご不満そう。おばあちゃんが姿見を向けてくれて、ようやくわたしは自分の姿を見ることができた。


 柔らかいクリーム色の着物は南天の柄。艶のある織で地模様の入った帯は雪の色。伊達襟はオレンジで、帯揚げと帯締めは南天の実の朱色に寄せたのよと、楽しそうな解説を聞きながら鏡をしげしげと眺める。いつもと違う自分の姿は見慣れなくて、でもなんだか着物の特別な感じがお正月にふさわしくて少しだけ嬉しい気もした。


「あらあ、よく似合ってるよ」

「私が着てた時と随分感じが違うわ」

「そっりゃあ、遥ちゃんの方が可愛いもの」

「お母さん……」


 娘より孫の方が可愛いわぁ、と同意を求められても、おばあちゃん。答えようがありません。それにしても仲良しだな、この二人は。

 おばあちゃん家に帰ってくるとお母さんは、イントネーションにほんのり訛りが戻る。おばあちゃんに合わせて話し方も少しゆっくりになる。わたしは同じようには喋れないけど、それを聞くのは結構好きだったりする。


「羽織やショールだと寒いわね。お母さんのこれ着たらいいこと」


 自分はいつものダウンコートを着ながら、焦げ茶色のケープコートを渡された。襟と裾に同色のファーが付いていてマントみたいで可愛い。あれ、でも。


「え、もしかして着物わたしだけ?」

「遥に着せたら満足しちゃった。お母さん、自分は面倒なったわ」

「おばあちゃん、手ェ痛いしね」

「えええ、着るって言ったよね、なんかずるくない?」

「いいからいいから。お父さん起こしてきて、お参りに行こって」


 さっさと出かける支度を進めるお母さんに、笑って誤魔化されてしまった。


 大晦日、向こうに戻ったお兄ちゃんと交代でこっちに着いたお父さんは、居間の掘りごたつでお昼寝していた。うまい具合に体を斜めにして、コタツの角のところで体を伸ばしてるけど、あれ、いつか落ちそうだなって毎回思う。


「お父さん、起きて。お参り行こう」

「うー……ん……、ん、おう!?」

「おはよう。夕方なる前に行こう?」


 お父さんは寝起きとは思えない顔でわたしのことを見て、また目をパチパチさせた。わたしの後ろから来たお母さんにからかわれて、ようやくしっかり起きたみたい。


「どう、娘の成長に驚いて目が覚めたでしょ」

「……はは、びっくりした」



 車で十分のところにあるいつも行く神社はタイミングよく混雑が一段落したところだったようで、たいして並ばないでお参りもできた。ただやっぱり着物は珍しいようで、ちらちら視線を感じる。

 見られるのは慣れてないから早く帰りたかったのに、境内の前と、御神籤おみくじひいてるところをわざわざポーズ取らされて写真を撮られたのだった。


「ほら、コート脱いで帯見えるようにそこ立って。一瞬だけだから」

「寒いってば、もう。すぐに終わらせてよ、なんか注目されてるし……」

「見せたい人は他にいるものねえ」


 見せたい人? この、着物姿を?


「はーい、じゃ、コート着てもう一枚だけね」

「え、まだ撮るの……」


 誰かの顔がちょっと頭をよぎったのは、気のせいだと……思う。




 ***



「あら! あらあらまあ、ちょっとほら、見て拓海。可愛いわよ〜」

「なに」

「遥ちゃん。着物で初詣」

「……」

「似合ってるわねぇ、写真欲しい? 欲しいわよね、分かったわ、拓海のパソコンにも送っておくわ」

「何も言ってないけど」

「可愛いわぁ……プリントして飾ろうかしら。待ち受けにして隆君に見せ「それはダメだろ」




 *




「お、お母さんっ、写真、誰に送ったの?」

「んふふー、絢子さん」

「な、そ、ええ、やだ恥ずかしいっ」

「いいじゃないの〜、拓海くんも見るかもね」

「……母さん。“拓海” って誰」

「あらお父さん。ヤキモチは見苦しいわよ」

「っ、え、ちょっと、お母さん、お父さんもっ」

「はいはい、遥ちゃん。ミカン食べ、ほら」

「むぅ……(もぐもぐ)」



あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いいたします。

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英語翻訳で書籍化しました!
『Ayakashi and the Fairy Tales We Tell Ourselves』
イラスト/ Meij 先生
おとぎ書影

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