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笑い屋

作者: にへどん

「おつかれさまでした」


フロアー・ディレクタの掛け声がかかり、出演者たちが立ち上がると、スタッフや会場のお客さんに挨拶をしながらステージの袖へと消えて行った。

ヤマモトがスタジオの脇でその様子を満足げに眺めていると、プロデューサのM氏が上機嫌で彼の肩をポンと叩く。


「ヤマモトちゃん、おつかれ。おかけで、いい収録ができたよ」


「ありがとうございます。本日は特に最高のチームを提供できました。ところでご相談があるのですが、後でお時間を頂けますでしょうか」


M氏は、オッケー、じゃまた後で、と言うとステージの袖で立ち話をしていた出演者たちに、●●ちゃん、今日もよかったねぇ、と声をかけながら歩み寄っていった。


不景気の煽りを受け、テレビ局としても大規模な予算を導入しての番組制作が難しくなってきている昨今、安価でそれでいてそこそこ視聴率を取れるのがバライティ番組だったが、そうした番組自体が食傷気味なのもまた事実でる。


そんな中、ヤマモトが作り出したのが、最先端の笑い屋ビジネスだったのだ。


彼は『笑い』を徹底的に研究し、各個人ごとの『笑いの特性』を数値化し、それを組み合わせることにより、様々なニーズに合わせた笑いの空間を作り出すことに成功したのだ。


その理論にいち早く目をつけたM氏であった。彼は自分のつくるバライティ番組を全て公開放送で行い、ヤマモトのコーディネイトした笑い屋を客席に配置したのだ。 その結果スタジオ内は常に爆笑の渦で満たされ、それが電波を通じて視聴者にも伝達されていき、彼の番組の視聴率はいつも好調だった。


「ヤマモトちゃん、話ってなんだい」


番組収録語、スタジオ近くの喫茶店でヤマモトはM氏と向き合って座っていた。ヤマモトは、実はですね、と切り出し自らのプランを説明し始めた。


「私の『笑いの特性理論』を最大限に活用した『究極の笑い屋チーム』をつくらせてはいただけないでしょうか。多少、予算の増加は必要になりますが、そのチームを導入すれば、ゲスト不要のバライティー番組だって成立するはずです。そうすれば制作費用が削減され、結果的には経費削減にだって貢献できると思うのですが。。。」


M氏は少し考えたが、ヤマモトの笑い屋理論の効果を最も身近で感じているのも彼であった。しばらくして、よし試しにそれで番組を作ってみよう、ということになった。


次の月に、局アナを司会に立て、理論上最高の笑い屋チームを客席に配置して、流行のラーメン屋の情報をただ流すだけという番組を作ってみた。

なんの捻りも無い番組だったが、最高の笑い屋チームによる究極の笑いの空間があっという間に会場内を埋め尽くしていき、その結果、視聴率も他の裏番組をダントツで抜いての一位を記録したのだ。M氏は大満足だった。


こうしてM氏はヤマモトのプランを本格的に採用する事にした。その結果、ヤマモトは継続的に全国から選りすぐりの笑い屋を常に集めることができるようになった。

当初は局アナを起用しただけのシンプルな番組だったが、高視聴率の番組にギャラ無しでもいいから出演したいという、往年のスターからの希望が殺到しはじめ、若手タレントを有するプロダクションは、M氏に付け届けを支払ってまで出演させてもらうことが当たり前のように行われはじめた。


こうして番組は次第に華やかなものになり、視聴率は更に上がっていく。もちろん常に最高の笑い屋チームが導入され、スタジオ内もそしてテレビの前も爆笑の嵐だった。

こうして、M氏のテレビ局内での評価は上がり続け、彼の懐には高額の給料はもちろん、プロダクションからの付け届けも止まることなく入り続けてきた。まさにこの世の春であった。


ある夜、彼は高層マンションの最上階にある自分の部屋でワイングラスを片手に大都会の夜景を満足げに眺めていた。オレも随分ビッグになったものだ、と独り言を言いながらテレビのスイッチを入れると、彼がつくった番組が映し出された。現在、全ての番組の中で最高の視聴率を誇る番組だった。


ひな壇には往年のスターや若手タレントが座っており、皆、楽しそうに笑っていた。会場からも笑い声がこだましている、ヤマモトがコーディネイトした最高の笑い屋チーム達だ。それに導かれるように更に出演者達も笑い出す。まさに笑いが笑いを呼ぶ空間だった。


出演者たちは何を話しているのだろうか。もしかしたら何も話していないのかもしれない。だが皆、楽しそうに笑っていた。それを煽るような会場の笑い声。そしてテレビを見ていたM氏も、いつの間にか笑い始めていた。


恐らく全国のテレビの前で視聴者も皆、笑っているのだろう。窓の外に見える星のような街の灯り、それが全て笑っているかのようだった。


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