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風の王者  作者: コウモリ
プロローグ
9/9

やはり俺が正しい

「風人さん、怪人が……あれ?」

「風人ちゃんならもう行ったわよー?」


 ジームが嵐食堂に駆け込んでくる……が、裕子の一言にずっこけた。


「き、機械を改造して反応速度を早めたのに……それでも風人さんの方が先ですか……」

「自称とはいえあの子、最強最速だものねー……」






 遂に戦場は宇宙である。生身の風人はその無限の世界で、ロケットと対峙していた。

 だが、無論ただのロケットではない。生きているロケットだ。


「お前は風の使い手らしいな! 何故宇宙空間で息をしているのかは知らんが、大気の無いこの宇宙で、俺に勝てるかな?」

「貴様は一つ間違っている。俺は風の使い手ではない……俺こそが風だ。だから大気が無かろうと俺の周りには風が吹く」


 小さな竜巻が風人を包む。そして、ロケットへと突撃。


「おいおい、体当たりでこのロケット様に勝てると思うのか?」

「逆に聞こう、俺が負けると思うか?」

「当たり前だろーが!」


 ロケットも突撃を開始する。二人はぶつかり合い、大爆発を起こした。その爆発が消えたとき生存していたのは、風人のみ。


「不正解だ、ロケット野郎」


 風人はそう言い残し、その場から消えた。






「はぁ、機械の改良をしなくては……」

「まぁ待ってよジームさん、天丼でもどうですか?」

「すいません、頂きま……あれ?」


 お言葉に甘えて天丼を食べようとしたジームだったが、彼の前の丼から中身が消える。

 その犯人は、風人だ。


「うむ、旨いな」

「あぁ、私の天丼が!」

「そうよ風人ちゃん、それはジームさんのよ?」

「はしゃぐな。この天丼は俺に食べられたがっていた。まぁ当然の事だ、俺は心優しき風だからな。俺に食べられれば天丼も本望だろう」

「絶望の間違いじゃないかしら」

「少なくとも私は絶望しました」


 ジームがうなだれる。そこに、もう一杯天丼が運ばれてきた。


「すいませんジームさん、これで帳消しということで……」

「はい……」


 風人が天丼に満足し、椅子を二つ使って眠り始める。


「全く、風人ちゃんはマイペースねぇ……」

「それなのにどうしてこんなに強いのでしょうか……? 怪人の出現反応も異常なスピードですし……」


 ジームが不思議そうに風人を見る。すると、嵐食堂にパックンチが慌ててやって来た。ジームの肩の上に乗り、大声でわめく。


「大変だンチ! 機械が反応したンチ!」

「……え?」


 ジームがパックンチと風人を交互に見る。パックンチは反応があったと言うが、風人は爆睡している。


「これは、機械が風人さんを越えたという事か……いやでも、風人さんは眠っているし……でも、風人さんなら眠っていても反応はちゃんとありそうだし……」


 素直に喜べないジームは、風人の肩を揺すった。


「風人さん、怪人です! 急いでください!」

「あー……うるせぇな……。反応なんてあるわけねーだろ……」


 だが風人は起きようとしない。ジームの肩に乗ったパックンチは、ジームに言った。


「パックンチ達だけでも行くンチ!」

「はい!」


 ジームは嵐食堂を出て現場に向かった。






「ここですね……」

「そうみたいだンチ……」


 彼らが来たのはどこかの洞窟の中。ジームは、警戒心マックスで周りを見回していた。






 某県の某都市。とある廃虚の中で、虎の怪人が不気味な笑みを浮かべていた。


「ヒッヒッヒ……あの洞窟に『怪人いるいる煙幕』を張っておいたからな、今頃あの風野郎はそっちに向かってるはずだ! その間に俺は……」

「やはりそういう事だったか」

「何!?」


 背後から声がし、咄嗟に振り返る虎怪人。そこには、風人がいた。


「な、何故お前がここに!?」

「悪いが、そんなこけおどしは俺には通用しない。偽物の怪人の気配など、反応すらしなかったさ」


 一歩ずつ怪人に近付いていく風人。目の前まで来たとき、風人は右手で怪人の左肩を掴んだ。


「いわゆる……無駄骨だったな」

「くそっ! 死ね、一閃クロー!」


 怪人の爪が風人を切り裂く。だが、実際に切り裂いたのはただの残像だった。


「風より速く動けると思うな。どんなに素早く技を繰り出そうと、俺はその一歩先を行く」

「ほざけぇ! パートエンド!」


 二人のいる廃虚が大爆発を起こす。だが、それを起こした虎怪人には効果は無いらしい。


「ハーハッハ! どうだ、こういう技は避けられないだろう! さて、奴の死体をボスに……」

「ボスとやらに見せるのは、お前の死体だ」

「!?」


 またしても背後から声。振り向くと、全くもって無傷の風人が虎怪人を指差していた。


「ど、どうやって……」

「俺は風自身だ。つまり俺は、空気と一体化し、無の存在と化すことも出来る」

「な、何じゃそりゃ……お前一体、何者なんだ……?」

「俺には記憶がない。ただ一つ言えるのは、俺は風だ、という事だけだ」


 風人の右手に、風のブーメランが持たれる。風人がそれを虎怪人に向かって投げると、虎怪人は何十にも分割されて死んだ。


「俺に欠けている物があるとすれば……それは記憶だけだ」






「結局、怪人はいなかったンチ」

「でしたねぇ……機械の誤差動でしょうか……?」


 夕方、嵐食堂にパックンチとジームが帰ってくる。そして、昼間と同じ格好で寝ている風人を発見。


「呑気ですね、風人さんは……」

「ホントだンチ……」


 ため息をつく、ジームとパックンチであった。


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