やはり俺が正しい
「風人さん、怪人が……あれ?」
「風人ちゃんならもう行ったわよー?」
ジームが嵐食堂に駆け込んでくる……が、裕子の一言にずっこけた。
「き、機械を改造して反応速度を早めたのに……それでも風人さんの方が先ですか……」
「自称とはいえあの子、最強最速だものねー……」
遂に戦場は宇宙である。生身の風人はその無限の世界で、ロケットと対峙していた。
だが、無論ただのロケットではない。生きているロケットだ。
「お前は風の使い手らしいな! 何故宇宙空間で息をしているのかは知らんが、大気の無いこの宇宙で、俺に勝てるかな?」
「貴様は一つ間違っている。俺は風の使い手ではない……俺こそが風だ。だから大気が無かろうと俺の周りには風が吹く」
小さな竜巻が風人を包む。そして、ロケットへと突撃。
「おいおい、体当たりでこのロケット様に勝てると思うのか?」
「逆に聞こう、俺が負けると思うか?」
「当たり前だろーが!」
ロケットも突撃を開始する。二人はぶつかり合い、大爆発を起こした。その爆発が消えたとき生存していたのは、風人のみ。
「不正解だ、ロケット野郎」
風人はそう言い残し、その場から消えた。
「はぁ、機械の改良をしなくては……」
「まぁ待ってよジームさん、天丼でもどうですか?」
「すいません、頂きま……あれ?」
お言葉に甘えて天丼を食べようとしたジームだったが、彼の前の丼から中身が消える。
その犯人は、風人だ。
「うむ、旨いな」
「あぁ、私の天丼が!」
「そうよ風人ちゃん、それはジームさんのよ?」
「はしゃぐな。この天丼は俺に食べられたがっていた。まぁ当然の事だ、俺は心優しき風だからな。俺に食べられれば天丼も本望だろう」
「絶望の間違いじゃないかしら」
「少なくとも私は絶望しました」
ジームがうなだれる。そこに、もう一杯天丼が運ばれてきた。
「すいませんジームさん、これで帳消しということで……」
「はい……」
風人が天丼に満足し、椅子を二つ使って眠り始める。
「全く、風人ちゃんはマイペースねぇ……」
「それなのにどうしてこんなに強いのでしょうか……? 怪人の出現反応も異常なスピードですし……」
ジームが不思議そうに風人を見る。すると、嵐食堂にパックンチが慌ててやって来た。ジームの肩の上に乗り、大声でわめく。
「大変だンチ! 機械が反応したンチ!」
「……え?」
ジームがパックンチと風人を交互に見る。パックンチは反応があったと言うが、風人は爆睡している。
「これは、機械が風人さんを越えたという事か……いやでも、風人さんは眠っているし……でも、風人さんなら眠っていても反応はちゃんとありそうだし……」
素直に喜べないジームは、風人の肩を揺すった。
「風人さん、怪人です! 急いでください!」
「あー……うるせぇな……。反応なんてあるわけねーだろ……」
だが風人は起きようとしない。ジームの肩に乗ったパックンチは、ジームに言った。
「パックンチ達だけでも行くンチ!」
「はい!」
ジームは嵐食堂を出て現場に向かった。
「ここですね……」
「そうみたいだンチ……」
彼らが来たのはどこかの洞窟の中。ジームは、警戒心マックスで周りを見回していた。
某県の某都市。とある廃虚の中で、虎の怪人が不気味な笑みを浮かべていた。
「ヒッヒッヒ……あの洞窟に『怪人いるいる煙幕』を張っておいたからな、今頃あの風野郎はそっちに向かってるはずだ! その間に俺は……」
「やはりそういう事だったか」
「何!?」
背後から声がし、咄嗟に振り返る虎怪人。そこには、風人がいた。
「な、何故お前がここに!?」
「悪いが、そんなこけおどしは俺には通用しない。偽物の怪人の気配など、反応すらしなかったさ」
一歩ずつ怪人に近付いていく風人。目の前まで来たとき、風人は右手で怪人の左肩を掴んだ。
「いわゆる……無駄骨だったな」
「くそっ! 死ね、一閃クロー!」
怪人の爪が風人を切り裂く。だが、実際に切り裂いたのはただの残像だった。
「風より速く動けると思うな。どんなに素早く技を繰り出そうと、俺はその一歩先を行く」
「ほざけぇ! パートエンド!」
二人のいる廃虚が大爆発を起こす。だが、それを起こした虎怪人には効果は無いらしい。
「ハーハッハ! どうだ、こういう技は避けられないだろう! さて、奴の死体をボスに……」
「ボスとやらに見せるのは、お前の死体だ」
「!?」
またしても背後から声。振り向くと、全くもって無傷の風人が虎怪人を指差していた。
「ど、どうやって……」
「俺は風自身だ。つまり俺は、空気と一体化し、無の存在と化すことも出来る」
「な、何じゃそりゃ……お前一体、何者なんだ……?」
「俺には記憶がない。ただ一つ言えるのは、俺は風だ、という事だけだ」
風人の右手に、風のブーメランが持たれる。風人がそれを虎怪人に向かって投げると、虎怪人は何十にも分割されて死んだ。
「俺に欠けている物があるとすれば……それは記憶だけだ」
「結局、怪人はいなかったンチ」
「でしたねぇ……機械の誤差動でしょうか……?」
夕方、嵐食堂にパックンチとジームが帰ってくる。そして、昼間と同じ格好で寝ている風人を発見。
「呑気ですね、風人さんは……」
「ホントだンチ……」
ため息をつく、ジームとパックンチであった。