これからが始まり
風人が、大通りのど真ん中に出現する。幾多の車が急ブレーキをかけ、クラクションによって風人を非難する。そこに、フェニックスが走ってきた。
「いきなり出ていくなよ……それに、こんな所に立ってちゃ……」
「風は常に進むべき方向へと進む。俺が大通りのど真ん中に立つこと、それは必然だ」
「何言って……ん?」
フェニックスが、風人の足元を見る。そこは、アスファルトが盛り上がっていた。そして、風人が一歩横にずれた瞬間……
「モグラ男の登場だぁー!」
その地面からモグラ人間が現れた。風人が、モグラ男に話し掛ける。
「この俺がいるかぎり、お前達の目論みは絶対に成功しない。さて、戦いと行こうか」
「悪いな、お前達に構ってる暇はモグラ男様には無いんだよん。出でよリキッダー!」
モグラ男の開けた穴から巨大なスライムの化け物が現れる。リキッダーはドーム状になり、風人とフェニックスを閉じ込めた。
ドームの外からモグラ男の声がする。
「モグラ男様の作戦を止めたきゃ、まずはリキッダーを倒すことだな! あばよ!」
「チッ……。フェニックス、リキッダーの相手は任せたぞ」
「え、俺?」
「当然だ。俺は風、最速で敵を倒す華麗なる風だ。そしてお前の役目は、その風の通る道を開く事だ」
「俺は家来かよ……」
「違うのか?」
「あーもう良いよ。滅世禁炎之舞!」
フェニックスの右手から放たれたビームが、リキッダーの体に文字通り風穴を開ける。風が、風人が通り抜ける穴だ。
「風人、行け!」
「ああ」
風人が一瞬でその穴を通過する。その直後に穴は埋まり、ドームの中にはフェニックス一人が取り残された。
「さて、地球最強……元・地球最強の意地を見せてやるぜ! テラフレア、Z!」
フェニックス自身が巨大な火炎の球と変わり、大爆発を起こす。数秒後、火の粉が集結して再びフェニックスを作り上げた。
「どうだ!?」
フェニックスが辺りを見回すと、リキッダーは大爆発の影響でドーム状を維持できずに球体化していた。
その巨大ボールが、フェニックスに突進を図る。
「上等だ! ビッグヒートハンド!」
フェニックスの右腕が本体と分離し、巨大な火の腕となる。その手で球体を掴むと、大空へと放り投げた。
右腕を元に戻し、背中から火炎の翼を生やす。
「超熱風!」
翼を動かし、熱風をリキッダーに送る。しかし、リキッダーはガードしながら地上へと戻ってきた。そして、体の一部を飛ばしてフェニックスを攻撃する。
「そう上手くは行かないか……!」
フェニックスは次々と飛んでくる体の一部を持ち前の素早さで回避すると、一旦物陰に隠れた。
「このままじゃマズイ……何か策を……ん?」
フェニックスが自分を探すリキッダーを見つめていると、リキッダーの体内に赤く光る小さな物体があるのを発見。
「コア……か?」
フェニックスが物陰から出てリキッダーと対峙する。そして、赤いビームをコアに向けて放った。
「滅世禁炎之舞!」
だが、コアはリキッダーの体内をのらりくらりと動き、それを避けた。結局、ビームはリキッダーに穴を開けるに留まる。だが勿論、その穴はすぐに埋まった。
「大事なものらしいな、その赤いのは! 無くなったらどうなるんだ? サーカスフレア!」
炎が渦巻きながらリキッダーに襲い掛かる。炎はリキッダーの体内に潜り込み、コアを締め付けた。
「もう逃げられないぜ……滅世禁炎之舞!」
ビームがコアを貫く。コアは跡形もなく消え去り、リキッダーの体はただの水へと戻った。
「っしゃあ! どんなもんだ!」
モグラ男は、とある場所へ向かっていた。
「国会議事堂へ行こーう! 国会議事堂へ行こーう! 首相さーんを、ぶちのめそーう!」
「させるか!」
「な、何だって!?」
目の前に風人が現れ、モグラ男を阻む。
「り、リキッダーはどうした!?」
「俺の部下が相手をしている。あんな使い魔ごとき、俺の力を使うまでもない」
「俺に構わず先に行け! ってヤツかなー? その部下、死ぬんじゃない?」
「馬鹿を言うな。奴は今、風上にいる。俺という最強の風の部下だからな。そしてリキッダーは風下だ。リキッダーだけではない。貴様も、貴様の仲間も、俺に逆らう者は全て風下の存在だ。そして俺という向かい風に誰も逆らうことは出来ない」
「たわけ! ドリル突進!」
「疾風砲!」
自身の体を回転させながら飛んできたモグラ男に、風人は強風をぶつける。するとモグラ男は、後方へと吹き飛ばされた。
「な……に……?」
「言っただろう。俺という向かい風に誰も逆らうことは出来ない」
「て、てっきり比喩かと……!」
「俺が言うことに比喩も何もない。全て現実に起こる事だ」
一歩一歩モグラ男に近付いていく風人。モグラ男は危険を察知して地中に潜り込んだ。
「逃げたか……だが、無意味な行為だ。地中すらも……」
モグラ男の掘った穴に片手を突っ込み、強風を送る。
「地中すらも、俺の領域だ」
「ぼふっ!」
風人の真後ろからモグラ男が飛び出てくる。
「奇襲でもするつもりだったか? 馬鹿め、風を欺ける訳がないだろう。風は全て見ている。世界の最果てすらも、風は吹くのだ」
「降参降参! もう無理!」
「諦める……か。その潔さは誉め称えよう」
「じゃ、じゃあ……」
「あぁ」
風人が優しさに満ち満ちた顔をして、右手に風を集める。モグラ男の表情が、喜びから恐怖へ変わる。
「楽に殺してやろう。風刃」
右手が風の刀に姿を帰る。それをモグラ男の前で振ると、音もなくモグラ男の首は落ちた。
「土に還れ。真の意味でな」
そこにフェニックスがやって来る。
「モグラ男、倒したのか?」
「当然だ。お前も、予想以上に早くリキッダーを倒したではないか」
「元・地球最強も伊達じゃないんだよ。帰ろうぜ」
「風の前を歩くな。俺の道を開くという役目を持つお前が、何故俺の道に立ちふさがる?」
「……あいよ」
フェニックスが風人の背後に回る。すると風人は、鼻で笑って言った。
「それで良い。これが、俺とお前のあり方だ」
「はいはい……って、完全に主従関係じゃねぇか!」
「違うのか?」
「違うだろ! 公正な取引だろ!? 対等な関係だろ!?」
「馬鹿を言え……俺は風、お前は炎。かき消されないだけマシだと思え」
「あぁもうムカつくぅぅぅぅぅ!」
駄々をこねながらも、風人にしっかりついていくフェニックスであった。