早い再会
風人と別れたフェニックスは、仲間のいる基地へと帰った。
「あ、フェニックスが帰ってきたンチ」
出迎えたのは芋虫のパックンチ。フェニックスはパックンチを肩に乗せると、廊下を歩いていく。
「戦いはどうだったンチ?」
「それがな、全然歯が立たなかったんだ」
「……は?」
パックンチが目を丸くする。フェニックスは、自他共に認める地球最強だ。その彼が惨敗など、信じられることではない。
「な、何かの冗談かンチ? フェニックスが負けるなんて……」
「いや、マジだ。鳥人間に俺は、全く歯が立たなかった」
「そんな……。その鳥人間は今どこに……?」
「倒された」
「え? フェニックス、惨敗したって……」
「だから、その鳥人間を倒してくれた奴がいるんだよ。名前は……一応、風人というらしい」
パックンチ、絶句。
当然だ。地球最強に勝てない敵が現れたと思ったら、その敵を倒す者が現れた。ほんのわずかな時間で、最強が二度塗り替えられたのだ。
「ちょ、ちょっと頭がクラクラしてきたンチ……。向こうで休んでくるンチ」
「そんな暇は無いぜ、パックンチ。俺が戦っても勝てない以上、今は風人に頼るしかねぇ。……あ、勿論俺だって、もっと強くなって敵と戦えるようにはなるつもりだけどな? でも今は、風人を探さないと」
一つの部屋のドアを開け、フェニックスは青年の名を呼んだ。
「ジーム、いるか?」
「お呼びですか、フェニックス様」
「至急、探してほしい奴がいる。俺と同い年くらいで、記憶喪失だが風人と名乗っている」
「フェニックス様と同い年なら高校生くらいですね。分かりました、全力をもって探します」
ジームと呼ばれた青年が、巨大なコンピューターを前に何やら操作を始める。フェニックスはその部屋を去る際、風人の言葉を思い出していた。
『風を掴むことなど誰にも出来ない』
「風人……。頼むから掴まれてくれ……」
その頃、当の風人はと言うと。
「…………」
「あら、風人ちゃん、いらっしゃい」
「いつものだ」
「どうも」
ここは彼の行き付けの定食屋、嵐食堂である。嵐のように美味いから嵐食堂だ、と、ここの若き女性店長である岬 裕子は語る。
しばらくして、風人の座る席の前に天丼が置かれた。
「ふむ、今日も良い出来映えだ」
「ありがと。でも風人ちゃん、平日の真っ昼間に街中うろつかない方が良いよ? 風人ちゃんの年齢ならまだ高校生なんだから」
「俺は高校には行っていない。何故なら、風を束縛するものなど何も……」
「はーいはいはい。でも普通の少年少女は風人ちゃんと違って高校に行ってるんだからさ。少しは家で大人しく……」
「俺に帰る家などない。何故なら、俺は常に旅を続ける風……」
「そうですか」
風人と裕子が同時にため息をつく。そして、同時に笑みを浮かべる。
裕子は、風人のペースに巻き込まれずに会話できる数少ないうちの一人だ。それはつまり、風人を熟知しているという事でもある。
風人にとって裕子は、良き理解者であった。
「ごちそうさま。またいつか来よう」
「その時は、今までの代金払ってくれるかしら?」
「タダじゃ……無かったのか?」
風人が目を丸くする。
「なーに驚愕してるのよ。ツケよツケ。因みに今、3万円は溜まってるから」
「か、風は金など持たない。そもそも風こそが世界、つまり俺こそが世界だ。世界が天丼を食べようとそこに損も得も無く……」
「何言ってるかハチャメチャよ。御託は良いから払ってね?」
「……はい」
先程の言葉に付け加えをしよう。
裕子は風人のペースに巻き込まれないだけでなく、逆に風人を自分のペースに巻き込む事すら出来る者である。
嵐食堂を出た風人。その横顔に、風が吹き付けた。
「……出たな」
風人が指を鳴らすと、風人の体はその場から消えた。
フェニックスのいる基地。
「フェニックス様! 風人なる少年は発見出来ませんでしたが、強い邪悪な反応が!」
「鳥人間の仲間か……? くそっ、これから特訓しようって時に……!」
トレーニングルームに入ろうとしたフェニックスだったが、引き返し、ジームの言った現場へと超特急で向かう。向かった先は、海だった。
火炎の翼で飛びながら、真下の海を眺める。
「水中かよ……! 苦手分野だぜ……ん?」
フェニックスがふいに右を見ると、腕を組んで宙に浮く風人を発見。風人は、何の迷いもなく海に飛び込んだ。
「あ、おい! マジかよ!」
フェニックスが舌打ちをする。火炎の翼を消すと、息を大きく吸い込んで海に飛び込んだ。
スキューバダイビングをしていた青年の前に、突然、魚人が現れた。
「うわあああ!?」
「お前からだ! くらえ、ウロコバレッ……」
「させるか!」
風人が青年と魚人の間に出現、魚人を蹴り飛ばす。そこに遅れてフェニックスが現れた。
「さぁ、早く逃げ……がぼぼぼぼ……」
「フェニックス、何やってんだお前?」
「がぼぼぼぼ(俺、エラがないから水中呼吸出来ないの忘れてた。て言うか風人は何で息できてんだよ?)」
「何度も言わせるな……俺こそが風だ。水中だろうと宇宙空間だろうと、俺には酸素など無限に等しい。良いからお前はその青年を連れて海から出ろ」
「がぼー(ラジャー)」
フェニックスが青年と海を出る。風人はそれを確認すると、こちらにやってくる魚人を睨んだ。
「お前、金は持っているか?」
「……は?」
「3万円だ」
「ば、馬鹿、地球の金なんて持ってるわけねーだろ!」
「……そうか。残念だ」
「何言ってんだコイツ……。まぁ良い、言っとくが俺は鳥人間みたいには行かないぜ? くらえ、ウロコバレット!」
「貴様らにはそれしかないのか……アタックシフト!」
風人がそう叫ぶと、風人に向かっていた無数のウロコが反転、魚人に向かう。
「な、何だ!? ウロコバレット!」
それを更にウロコで相殺した魚人。だが、彼の体にはもうウロコは残っていなかった。
「し、しまった!」
「阿呆が。……いや、阿呆ではなく馬鹿だな。馬鹿の一つ覚えというからな……」
「違うわッ! 他に技くらいいくらでも……」
「あるなら早く出してみろ」
「え? あ……いや、今は出来ないっていうか……」
「そうか、無いんだな。金も持っていなければ技も一つのみ。心底呆れたよ」
「ほざけ……」
「上昇気流」
魚人が真上に吹っ飛び、海を出る。そこに風人が瞬間移動で出現、魚人に膝蹴りを入れた。更に上へ、空へと飛んでいく魚人。
「これで終わりだ。八方風槍」
その名の通り、魚人に向けて八方から風の槍が放たれる。それらは全て魚人を貫き、魚人はただの死体となって海に落ち、沈んでいった。